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第壱種接近遭遇ティーカップ - 2

その日、私は夜の町を歩いていた。これに高一という私の年齢及び外見を条件として加味すれば、すわ非行化の始まりかと、お堅い方々は三角眼鏡の向こうでキリリと目尻を吊り上げる事だろうが、いやいやそんな嘆かわしい目的があった訳じゃなくて、単に部活が長引いて遅くなったというごく健康的な理由だ。

というといかにも私が練習熱心な生徒であるかのようだが、実際そんな事もない。入学とほぼ同時に、誘われてなんとなく入るまま続けてはきたが、なにせ一年といえば下っ端中の下っ端。キツイし疲れるし帰りはこの通り遅くなるし、近頃モロに下がり気味のテスト結果も考慮して、ぶっちゃけそろそろ辞めたいと思っている。

言い忘れていたけど、今は冬だ。となれば日が落ちるのは早く、勢いお空は真っ暗闇。暗さと寒さの中を、疲れた身体でトボトボ帰宅していると、なにやってるんだろうと段々沈んだ気持ちになってくる。


冷え切った空気を吸い込んで、暇だなぁ、の言葉と一緒に吐き出す。

そう、私は暇だった。高校一年生というフレッシュさがどうのこうのと言われたって、暇なものは暇だ。

中学から高校へ。大きな変化に伴う驚きと興奮が消えるには、春がひとつ過ぎれば充分。何て事はない、変わったのは科目とクラスの顔ぶれくらいで、他は中学からそのまま引き継いできた学校があるだけ。細かい違いは探せば一杯ある。でも日常という一直線に、大きな山が出来る事はなかった訳で。

だから、私は暇なのだ。やらなきゃいけない事はあるから、暇より退屈というのが正解かもしれない。

一度だけ、ぼそっと親に漏らしてみた。そしたら返ってきたのは、そんなもんだよ、という言葉と、大人の笑顔。

そりゃ、あなた達の歳になればそうだろうよ。でも青春真っ盛りの私には、ちょっと刺激が足りなさすぎるのだ。例えば授業中、突然学校に武装テロリストが攻めてきて……とまでは絶対求めたくないけど、昔に作られた秘密の地下通路を偶然見付けて、ぐらいの事は起こってもいい。なんてうっかり言うと、「いつまで子供みたいな事を言ってるな」と盛大に眉を顰められるのだろう。そのくせ化粧にちょっと興味を示せば、「まだ子供なんだから」と止められる。まったく、扱うに当たって大人なのか子供なのかハッキリして頂きたい。


じんじん痛む鼻の頭を摘んで擦り、ぶるっとコートの下の肩を震わせる。

まあいい、早く帰ろう。暗くなっていたって足が遅くなるだけで、ひいては健康と鼻水の状態に深刻な影響を及ぼす。愚痴るのは、暖房の効いた懐かしき我が家に帰ってからでも出来るのだから。まずは荷物を置いて、夕ご飯で空腹を満たして、それからお風呂に入って、まだ眠くならなかったら、だけど。

…………それはそうと、この道、こんなに長かったっけ?

寒さを紛らわそうとあっちこっちに考えを飛ばしながら歩いていたのに、何故だかいつもの交差点に行き当たらない。そういえば、人通りもやけに少ない。というか、ない。これもおかしい。このぐらいの時間なら、私みたいな学生に、会社帰りのサラリーマンにOLさんにで、まだまだ道を歩く人影は絶えないのに。

はて、けったいな。私は足を止めた。唯一の足音も止まって、気付けば周りにはうっすら霧までかかっている。霧。雪じゃなくて霧である。普通、街中のこんな場所で霧なんて出ない。どうも、何かがおかしい。

意識してしまうと、なんだかちょっと――外気とは違う、寒さを感じた。


(道、間違えたかなあ……)


そこまでぼんやり歩いていた訳じゃないし、そんな馬鹿な、と思うけど、他に可能性もない訳だし。

疑惑は、再び歩き出してすぐ、やたらと明るい建物が先に見えてきた事で確信に変わる。あの不必要なまでに神々しくギンギラで、蛾と一緒に人間も引き摺り込む照明は、コンビニ特有のもの。そしてこの通りに、コンビニはありません。はい、間違えたの確定。

うーんと、首を捻る。次に後ろを振り返る。

つまり私は、この大変寒い中を、正しい道まで逆戻りする必要があるという事だ。

納得できない、運命に対して。

……でも間違った割には、確かに毎日見ている景色に思えるのは、気のせいだろうか?

ぴゅうと風が吹き、マフラーの隙間から潜り込んでくる。うう、寒い。

戻ろうとして、私は少し迷った。個人銀行は手の届く場所にある。月初めの小遣いだけが頼りの身分故に、滅多にお腹いっぱいにはなれない可哀想な財布くんであるが、さすがにコンビニに入るくらいの余裕はある。

考えているうちに、もう一回風が吹いた。それで決まった。

熱いミルクティーでも買っていこう。私は沈む気分を勢いで振り切り、見慣れないロゴの輝くコンビニへと向かった。


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