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第参種接近遭遇コードアンドリモコン - 4

かくして、待ち合わせ当日。

場所は分かりやすさ優先で、私の家の近場にある公園にした。そこからバスで目的地に向かう。自転車でも余裕な距離だけど、都合良く停める場所があるとは限らないし、駅よりはまだこっちの方が近い。

好きでやってる事だから文句を言う資格はないけど……ちょっとだけでも出ないかな、必要経費……しつこい?


車内で揺られている間、ふたりは器用に私の肩に乗っていた。

しっかり重さは感じるのが、なんだか奇妙な感じだ。

他の乗客にばれないか、結構ハラハラしてたのは取り越し苦労に終わった。

考えてみれば、もしここに霊能者がいたって、何となく事情を察して黙っていてくれるか、少なくとも人前で堂々と指摘してきたりはしないわよね。自分の方が変人だと思われちゃうもん。

といっても念の為、一番周りに人の少ない席を選んで座った。

着くまでの時間で、もういっぺん依頼内容の復習と、どこかにこのひと達の活躍を挟めないかを、頭の中で組み立ててみる。できれば、形だけ挟んでみましたってのじゃなく、その力があって初めて解決できた!みたいな、メインに来る感じがいい。それでこその、共闘の意義ってもんだから。


で。

結論、無理。


うん、無理。

げんなりしてバスを降りた所で、二、三歩ふらついた。

うっかり車内で、例のレシートまで広げてしまったのがいけなかった。自動車と読み物の組み合わせなんて最悪である。文字は短時間でがっちり私の脳と三半規管に食い込んで、思う存分に揺さぶってくれた。

吐き気を堪えつつ固い道路をトボトボ歩き、しつこくもう一度、今回引き受けた依頼内容を考える。私でも許可が出ただけあって、とっても簡単そうだ。簡単すぎて、逆に第三者を挿し込む余地がないくらいに簡単。

だからといって、もっと複雑なのを受けるのは無謀だし、第一、京さんがうんと言ってくれないだろう。無茶だと承知していても許可を出すってのなら、このふたりにもとっくにそうしている。


……このままじゃ、本当に連れてきただけに終わっちゃうよ。


そういうものって言えばそうなんだけど、でもどうせなら結果だってと欲張りたくなる。

私は、相変わらず肩に乗ったままのふたりを順番に見た。

なんていうか、悪い連中じゃないんだよね。

コード結ぶけど。

リモコン隠すけど。

果てしなく迷惑だけど。

やっぱ放置でいい気がしてきてしまったので、私は首を振って邪念を追い払い、とりあえず自販機でジュースを買った。炭酸強そうなの。時間帯なのか狭い道幅のせいなのか、国道から道一本入っただけなのに、こっちはやたら閑散としている。そんな場所にも置かれてるんだから、ありがたいよね自動販売機の皆様は。

ま、一旦ここで休憩しとこう。休んでる間に名案のひとつやふたつ浮かぶかもしれない。ゴミ箱もあるし。自販機脇に凭れて、私は缶を開けた。プシュ、とイイ音。


「……ふー」


一口分の炭酸が、喉を洗っていく。

爽快さのおかげで良いアイディアが……当然、浮かばない。そんなもんよね。


「妖怪プルタブ挫きも、どこかで悩んでいるんですかねえ、ハイ……」


聞こえなかった事にした。


「ね、そういえば、さ」

「人間が尋ねてきておりますよ、ハイ」

「人間に尋ねられておりますよ、エエ」

「……それ、もういいから。

あなた達は、どうしてあそこにあった品物の依頼を受けたいって思ったの?」

「そりゃまあ、折角あるんですから、ハイ」

「折角あるんですからね、エエ」

「だから、なんでよ」

「やらなきゃ損じゃないかと、ハイ」

「やったら楽しいんじゃないかとね、エエ」


そっか、と私は答える。

店からここまで勢い任せだったから、肝心な動機を聞いてなかった。

京さんが語った、お店にああいう商品が置かれてる経緯を考えれば、質問しなくたって想像はつくんだけど、実際に依頼を引き受けた妖怪の口から直接聞くのは、これが初めてだった。ふたりの言葉から感じ取れたのは、私生活の不満、退屈、求める充実……。

何て事はない、私と同じ。

こんな事で妖怪に親近感を感じるのもおかしな話だと思いながら、また炭酸を一口。ちょっと喉の奥に痛い。

人間だったら、暇潰しの手段は本気で探せば沢山ある。

少なくとも私の暮らすこの国なら、一生かけても全部に手を付け切れないぐらいに。だから、暇だ退屈だとぼやくのは、ある意味で贅沢な我侭だ。

でもたぶん……京さん達妖怪の話を聞いてる限りだと、妖怪の世界はそこまで進んでない。働いてお金を稼がなくても生きられるぶん、真剣なごっこ遊びを探す手段は、私達より大幅に限られている。深く考え出すと、それは実は、とても怖い事なのかもしれなかった。毎日毎日、何もする事がなくて、何もしなくて良くて、滅多に誰とも会えなくて、会ったとしても無関心で、なのに死ぬ事もなくて、永遠にそれが続いていく――。


不意にちょんちょんと首を突っつかれて、私は変な声をあげた。どうも黙り込んでしまっていたのを心配されたようだが、手段を選んで欲しい、手段を。飛び上がったじゃん。


「随分とお悩みのようですが、あまり深刻に考えないで下さいまし、ハイ」

「そ、そう? 悩んでるふうに見えた? あれこれ頭捻るの楽しいけどな」


肝心の頭の出来が抜群って訳じゃないから、捻りに捻っても限界がある件は割愛で、ぜひ。

それにしても、間近で見ると彫りの深すぎる顔だ。

ひとつひとつのパーツがいちいち大袈裟で、なんていうか、濃い。


「マジメなのは結構ですが、気に病むまで行ってしまっては元も子もありませんです、エエ」

「あくまで遊行、もののついでという事を頭に留め置いて頂ければと、ハイ」

「でも……」

「あなたはいい人なのですね、ハイ」

「いい人なのはいい事ですよ、エエ」

「何事も真剣に楽しみたくはありますが、真剣が過ぎて楽しめなくなっては、我々も申し訳ないです、ハイ」

「こうして人間の肩に乗って出歩いているだけでも、初めての経験ではありますしね、エエ」

「そういえばそうですね、ハイ」

「我々これでも十二分に貴重な体験であります、エエ」


乗り物じゃねーんだけど、と思うも、さりげなく気を使ってくれているのは分かったので何も言えない。両肩に座ったふたりの、交互にぶらつかせる足が服に当たる、軽い感触。こんな所まで、相変わらず息が合っている。このふたりはセットで行動しているぶん、まだ気を紛らわすのに恵まれている方なんだろうな。

……でもねえ、気にしないでったって、そう謙虚に出られると、人間の性分として却ってますます何とかしてあげたくなるもんなんですよ。

しかし気持ちがあっても手段が無いんじゃどうしようもなく、私はもう一回依頼のレシートを見てみる。今回の問題は、依頼のクリア自体より応用なのよね。重要なのは、この内容にふたりの力をどう絡めて、解決へと持っていくか。強引に見せ場を作っても、喜んでもらえるとは思えない。解決の鍵を握る形で、かつ今後の可能性に繋げられるような……。


うーん、うーん……。


………………。


……だめ、頭が煮えてきた。


ふう、と空を見る。

視界五分の一くらいが雲の晴れ。同じ青空でも、冬と春ってだけで何でこう印象が違うんだろう。黄昏れ気味の心境だと、普段なかなか意識しない事を思ってしまう。

……現実逃避って言っちゃえば、それまで。

他にいろいろ楽しい事の多い女子高生は、あんま空の違いに思いを馳せたりしないしね。


立ったままでいると余計に思考が行き詰まりそうだったんで、歩き始めてみた。いっそ今回は様子見って事にして、また違う依頼の時に……と逃げに走りそうになった自分の頭を、握り拳でコツンとやる。

私は、好きな時にあの店に行ける訳じゃない。

そうなれば、ふたりと次に会うのは当分先になり、ひょっとしたらもう会えない可能性だってある。やっぱり何も思い付かなかった、ダメだったよごめんねと気楽に両手を合わせて、それっきりでおしまい。暫くは気になってるかもしれないけど、たぶんそんなにかからず、安請け合いとその挙句の失敗を忘れる。いつか再会する日が来たって、その時まで今と同じく、手伝いたい気持が続いてる保証はない。


私ひとりなら、それでもいい。

けど今回は、こっちの希望で相手を巻き込んでる。

それじゃあ、気紛れでふたりを振り回し、実を結ばない希望を持たせただけに終わってしまう。それはそれで一時の退屈凌ぎにはなっているし、責任を取る程悪い事じゃないのかもしれないけど……。


でも、そういうのは、やっぱり嫌だな。


よし、もうちょい頑張ってみよう。

朝早く出てきたから、まだまだ時間には余裕がある。

毎回一度は無謀だったかもと途中で思い、でも最後には何とかなってる自分の運を信じようじゃないの。

と我ながら力強い、良い目で頷いて気合を入れ直してみた時、まさかのそれは聞こえてきた。


「どろぼー!」


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