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第弐種接近遭遇ポイントカード - 4

日を改めて、私は再度コンビニを訪れた。

レジを目指しながら何気なく視線をやってみれば、なんと例のコーナーに違うカードがある。


「またカードか!」


思わず声に出していた。


「どうされました、出し抜けに。

ともあれ無事にお戻りになられた事を、祝福させて頂きます」

「だってー……そだ、よかったらパン食べません? ジャムパンとココアパン……」

「いえ、結構でございます」


案の定余りまくった分から少しお裾分けに持ってきてみたのだが、断られてしまった。遠慮してというより、本気でいらなそうである。和食派なんだろうか、パンと紅茶の方が似合いそうなのに。

そういえば、そもそも妖怪って何を食べるのかな。その……人間の他には。

この店にも食べ物らしい商品はある。ただ、さすがに私も怖すぎて、口にしてみる気にはなれない。

ちなみに山のようなパンとメンチカツは、予想通り親にも怒られたり呆れられたりした。おいしそうだからつい買いすぎちゃった、とお茶目にウインクしてみた所、返ってきたのは冷たい目と、バカじゃないのという適切かつ容赦のないお言葉。ひどいよね。客観視したらその通りでしかないけど。


パンの入った袋をぶらぶらさせながら、私は特設コーナーに近寄って、新顔のカードをひょいと拾いあげた。私の財産を食い荒らし、挙句ささやかなご褒美の商品券さえもたらす事なく崩壊した、軟弱な商店街カードの最期を思い出した私は、その無念さを言葉に込めて、京さんに向かい力説する。


「今回、自分のお金を使ってわかりました!

もっと無駄なくカードやクーポンを利用できるシステムを、社会全体で考えるべきですよね! 無念のままに、タンスの裏で埃に塗れていく彼らの為にも!」

「イヤハヤ、マッタクダヨ!」

「ぎゃあああああああ!!」


完全に不意討ちだったので、私は反射で思いっきりカードを放り投げてしまう。

飛び退いた拍子に棚にぶつかって、ガァンと派手な音がした。品物は落ちなかったけど、私の背中が痛い。

カードは重力に導かれるまま床に落ちて、イテッ、と言った。

痛いのは私だ、いやそうじゃなくて。


「喋った!!」

「おや」


幾らか意外そうに、京さんが床のカードへ目を向ける。

まさか、店主が気付いてなかったんかい。

優雅に手首を返すや、ふわふわ空中を飛んで京さんの元に運ばれていくカード。

値札がばっちり付いているからには、やっぱりこれも満たされない想いを抱えたままの品なんだと思うけど、店長が把握してないって、どうなってんの?

京さんは到着したカードを手に取り、裏表にひっくり返しつつ、眼鏡の向こうの目を光らせる。私も打った背中をさすりながら、レジに歩いて行く。

物問いたげな目に気付いてくれた京さんが、カードから顔を上げる。

そして話しかけてきた。京さんじゃなくて、カードが。


「ヒデェデスゼ、オ嬢サン! イキナリホウリ投ゲルナンザア!」

「……どうも、えらいすんません。こっちもいきなり喋るなんて予想してなかったから……」

「大変、失礼を致しました、都様。

こちらはつい先程入荷したばかりで、わたくしもまだ検めていなかったもので。

まさか付喪神であったとは」

「つくもだかつくねだか知りませんけど……ええと、本で読んだっけ? とにかく妖怪なんですよね? なんで妖怪が棚に並んでるんですか。あと触っちゃったけど消毒薬とか必要ですか。というかこれ何なんですか」

「まずは一度深呼吸をなさってください、都様。そう身を乗り出しては、パンが潰れてしまいますよ」

「聞イテオドロキナセェ、オ嬢サン。アッシハ……」


妙に甲高いカタコト喋りをしつつ、プラスチック製のカードが立ち上がった――ように錯覚した。実際には、京さんの手元にあるままだ。つまり、声にそんな勢いを感じたって事。


「買イ物ノトキニレジデ聞カレル『ポイントカードオ持チデスカ?』二対シテイイエト答エル際二、イラットシタリ、ウゼェト思ッタリシタ人間タチノ怨念ガ、タマリニタマッテ生マレタ妖怪ナンダ!」

「なにそれえぇ!?」

「ケイケンオ有リデショウ! アッシニハオ見通シナンデスゼ!」

「ごめんなさいあります」


心当たりはあったので、私は素直に謝った。

ああ、まさか自分のちょっとした苛立ちが、巡りに巡ってこんな悲しい運命を作り出していただなんて!

と反省した訳でもなく、なんかひたすら反応に困る。

それにしても、あの商店街カードも、カード視点で気の毒な境遇だったのは同じなのに、どうしてこっちは妖怪なんかにまでなっちゃってるんだろう。

密かに首を捻る私の心を読んだみたいに、京さんが説明を始めた。


「都様が、先に解決なされましたカード……。

あれは、あそこに並ぶ他の品々と同じく、カードそのものが未練を有しておりました。一方こちらは、店頭でのカードのやり取りに関連して生じた、人間の負の感情の蓄積が形を成し、遂には一枚の同類たるカードに宿り、妖怪と化すに至ったと推測されます。付喪神――妖怪でありながら、自身もまた無念を抱く品物であるには違いないので、当店に流れ着いたのでしょう」


話を聞いてもピンとこなくて、納得のいかない顔をしている私に、続けて京さんは言った。


「想いが積み重なるというのは、稀に途方もない力を呼び起こすのでございます。

各々がばらばらに抱いた個の想いが、やがて集まり、重なり、纏まり、集団の想いへと変化を遂げる。誰もが似た事を感じている、誰もが似た事を行なっている、似た境遇に置かれた者や物が非常に多い……といった、普遍的な事象において、特に生じやすい現象です。

こうなると、強い。ひとつひとつは小さくとも、積もりに積もったその結晶は侮れません。時としてそれは、こうした名でも呼ばれますなァ」


呪い。

もしくは、祟り。

私を見ながら、そう、京さんは言った。


「はじめに都様が引き受けられた茶碗とは対照的ですな、あれなどは個の極み。

あるいは先の商店街サービスカードも、そうした力の助けを借りて、ここに流れ着いたのやもしれません」

「……それって、あっちは妖怪にならなかっただけで、背景は同じ……。

全部埋まる前に捨てられたり失くされたりしちゃった、近くのカード全員を代表してたかも、って事ですか?」

「然様でございます。ご理解が早いようで」


そこで何故かお礼をするように、京さんが浅く腰を折った。

ふむ、と私は偉そうに唸る。

なんとなく、理屈と経緯はわかった。わかったけど、さてこれはどうしたらいい。

まあ……どうするもこうするも、私にできる事なんて精々ひとつと決まってる訳でして。


「まだ都様の気力が続くようでしたら、挑戦してみるのも一興かと存じます」


今回はバーコードを読み取らずに、そんな事を京さんが言う。

目も鼻も口も無いけど、カウンターにそっと差し出されたカードからは、確かに期待するような眼差しを感じた。


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