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第弐種接近遭遇ポイントカード - 1

百メートル手前からでも目立ちまくりの、不必要に明るい、地球に優しくない照明。店舗の形状はシンプルな長方形ながら、大通りにあって路地にあって、他のどの店よりも強く存在を主張する。限られたスペースを棚で区切って有効活用し、消費者心理を研究し尽くした配置で物が並べられる。選び抜かれた商品群は種々様々、百花繚乱。痒い所に手が届く品揃えが、24時間いつでもあなたの目の前に!

そう、ここはコンビニエンス・ストア。

今や私達の暮らしに無くてはならない、商店のひとつの究極の形。


「お久しぶりです!」

「こんばんは、都様。

ひさしぶり、ですか……わたくしの感覚ですと、ついこの間、と言うのが適切なのですが」


几帳面にセットした白髪と顎髭。基本これを崩さない、穏やかで上品に微笑んだ顔。綺麗に伸びた背筋と、その姿勢の良さがある意味台無しな、スーツに和服を羽織ったような謎の服装もいつも通り。細い金のチェーンを垂らした眼鏡に、袖口に覗く大粒の宝石付きのカフスボタンと、小物もばっちり決まっている。

月並みとはいえ、老紳士だの英国紳士だのという表現を誰もが第一に思い浮かべるであろうお爺さん。このコンビニのオーナー兼店長兼店員であるところの京さんに、私は挨拶をした。これまたいつも通りレジカウンター向こうに立っていた京さんが、やっぱりいつも通りの丁寧な挨拶を返してくれる。

私みたいな若造相手に申し訳ない事です、と思うなら自発的に来るのをやめればいいだけの話なんだけど、ついつい時間が空くと、もしくは時間を空けて、私の足は京さんの店があるこの道を目指してしまう。

まあ何でしょう、私に限らず、最初の遭遇で引かなかった人なら、そうなっちゃうんじゃないでしょうか。

なんせこのコンビニ、そんじょそこらのコンビニじゃない。

全国展開してる訳でもなければ、ご飯の盛りがいいサービスをしてる訳でもないが、その特徴たるや唯一無二、他では絶対見られない。


なんとこのコンビニ、妖怪の妖怪による妖怪の為のコンビニなのだあ!

じゃーん!


……………………。


ああ、うん、わかっていますよ何が仰りたいのかは。ドン引きしたでしょう、今。

しかあし! それにドン引きしなかった結果、私はここにいられるのだ、ははは。

や、その、盛大にビビリはしたけどね……。


……え、妖怪のコンビニってのは取り消さないのかって?

いやいや何を、そんな真似はしませんよ。だって本当の事なんだから、取り消す理由も必要もないじゃない。ここは嘘偽りのない、妖怪のコンビニ。普通の人間は見つける事ができないし、入る事もできない。並んでる商品も全部妖怪向きのものなら、それを求めて訪れるお客さんも妖怪ばかり。

こうして私と喋っている京さんも、もちろん妖怪らしい。

夜の町の通学路にある日突然出現した、風変わりにも程があるコンビニに私がこうして入れちゃってるのは、別に私がすんごい霊能力を持ってるからでも、運命に選ばれた伝説の勇者だからでもない。

それは偶然に偶然が重なった……一種の事故みたいなものだった。

事故なら一度遭えばもう勘弁となるのが正常な所を、私は相変わらず自分から積極的に車にぶつかりに行っている。

ガードレールの向こうにいたければ簡単なのだ、跨ぐ足を止めればいいんだから。

京さんもそうするよう何度も何度も勧めてくれているのを、私は聞かないふりをし続けている。

だってねえ、面白いじゃん。

それだけ。退屈な日常に溜息を吐くのは年頃の少年少女の通過儀礼でしかないんだよと、懐かしそうに大人達が笑おうとも、現に退屈なもんは退屈なんである。

そこに降って湧いた、妖怪コンビニとの接近遭遇。

これぞ非日常の極み。退屈って概念から三周まわって一番遠くにあるようなそれを、逃す手はないってもの。


……といっても、いつでもこの店に入れる訳じゃない。

波長がどうの第三の目がどうのという理屈があるらしく、説明を受けた私も実は良く分かっていないのだが、要するに、資格はあるけど運任せって事らしい。もっとすごい本職の霊能者さんとか、本来のお客さんな妖怪だったりすれば、正規に入店できるんだろうな。

そんな訳で運頼みオンリーな私としては、時間を見付けちゃ頻繁に店のある場所に来てみてるものの、チャンスはなかなか訪れてくれないのだ。久々の貴重な機会を噛み締めつつ、京さんに挨拶を済ませた私は、さっそく店の中を物色し始めた。

端からぐるっと商品を眺めていきながら、自然と私の足は一箇所に向かう。

そこだけが色分けされた、特設コーナーへ。

人間には無縁の商品ばっかりの中で、唯一、ひょっとしたら私にも縁があるかもしれない物達が集う場所。


私は以前、ここでひとつを手に取り、そしてひとつの役割を果たした。

後から考えてみれば勢い任せにも程がある、幸運に恵まれなければ最悪の結果を招いてしまったかもしれない、危なかっしすぎる一部始終だったけれど、最終的に私は成功し、ちょっと切なく、しんみりして、ほっこり暖かいっていう、普通に暮らしていたらそうは出会わない後味を報酬に得た。

ベストな結末だったと思うよ、うん。


「今日はお客さん、来ました?」

「いつも閑古鳥が鳴いているかのような尋ね方はお控え下さい、都様。

わたくしもさりげなく傷付くのでございます」

「いやいや、そんな事ないですってば。お客さん、嬉しそうに物選んでくじゃないですかー……」


コーナーに視線を落としたまま、私は京さんと言葉を交わした。

物にだって、心は宿るという。

ここにある品物は、そのどれもが、満たされない想いを抱えている。

その想いを、願い事を何とかして叶えてあげるのが、このコーナーの品を手に取る目的であり条件という事になる。


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