21.いざ火竜のダンジョンへ! 注意事項。怖いドラゴンには注意しましょう。極力奥には入らないようにしましょう!
ダンジョン地下一階を進むデヴィッドたち。
「想像よりも熱いわね……」
真夏の炎天下を超える暑さの中、ジュリエッタが額に汗を浮かべていた。彼女だけではない、アンジュリカもデヴィッドも同じだった。
「火竜の魔力のせいで一年中この暑さらいしよ」
「真冬なら嬉しいけど、まだ夏が終わったばかりのこの時期だとただ辛いだけよね」
「ははは、違いない」
このような軽口を言い合うことができるのは未だモンスターとの戦闘がないからだ。
デヴィッドは周辺にモンスターの気配がないのはすらいちゃんのおかげではないかと考えている。戦闘がないことはいいのだが、不安もある。ドラゴンがすらいちゃんに怯えて寄ってこない場合も考えられるのだ。
先日の魔狼レベルなら襲ってくるかもしれない。ドラゴンにも強弱はあり、幼い個体なら戦闘力のある魔法使いや騎士が単身で倒すことも不可能ではない。
実際、そのくらいのドラゴンでなければ今回相手にしたくないのも事実なのだが、すらいちゃんに怯えて姿を隠されてしまっては元の子もない。
「ダンジョンに入ってからまだ一度もモンスターが出てこないわね」
「そうですわね。目的の火竜意外と戦闘しないことはありがたいのですが……」
少女二人もダンジョン内にもかかわらずモンスターと遭遇しないことをおかしいと思っているのだ。
目的はダンジョンの奥に進むことではないが、魔法石や火傷に効く植物も見つけていないため地下二階に降りることにした。
「奥に進めば進むほど暑さが増すのかしら……」
地下二階は地下一階よりも暑さが増していた。服越しにも関わらず肌が焼かれてしまいそうな熱が襲いかかってくる。
すでに火竜と戦闘をしている気分になってしまうデヴィッドの視界の先に、不自然に開けた場所を見つけた。
「あれは?」
「どうかなさいましたか?」
「水が湧いているんだ。少しだけ休憩しよう」
反対の声はなかった。すでに一時間以上探索を続けているため、小休憩がほしいと思っていたのだろう。
ダンジョン内では普通休むことは難しいのだが、どういう理屈かモンスターに怯えることなく体を休める場所が内部に存在している。
水場に足を進めたデヴィッドは、この場が安全な場所だと確信した。
「うわー、ここは涼しいのね」
「お水も冷たくて気持ちいいですわ」
「魚までいるじゃない。ダンジョンの中なのに、まるで川辺にいるみたいな気分になるわね」
彼女たちの言う通り、水場の周辺は温度が違った。暑いには暑いがせいぜい夏の夜程度だ。赤茶色のダンジョン内の中で、この場だけが緑と青に覆われており、まるで大きな池と思われる水場の中心には力強い魔力を感じ取ることもできた。
「ね、ねえ、デヴィッド! あれ、火傷に効くっていう植物じゃない!」
「どれどれ、ああ、これだこれ。なるほど、ダンジョン内に生息しているんじゃなくて、ダンジョンの中のこういう一角に生えているんだね」
本命ではないが探し物を見つけてジュリエッタは嬉しそうに採取をはじめた。
一時間以上ダンジョンにいるにも関わらずなにも実りがなかったこともあり、その喜びようは大きい。
「わたくしも手伝いますわ。あまり取り過ぎてはいけませんよ」
必要な物を必要な分だけ採取する。これが正しいありかただ。
売買を目的にするのなら目にはいる限りすべてを持ち帰ってしまう場合もあるのだが、あまりマナーがいい行動ではない。
とくに危険が大きいダンジョンでは同じような目的で訪れる人たちのために残しておくのが冒険者の心意気だ。取りつくしてしまうと二度と手に入れられない場合もあるため、自分のためにも必要分を手に入れるだけにしておくのが好ましい。
十分ほどかけて三人がかりで火傷に効く植物を手に入れた。
「はぁ……暑さのせいで体力がだいぶ奪われたわね。少しだけ水の中に入ってもいいかしら」
「うーん。大丈夫だとは思うけど、足をつけるくらいにしておいてほしいな。万が一もあるし」
「わかったわ。いきましょう、アン、すらいちゃん!」
「わたくしは遠慮いしておきますわ。冷たい水に浸かったらいつまでもそうしていたいと思ってしまいますもの」
そう苦笑いを浮かべる親友に、少し残念そうな顔をするとジュリエッタはすらいちゃんを抱きかかえて、靴を脱ぎ水の中へ進んでいく。
「ジュリーが元気になってくれてよかったですわ」
「火竜の血じゃないけど、火傷に効く植物を見つけられたからね」
「ええ。実は――昨晩は不安になっていたのです。なにも成果がなかったらどうしよう、と不安になるジュリーをどう慰めていいのかわからず、気づけば時間だけが過ぎていました」
気持ちはわからなくもない。姉のために最善のことをしようとしているが、ダンジョンで火竜に挑むのだ。不安がないほうがおかしい。なによりもジュリエッタはダンジョンで死にかけている。恐怖もあっただろう。
「ですがデヴィッドさんと一緒にダンジョンに入ると不安が消えていたので驚きました。あの子は、とても貴方を信頼しているのですね」
「そうだと嬉しいよ」
「ええ、間違いなくそうですわ。きっとデヴィッドさんが誠実にジュリーと向きあってくれているおかげなのだと思います」
どうもくすぐったく思えてならない。自分はそんなことを意識してジュリエッタと接しているわけではないのだ。
スライムと水辺ではしゃぐ親友に、慈しみの瞳を向けていたアンジュリカは、デヴィッドに体ごと顔を向けると深く頭を下げた。
「ですから謝罪させてください」
「ちょっと――」
急に謝られて驚くデヴィッド。
今まで会話のどこに謝罪が必要だったのかわからず、目を白黒させる。
「わたくし、実はデヴィッドさんのことを警戒していたのです」




