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短編

メイドのリリィはプロポーズに頷かない

作者: 野庭 今日


 テラスではアフタヌーンティーが始まろうとしていた。

 シェルで出来たティーセット。

 オーロラに輝くカップに、ソーサーには金の細工。

 人魚姫のような美しい白い指がポットを支えると、アールグレイが注がれる。

 鳥かごの形をしたティースタンドには、サンドイッチとスコーン。

 それに僕の大好きなチョコレートケーキが行儀よくつまれている。

 てっぺんについているカナリアの細工はデフォルメされていて愛らしい。


「ご主人様、お茶の用意が出来ました」

 心地良いソプラノボイス。僕のための言葉。

 アフタヌーンティーの用意を前に僕はメイドのリリィにプロポーズをした。

「僕と、結婚してくれないかい」

 カチャリ、とカップとポットが触れる音がする。

 メイド服に身をつつんだ彼女は困ったように僕を見た。

 ほどけば長いであろう金色の髪をきっちりと束ね、フリルの付いたクラシックなヘッドドレスは彼女によく似合っている。


「ご主人様、どういった意味でしょうか」

 僕と視線が絡み合う。

 サファイヤブルーの瞳、宝石のようだ、といつも思う。その瞳には僕だけが映し出されている。

「……どうしてそんなことを言うんだい」

 リリィにプロポーズするのはこれで何度目になるのか、三十回を超えた頃には馬鹿らしくなって数えるのをやめてしまった。


「ご主人様、それは――」

「それ以上は何も言わないで。もし何か言うとするのなら、はい、とだけ言って欲しいんだ」

 僕は、リリィの言葉をさえぎり、そっと手を握る。

「僕はね、君がはいと言ってくれるまで何度でも待つよ」

「はい。ご主人様」

 ゆっくりと、おだやかな声だ。この声を聞くと断られてしまっても、癒される。


 リリィに向かって微笑むと、淹れてくれたアールグレイを一口飲んだ。

 今日も昨日も一昨日も、一週間前も、何時だってその味は変わらない。

 テラスから一望できる庭ではもうすぐバラが咲くだろう。


「ご主人様、お茶のおかわりはいつでもおっしゃって下さい」

 銀のトレーを持ったリリィが微笑む。

「僕はリリィ、君を真剣に愛してるんだ」

「ご主人様、サンドイッチはいかがですか」

 照れているリリィも可愛い。こうやって誤魔化す所がいじらしいと思う。

 時間が緩やかに過ぎていく。僕の傍らに立つリリィをずっと眺めていたい。

 今も、これからも。


「そろそろ部屋に戻ろうか、今日も美味しいお茶だった。ありがとう」

「スコーンは宜しいですか」

「ああ、もうお腹いっぱいだよ」

 スコーンを残して、チョコレートケーキが無くなった頃、僕とリリィは部屋に戻ることにした。

 

 部屋に戻るとテレビを付ける。

 選挙の演説が流れていて、候補者達が己のマニフェストを熱心に語っている。

 誰の言葉も僕には響かない。リリィと結婚ができるまで僕は怠惰な時間を過ごすのだろう。

 ソファに寝転んで目をとじると眠気が襲ってきた。


『私が当選した暁にはアン――』

 ある候補者の言葉に、僕は耳を疑って飛び起きた。

『私が当選した暁にはアンドロイドとの結婚を認める法案を可決させます!! 』

 壇上に立ち演説する彼の周りの支援者であろう男たちが野太い奇声を上げる。


「こ れ だ!! 」

「選挙は何時だ。選挙に行かなくては」


 僕はパソコンを立ち上げて片っ端からネットニュースを読み漁った。

 候補者の名前と情報をひたすらクリップする。


 背後のテレビではニュースキャスターと評論家がコメントを出しあっている。


『アンドロイドと言っても同じ動作しか出来ないロボットなのに結婚してどうするんでしょうかねえ』

『自分の好みの外見でメイドロボットを作るのが流行っているらしいですよ』

『まったく、今の若者の考えることは分かりませんね』


 リリィは確かにお茶しか淹れられないがそんなの何の問題があるっていうんだ? 





三次元の女じゃなくったっていいじゃない。


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― 新着の感想 ―
[良い点]  バカバカしい動機で綺麗なプロポーズシーンを描いてしまう作者。笑
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