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第伍種接近遭遇ユーズドバイク - 4

「……という訳で。

次くらいには、なんとかなりそうですよ」


レジカウンターに頬杖をつきながら、私は京さんへ経過報告を終えた。

今夜は珍しく店内の気配が濃い。といっても私の他に3人だけなんだけど、入店早々「おっ、客がいる」と、思わず目を見張ってしまった。考えてみればだいぶ失礼である。私のそんな反応に、こちらを見た京さんがすっと無言で眼鏡を押し上げた。すいませんごめんなさい。

と、幾らか損ねてしまったっぽい京さんの機嫌だったが、話が進むにつれて直っていってくれたようだ。ていうか、物腰あくまで上品かつ紳士的に拗ねるのやめてください。


「お時間は、幾らかかっても結構でございます。

良きご報告を期待しておりますよ、都様。此度もまた優れた手腕を発揮なされたようで」

「いえいえ、私なにもやってませんし。お父さんが頑張ってくれたからです」

「しかしながら都様がいらっしゃらなければ、御父上の元へあの自転車が届けられる事もありませんでした。物事を成し遂げる力をお持ちの方は重要です。ですがそれと同等に、時としてそれを超える程に、物事を動かす切っ掛けを作る方は重要なのでございます」

「……そんなもん、ですか……?」

「ええ。あなたがた人類の歴史を考えても、そう。

偉人として歴史に名を残した者達でさえ、はじめの一歩がなければ、華々しい道程を歩む事はなかった。その一歩を踏み出させる切っ掛けには、多かれ少なかれ、必ず他の人間が関わっていたものなのですよ」


うーん、自転車の修理から何だかとっても壮大な話になってしまった。

でも京さんがいつもの口調で語ると、大袈裟だなぁと笑うより、正体不明の説得力に思わず頷いてしまう。やっぱり、長生きしてるひとの言葉には重みを感じるわね。

とにかく私は今回、運び屋の役目を果たしたのを誇っていいって事を言いたいようだ。カード氏も同調してきた。最近いつ見ても表面がピカピカツヤツヤなのは、会員増加で絶好調だからかな。


「ソウデサァ!

アッシァ、ムツカシイ事ァワカリヤセンガ、ミヤコーサンガ助ケテクダサラナケリャア、今ノ自分モ無カッタッテノハ、常々身二染ミテ感ジテマサァ!」

「あはは……そう言ってくれるのは嬉しいけど、そんな深く考えなくていーよ。あれは私がやりたくてやったんだし、そもそもそこまで凄い事やった訳でもないんだしさ」

「そんなことない……自分のしたこと認めるのは、わるくない。いいこと……」

「おぉ!?」


いきなり、背後から鳴り響いた声。

振り返るとバケモノがいた。って、ここじゃ人間の私の方が異端児だった。

……なんていうか、コンクリート色のシーツを頭からすっぽり被ったみたいな……。

声は聞こえるものの、どっから話しかけられているのか分からない。口どこよ。その前に顔はどこよ。とっくに妖怪の個性豊かな容姿には慣れたし、急に視界に飛び込まれても取り乱しはしないが、こんな具合に関わってこられると軽くキョドる。

ここに通い出して随分になる私だけど、会話といえば京さんやカード氏と喋り倒してるだけで、お客さんとコミュニケーションを取った事なんて、片手で数えられる程しかない。そんなとっても珍しい状況に、今、私は置かれている。両手を脇につけて気をつけの姿勢になる私に、シーツさんはゆらゆらと灰色い表面を波打たせて言った。


「おまえ、がんばってる」

「そ、そうですか?」

「そう。有名」

「有名なの!?」

「他はしらない。わた……わたし、おれのなかでは有名……たまに見かけた」


……それって有名っていうんだろうか。

一人称が混乱気味の妖怪さんは、手のような出っ張りに乗せた怪しげな品物をレジに差し出した。お買い物でしょうか。それにしては代金を払ってる様子がなく、京さんも特に咎めず商品を渡す。こんな光景も何回か見てきたなあ。ツケ制度があるのか、私には見えない代金のやり取りがされているのか。

品物を受け取ると、シーツさんはさっきと同じくのっそりした調子で再び喋り始めた。


「じぶんの、やったことを認められたなら、そうです……といっておけばいい。

それは傲慢なんぞじゃない、おまえのうけとるべき正当なもの……」

「……ありがとう……ございます」

「どういたしまして。

むりせず、がんばれ。がんばりすぎない程度に。

おれ、わたしあのコーナー、どうでも……よかったけど、人間のおまえが何度もしてるのみて、それで興味でて、やってみた」

「あっ、そうだったんですか! それじゃ、お互いこれからも――」

「べつにおもしろくなかった、全然。一回ためしたからもういい、もうやる気はない」

「……そ、そっすか……」

「けどな、まったくやる気なかったのが一回した。無し、が、いち、になった。のは確か……。それを作ったのはお前。これも確か。そういうことだ」


何だか妙に含蓄があるような話を終えると、ただ口を開けて聞いてるしかない私に背を向けて、結局名称不明のままだったシーツ妖怪さんは、ズルズルと自動ドアから出て行った。

……ああ、そうだ。ちょっと京さんっぽかったんだ、話の内容が。

あれかな、シーツな見た目と喋り方には似合わず、意外と頭が良かったりするのかもしれない。この店に来られるのは、ある程度実力のある妖怪さんに限られてるって話だったし。

ともあれ、大切なのは話の内容だ。

私が今回、切っ掛けを作った事。知らない所で、ひとつの切っ掛けを作っていた事。そして無自覚だろうと、切っ掛けを作り出したという功績は、きちんと認められるべき事実であるという事。

他者からも、自分からも。


「そう。そういうこと――でございますよ」


視線を戻した私に、微笑を湛えた京さんが告げた。


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