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第捌種接近遭遇ガールミーツビースト - 1

寒い寒いと、ここにまで霜がおりたみたいに錯覚する鼻を擦りながら店に入れば、目標捕捉!とばかりに、一目散に床を転がって駆け寄ってくる、ちっこい毛玉があった。なにせ場所が場所なので、京さんの管理下だし安全と分かっていても一瞬ぎょっとする。監視の隙をついて、なんか危ない奴が襲ってきたのかと。

が、激突するように足元でブレーキをかけたそいつの姿を確認して、私は別の意味で驚きに叫んだ。


「なんで犬が!?」

「動物も、物という字が付く事には違いありませんので」

「ひっどーい! そういう考え方ってどーかと思います!」


手頃かつ絶好のまとわりつく対象を見付けた事に大喜びで、靴の周りをころころしている子犬を抱き上げると、離れたレジカウンター向こうの京さんに、両手で突きつけるようにしながら私は言った。京さんに物呼ばわりされ、私の大声を間近で聞き、いきなり掴まれて空中に持ち上げられた子犬は、とりあえず嬉しそうである。

抗議の声なんて何処吹く風で、京さんは子犬越しに私を見ながら澄まして言った。


「わたくしに、人間の倫理観や価値観を説かれても困ります。まあ、物というのは言葉のアヤでございますよ。強い想いを抱えるならば、当店へ流れ着く事もございましょう」

「手広いんですねー……」


私はひとまず憤慨を引っ込めて、ついでに子犬も引っ込めた。

うーん、胸元の子犬から漂ってくる湿った毛玉の匂い。

雨にでも濡れたのかな。あと店に来るまでに暫く外をうろついていたみたいで、足の周りが黒く汚れている。シチュエーションからして、迷い犬だと思われる。真新しい首輪を見るに、何かの拍子に逃げたのだろう。他は健康そうだった。そして落ち着きが無ければ、人見知りする様子も全くない。正面から眺めてみれば、なんというか、貧相なんだけど愛嬌のある顔をしている。これは愛されるタイプの雑種と見た。

頻りに鼻と唇を舐めようと身を乗り出してくる子犬から顔を離して、それで、と私は京さんに聞いた。


「たぶん、これも依頼なんですよね?

まさか歩く非常食とか言い出しませんよね」

「むしろ自分で移動してくれる携帯食と表現すべきでしょう」

「………………」

「冗談でございます、大丈夫ですよそのように隠さなくても。

問いに対する答えであれば、然様でございます。引き受けられますかな?」

「やります。このままにしといて食料にされても寝覚め悪いんで」


ジト目のまま子犬を庇ってじりじり後退する私に向かい、ひょい、と京さんが手招きをした。あっと思う間もなく子犬が私の手から離れて、ふわふわとレジへ飛んでいく。ぶりぶりに太った子犬がお尻ごとシッポを振りながら宙を舞う姿は、激しく写メりたい衝動に駆られた。

やがて、カウンターに到着。着陸も無事成功。

ぴ、といつものように京さんがバーコードリーダーを当てた。子犬の頭に。

……えっと、どこから突っ込めばいいのこれ。

そしてちゃんと吐き出されていくレシート。なんか……見てはいけない光景を見た気になる。

当の子犬はといえば、リーダーが額に当たる感覚が面白いのか、カウンターの上で身を左右にくねらせ中。幸せな生き物である。皆こう生きられたら平和だろうなぁとは思うが、本当にそうなったら1年で人類が滅亡する。絶対、面白半分で変なスイッチ押す奴が出る。いっぱい。


「こちらでございますね」


何事もなかったように、千切ったレシートを手渡してくる京さん。平常心ここに極まれり。真っ先に見る事にしているお願いの欄には「あそんで。ごはん。ねむい」と書いてあった。帰りたいじゃないんかい!と思わずツッコミを入れる形に繰り出した掌を、すかさず子犬がべろべろ舐める。あのー、この3つの願いは現段階で充分に満たされている気がしてならないのは私だけなんでしょうか。

気を取り直して、次に目的地の確認。

割とどころか、かなり近所だった。今まででトップクラスの近さかもしれない。行こうと思えば今からでも行ける距離だけど、ただ戻る時間まで含めるとちょっと予定オーバーしてしまう。ちょうど休みだし、やっぱり明日行くのが妥当かも。


「……それだと、これ、どうしましょう?」


そう、明日連れていくのはいいとして、私は基本、好きな時にコンビニに入れない。こちらに来ようとしてカウンターから落下しそうになっている子犬を掌で押し留めながら、首を捻る。

というかキミも少しは危険性を認識したらどうですか、さっきから余計な事ばかりに情熱を燃やしてないで。猫の三次元構造への理解力を、せめて半分程度は見習って頂きたい。


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