18.いざ火竜のダンジョンへ。ジュリエッタとアンジュリカのそれぞれの理由を知ったので、彼女たちの力になろうと決意しました。
ジュリエッタとの再会と冒険者として雇われることが決まってから四日が経った今日、デヴィッドとすらいちゃんは再び王立魔法学校を訪れていた。
「おはよう、デヴィッド。すらいちゃん!」
元気な声と笑顔で迎えてくれたジュリエッタにひとりと一匹は挨拶を返す。
昨日、彼女から親を説得したと直接連絡を受けたデヴィッドは、今日のために半日掛りで支度を済ませ今日に臨んでいた。
よくも立った三日でダンジョンで死にかけた娘が心配する両親を説得できたものだと感心する。
どのような話をしたのか聞くほど野暮ではない。出会ったばかりの少女の家庭事情に口を出すつもりもなかった。
「火竜のダンジョンまでパパの部下が送ってくれることになったよ」
「えっと、お父さんの部下……めちゃくちゃ厳重な装備をしているんだけど、俺必要だった?」
騎士団もびっくりな装備に身を包んだ方々がざっと十人。男女ともに歴戦の強者という雰囲気を醸し出している。そんな彼らと一緒に、見た目は最弱モンスターと駆け出し冒険者が一緒に行動するというのはなんともバランスが悪いなとつい苦笑いが漏れる。
「もちろん必要だわ。だって、パパの部下はダンジョンには入らないから」
「――どうして?」
デヴィッドの驚きは無理もないものだった。間違いなく戦力である騎士たちをダンジョンに入れさせないというのはおかしのはなしだ。
「大きな声じゃ言えないけど、やっぱり信用できないの。私はどうしても火竜の血がほしいわ。でもね、あの人たちは私になにかあれば引きずってでも王都に連れて戻るつもりよ。それじゃだめなの」
言いたいことはわかるが、賛成はできない。どちらかといえばデヴィッドは護衛をつけた両親側だ。
娘に無理をしてほしくない両親の気持ちのほうが理解できるし、賛成もできる。
ジュリエッタが姉のために火竜の血を手に入れたい気持ちもわからないではないが、なにかあれば助けたい姉を悲しませることになるのだと彼女は気づいているのだろうか。
だが、そう指摘していいのか迷う。ジュリエッタには聡明なアンジュリカという親友がいる。親友同士を大切に想いあっている二人が、万が一を考えないはずがない。ならばその上で覚悟してダンジョンへ挑むのだ。
友人でもなく、ただ一度ダンジョンで助けただけのデヴィッドは雇われた冒険者として仕事に徹するべきだ、と自分に言い聞かせることにする。もしも友人として忠告するなれば――ダンジョンに挑むのはまだ早いと言っていただろう。
「そういえばアンジェリカもくるんだよね。彼女はどうしてるの?」
「準備を終えたから荷物を運んでいるわ。予想外に荷物が多くて……そういう意味ではパパがつけてくれた護衛も荷物運びにちょうどよかったわね」
「君のお父さんだって心配なんだよ」
「それは、わかっているけど、じゃあいつになったら心配されなくなるの? 十日経てばいいの? それとも一ヶ月? いいえ、きっとあんなことがあったらずっと私は心配されてばかりよ」
きっとそうだろう。ダンジョンで死にかけたことで両親の心配が目に入るようになっただけで、今までだってずっとジュリエッタの身を案じていたはずだ。
「ごめん、少しムキになっちゃったわ。でもね、これは私自身のためなの」
「ジュリエッタ?」
「あのね、デヴィッドとすらいちゃんだけに言うけど、本当はダンジョンに行くのが怖いの」
「無理もないよ。あんなことがあったんだ」
「ぴぃ……」
小刻みに少女の体が震えていることにデヴィッドとすらいちゃんは気づく。
「だからっていつまでも怯えているわけにはいかないの。私にはお姉さまを治さなければならない義務があるんだから」
――義務。その言葉を発したジュリエッタの表情は今にも泣きそうなものだった。
ただ家族が怪我をしているから治したい――それだけではないのだと察することができた。
「あのさ、家庭の事情に踏み込むつもりはなかったんだけど、火竜の血を手に入れたいってことはお姉さんの怪我って――重度の火傷だよね」
「……うん。私のせいでお姉さまは――」
「言い辛いなら言わなくてもいいんだよ」
しかし、ジュリエッタは首を横に振った。
「聞いてほしいの。三年前、魔法を覚えた私は得意になって使ったわ。家族の中で私だけが魔法使いとしての才能があったから、周りからもちやほやされていい気になっていたの。でもね、それがいけなかったわ。慢心していた私は、あろうことかお姉さまの前で魔法を使い――失敗したわ」
強く唇を噛む少女から、ひしひしと後悔が伝わってくる。
「私のせいでお姉さまの顔に酷い火傷が……。何度も謝って、後悔もたくさんしたわ。優しいお姉さまは気にしていないと言ってくれたけど、鏡を見る度に涙を流している姿を目にしては過去の自分を殴りたくなったわ」
姉の優しさにジュリエッタは苦しむことになった。
姉に赦されてもジュリエッタ自身が己を赦せない。姉が自分のせいで負った火傷を見て泣いていればなおさらだ。
「明るく振る舞っていたお姉さまも時間が経つにつれて、学校に通わなくなり、今ではもう部屋からも出てこないの。部屋を訪ねれば無理をして会ってくれるけど、いつか私のことを恨むんじゃないかって――」
「ジュリエッタ……」
「ぴぃぃ……」
「ううん。きっともう恨まれているわ。お姉さまの綺麗なお顔を傷つけてしまったんだから。だからお姉さまの元の顔を取り戻してあげるの。そして謝るの。ごめんなさいって、何度も何度も謝って、本当に許してもらえるまで――」
きっとお姉さんは恨んでいないはずだ。ジュリエッタ自身がしてしまったことを責めるため、姉に恨まれていると言い聞かせているのだ。
おそらく、彼女が本当に自分を赦せるのは――姉の火傷を治したときだ。
――雇われ冒険者として徹するつもりだったのに、頬っておけないや。
不器用な少女のために、たいした力など持っていないけど精一杯のことをしてあげたい。デヴィッドは強く決意した。




