(8)
そうして彼女から逃げてる間に頭の中でまとめたことを――私が彼女に自分を重ねていたことを、それが否定されたのが我慢ならなかったことを──体育祭終わりの放課後、学校近くの公園で二人きりになって話した。
「あなたのためとかそういうのは少しもないの。あったのはただの自己満足。それだけよ」
言って、苦笑いを浮かべる。
「…………」
その言葉に無言になる彼女に、私は話題を変えるためにもと、彼女にある疑問をぶつける。
「それにしても、よく私を見つけたね」
「それは……だって、体育祭で、皆の前で走ってたから」
「それもそっか」
「……わたし、あなたのこと、何も知りませんでした」
その言葉遣いは、どこか迷っているようでもある。
……それも当然か。
トレーニングルームで話していた時は、まだ私のことを知らなかったのだから。
「いっつも沢山話しているつもり、でしたけど……話させてもらってるだけだったんだな、って……あなたがいなくなって、やっと気付きました」
あそこでの会話は全て、私が話しかけ、彼女が答えるものばかり。
携帯電話のロックナンバーを好きな人の誕生日にしてしまう彼女のことを私は知っているけれど、彼女は私の携帯がどういったものかすらも知らない。
彼女からの質問は無かったし、何なら二人で黙々と、私が作った彼女に合った筋トレメニューに精を出しているだけの日すらもあった。
「だってわたし……あなたの名前も、あなたの学年も、知らなかった」
それは、自分の薄情さを責めるような言葉にも聞こえた。
「あんなに沢山話してたのに、部活に来なくなったあなたを寂しがるだけで、最初は自分から探そうとしなかった。大会が近づいて、やっと勇気を出して部長に聞いて、あなたが辞めたことを知った。でもそこまでで、あなたが何年生なのかも聞けなかった。だから自分で探そうとした。同学年だと思って。全クラス確認して」
でも、いなかった。
だって私は、彼女よりも上の学年だったから。
私自身の背の低さや馴れ馴れしさから、勝手に同学年だと思っていたのだろう。
でもきっと、彼女にとってはその全クラスの確認すらも、かなりの勇気が必要だったに違いない。
いつも話していた感じで分かる。
彼女は本当に、他人が苦手なのだ。
「でも今日、走っているのを見て……やっと分かった。分かりました」
「言い直さなくても良いよ。昔と一緒で」
「でも……あなたは、今年の卒業生じゃないですか……!」
苦しそうに言ってくるその姿は、私との関係があと数ヶ月しかないことを悲しんでいるようにも見える。
……まあ、実際は違うのだろうけれど。
なんて、そんな自分勝手な願望めいた考えに思わず笑みを浮かべながら、私は言った。
「だとしても、今はあの部活の時と同じ感じでお願いしたいな。少しだけ話もしたいし」