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香水

有希の人事部で任された仕事は、主に庶務業務だ。

人事部の庶務担当者が妊娠をし、悪阻がひどく産休を待たずして長期休暇に入ったとのことだった。

あまりきちんとした引き継ぎもなく、総務部での経験を駆使しながら手探り状態だ。

人事部は意外と外出する仕事が多い。

有希はフロアにひとりぽつんと残されることも多かった。

当然、和泉も外出している。


人事部加勢への初日、和泉に挨拶をした。


「今日からお世話になります、岡崎有希です。よろしくお願いします。」

「ああ、よろしく。」


ドキドキしながら言ったのに、和泉の反応は冷たかった。

チラリと有希を見ただけで、淡々と返事をする。

皆が言う「怖い」とか「無愛想」とか、ちょっとわかった気がした。

この分だとやはり有希のことも覚えていなさそうだ。

少しは期待していたけど、仕方ないよね。

和泉の近くに来れただけで万々歳だ。

これから覚えてもらえばいい。

有希はそう自分を納得させた。


人事部は資料が多い。

背の高いキャビネットを開けると、上段に探しているファイルがあった。

手を伸ばすと何とか届く。

届くのだが、ファイルが厚いし奥まっているしでどうにも取り出せそうになかった。

脚立や踏み台はないのかとフロアをうろうろしていると、背後から声を掛けられた。


「どうした?」


びっくりして振り向くと、外出からちょうど戻ってきた和泉だった。


「すみませんが、脚立はありませんか?ファイルを取りたいのですが…。」


有希が手を伸ばしてこれだと示す。

ふいに有希の目の前に和泉が来たかと思うと、ひょいとファイルを取ってくれた。


「あ、ありがとうございます。」


慌ててお礼を言うと、和泉はふっと口元を緩めて微笑み、有希の頭をポンポンと撫でた。

そしてさっさと自席へ戻って行く。


有希はファイルを抱えたまま、胸のドキドキが止められないでいた。

あの時と同じ。

そう、初めて出会った面接の時と同じ様に、わずかに微笑んで有希の頭をポンポンと撫でてくれた。

やっぱり和泉課長は優しい。

有希は嬉しくてファイルを抱きしめた。


それに…。

触れそうなくらい近づいた時、和泉からほのかにいい香りがした。

それはとても控え目ながらも大人っぽい香水の香りで、有希はクラクラして早くなる鼓動をしばらく止めることができなかった。


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