表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/8

翻弄

休日はたまに大型書店へ行く。

ここの書店は珍しい本がたくさん置いてあるので、一日中いても飽きないくらいだ。

それに、カフェも併設されていて、どうぞ長居をしてくださいと言っているようなものだ。

図書館のような、それよりももう少し賑やかなこの空間が、有希は好きだった。

今日もふらふら当てもなく本を物色する。


気になる本があって手を伸ばすと、微妙に取れない高さだった。

取れないなら、まあいいかと思っていると、背後から


「取ってやろうか?」


と声を掛けられた。

振り向くと和泉が立っている。

ああ、前にもこんなようなことが会社であったなぁと思い出す。

私服の和泉は、職場で見る和泉とはまた違ったかっこよさだった。

ぼんやり見とれていると「どうした?」と声を掛けられ、はっとする。


「大丈夫です。ありがとうございます。こんなところで和泉課長に出会うとは思ってなくて、ちょっとびっくりしました。」

「ここは珍しい本が置いてあるからな。」

「よく来るんですか?」

「ああ。」


まさか休日に出会えるとは思わず、有希は嬉しさで浮き足立ってしまう。

しかも、和泉も有希と同じ理由でこの本屋に通っているらしい。

二人はしばし、本の話題で盛り上がった。


「岡崎はこの後予定は?」

「特にないです。」

「では一緒にカフェにいかないか?」


突然の誘いに有希は二つ返事で頷く。

和泉課長とカフェ。

まるでデートみたい。

嬉しくて自然と笑顔になってしまう。


和泉はコーヒー、有希はココアを頼んだ。

セルフサービスなのでレジで注文して、好きな席へ運ぶ。

有希の分を和泉が払ってくれたので、飲み物は有希が運んだ。


「すみません、私の分まで払っていただいて。」


お礼を言うと、和泉はふっと微笑む。

それがなんとも優しくて、有希は嬉しくて頬をピンクに染めた。


「仕事はどうだ?急に異動させてすまなかったな。」

「いえ、大丈夫です。」


そういえば、有希を指名したのは和泉だという総務課長の言葉を思い出す。

聞いてもいいのだろうか?


「あの…和泉課長が私を指名したと聞いたのですが…。」


勇気を出して聞いたら、「ああ」といとも簡単に返事が返ってきた。


「えっと…なぜ私を?」


コーヒーを飲んでいた和泉の手が止まる。

そっとコーヒーカップを置くと、有希をじっと見据えて言った。


「お前が好きだから手元に置きたいと思った。せっかく課長になったんだから、今こそ権限を使うべきだろう?」


さらりと言う和泉に、有希は一気に体温が上がった。

待って待って待って!

今好きだって言わなかった?

ど、どういうこと?


「…それは部下として…ですよね?」


恐る恐る聞いたのに、すぐさま否定される。

有希は鼓動が抑えられず、真っ赤になった頬を両手で覆った。


何だろうこれは。

こ、告白?

ど、どういうことなのー?


突然の出来事に頭の処理が追い付かない。

当の和泉は、何でもなかったかのようにコーヒーを飲んでいる。


「あ、あの、和泉課長…。」


かろうじて絞り出した言葉に被せて、


「ところで、役職で呼ぶのは社内だけにしてもらえないだろうか?」

「へっ?」


すっとんきょうな声が出てしまう。


「課長と呼ぶのは会社にいるときだけにしてくれ。外では恥ずかしい。」


いやいや、恥ずかしがるのそこじゃないですよね?

い、和泉課長~!

有希はもう、何が何だかわからず、とにかく火照った顔をどうにかしたかった。

したかったのに…。


「有希?」


和泉に名前で呼ばれて、有希は撃沈した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ