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総長戦記 008話 見逃されし者達 その②

【筆者からの一言】


粛清されなかった者は結構いるようです。

総長の判断基準は……不明

1936年3月 『日本 東京 陸軍参謀本部 参謀総長室』


 閑院宮総長に呼び出された影佐禎昭中佐は死を覚悟していた。


 226事件から始まった閑院宮総長の陸軍内部の粛清は苛烈を極めた。


 226事件を奇禍として「満州事変」「三月事件」「十月事件」の関係者は根こそぎ命を絶たれたと言っても過言ではない。

 公式的には226事件時に叛乱軍に与していたという事になってはいたが、それを信じる者は陸軍内部には誰もいなかった。


 閑院宮総長は「満洲事変」時に中央の意向を蔑ろにした軍人や「三月事件」「十月事件」に関わった軍人を許さず、226事件を機に全員を処刑しようとしているという噂がまことしやかに陸軍内部に広がっていた。

 

 処分された顔ぶれを見れば、噂の真偽は一目瞭然だ。


 影佐禎昭中佐は「満洲事変」「三月事件」「十月事件」に直接的には関わってはいない。

 しかし、「三月事件」「十月事件」を起こした陸軍内の派閥「桜会」に属していたし、「満州事変」の時には関東軍を支持する動きを逸早く見せ支援する動きをしていた。

 それ故に自分も処刑されるのだろうと腹を据えていた。

 最期の一瞬まで皇国軍人として恥ずかしくない態度と気概を持って死に臨もうと覚悟を決めていた。 



 椅子に座る閑院宮総長の表情からは何も伺えなかった。

 だが自分を見て不愉快だとか、機嫌が悪いという雰囲気でもなかった。

 今の影佐禎昭中佐に出来る事は姿勢を正し閑院宮総長のお言葉を待つ事だけだ。


 そんな影佐禎昭中佐に対し閑院宮総長が口を開く。

 それは影佐禎昭中佐にとって意外な内容だった。


「中佐、貴官を呼び出したのは他でもない。貴官には新たな役職に就いてもらうためだ」


 あまりにも意外な事を言われた為、影佐禎昭中佐は問い返した。


「新たな役職でありますか?」


「そうだ。この度、参謀本部第二部に新たに第8課を新設する事にした。

任務は中華民国内での謀略活動だ。

具体的には中華民国内での麻薬の密売と偽札偽造による経済攪乱工作だ。

麻薬と偽札で利益を吸い上げ中華民国を衰退させるのだ」


 これもまた想定外の話だった。影佐禎昭中佐は再び問い返す。

「麻薬と偽札でありますか?」


「うむ、そうだ。

現在、華北は満洲国警務司長の甘粕正彦が麻薬を取り仕切って密売しておる。

だが、華中、華南までは手が回らんらしい。

そこで新たに新設する第8課が華中、華南での麻薬密売を担当する。偽札もな。

満洲で生産される麻薬は満洲と華北の需要を満たすので精一杯らしい。

増産はしているが、まだまだ足りんようだ。

そこでだ。

イランから麻薬を買い付け華南、華中に流せ。

偽札を使って物資を買い付けろ。

勿論、言わずもがなだが第8課の者が直接やったりするなよ。

民間の工作員を使い偽商会を設立させて行わせろ」


「了解致しました」


 影佐禎昭中佐は安堵した。

 処刑どころか何ら処罰を受ける事もなく済み胸を撫で下ろした。

 謀略部門ではとても陸軍における花形部署とは言えないが、それでも自分を選んだ閑院宮総長の期待に恥じぬ働きをしてみせる。そういう思いを影佐禎昭中佐は自身の胸に刻み込む。


 こうして影佐禎昭中佐は対中華民国謀略活動に深く関わる事になっていく……



【to be continued】

【筆者からの一言】


第8課が史実より1年半以上も早く新設されました。

どうやら総長は中華民国が目障りなようです。


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