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総長戦記 0041話 装備の変更 その①

【筆者からの一言】


今回より暫く陸軍の装備についてのお話です。

「0030話 ノモンハンのその後に その②」の続きのようなお話です。もう一回読み直すとわかりやすいかもしれません。


「ウラン爆弾(原子爆弾)」?

 焦らない、焦らない。

 時至れば登場します。

 こういう話をしている裏で着々と使う準備が進んでいるとお思い下さい。

 あと◯◯話も話が進めば……

1941年8月 『陸軍 技術本部』


 昨年から開発が開始されていた「一式砲戦車」の試作車が完成しその性能試験が行われた。

 良好な性能を示した事から本採用が決定する。


 ここで口を出して来たのが閑院宮総長である。

 現在、生産している戦車の生産を全て中止し、全部「一式砲戦車」の生産に切り替えるよう指示して来たのである。

 更には、現在ある「97式中戦車」も全て「一式砲戦車」に改装するよう指示して来た。


 陸軍参謀総長には本来、このようにいきなり戦車の生産や改装についてトップダウンで指示する権限は無い。

 しかし、陸軍を支配する閑院宮総長の指示は今や絶対命令と変わらない。


 それでも、この指示は戦車に関わる者達の間で、あまりに極端過ぎると物議を醸した。

 だが、閑院宮総長の判断も何も根拠がないものではなかった。


 問題はごく最近齎されたドイツ駐在武官からの情報である。

 2ヵ月前にドイツがソ連に侵攻した。

 それによりソ連軍に高性能な大型戦車が多数ある事が判明したのである。


 T34戦車とKV1戦車である。


 ドイツは未だ日本との同盟を諦めていないようで、歓心を買う為かソ連との戦いで得られた情報をかなり日本に流して来たのである。

 ドイツ駐在武官から送られて来た情報に接した者は皆、震撼した。

 

 元々1937年にヨーロッパ諸国に派遣した軍事視察団によりソ連に大型戦車が2種類あるという情報には接していた。

 一つは76ミリ砲に25ミリの装甲を有している18トンの戦車だ。

 もう一つは76ミリ砲1門、45ミリ砲2門に30ミリの装甲を有している35トンの戦車だ。


だが、今回ドイツから送られて来た情報では火力はともかく装甲が厚い。

T34戦車は76ミリ砲1門に45ミリの装甲を有している26トンの戦車だ。

KV1戦車は76ミリ砲1門に77ミリの装甲を有している46トンの戦車だ。


 現在開発中の「試製一式機動47ミリ砲」「試製47ミリ戦車砲」では、これらの装甲を貫通するのに威力が不足していると試算されたのである。

 理論上は貫通できる。77ミリの装甲でも距離が200メートル以下ならばの話である。

 しかし、その距離では戦車に積む予定の「試製47ミリ戦車砲」では戦闘の役に立たない。

 有効距離の200メートルに接近するまでに敵の76ミリ砲にやられてしまうだろう。

 歩兵に配備予定だった「試製一式機動47ミリ砲」にしても200メートルは近距離過ぎた。


 これは衝撃的だった。「ノモンハン事件」での苦戦から新たに開発中であった「試製一式機動47ミリ砲」「試製47ミリ戦車砲」が既に時代遅れとなっていたのである。

 既にソ連は高性能な戦車をドイツとの戦いに多数実戦投入しているという現実がある。当然、そうした戦車は極東にも配備されるだろうし、もう配備されているかもしれない。

 

 これは由々しき事態だった。


 しかし、幸いな事に「一式砲戦車」に搭載されている「90式75ミリ野砲」ならば77ミリの装甲でも1キロの距離から貫けるとの試算が出た。


「一式砲戦車以外の戦車がT34戦車とKV1戦車にまともに渡り合えるのか?」

 そう問う閑院宮総長に面と向かって「渡り合えます!」と言える者は流石に誰もいなかった。


「一式砲戦車」とT34戦車とKV1戦車を比べれば、正面に防弾楯しかついていない「一式砲戦車」は劣る。

 しかし、防御兵器として使うのなら充分に利用価値はあった。

 準備された陣地からの対戦車射撃や、予備兵力として破られそうな陣地への緊急増援部隊としての行動ならば、充分に役立つと予想された。


 閑院宮総長は強力な火力と装甲を持った新型戦車の開発も指示する。

 その新型戦車が開発・生産されるまでは繋ぎとして「一式砲戦車」の大量生産配備を要望したのである。

 更には敵がもっと防御力の高い戦車を開発する事を見込んでの「試製100ミリ戦車砲」の開発も指示した。

 また、「98式4トン牽引車」の増産も指示した。この牽引車は「機動90式75ミリ野砲」を牽引する為の物である。


 結局、これらの指示は徐々にではあるが為される事になる。

 

 閑院宮総長の指示した新型戦車は、史実での「4式中戦車」にあたるものである。

 史実ではこの「4式中戦車」は1942年に開発計画がスタートし、当初は47ミリ砲が搭載される計画であったが、それが後に57ミリ砲が搭載される事になり、最終的に75ミリ砲が搭載された。75ミリ砲の搭載が計画されたのは1944年になってからである。

 しかし、今回の歴史では3年も早く75ミリ砲搭載の戦車として開発がスタートする事になった。

 

 史実において「試製100ミリ戦車砲」は1943年から開発計画がスタートしているが、今回の歴史では2年も早く開発がスタートする事になった。

 

「98式中戦車」「95式軽戦車」は生産が中止となる事が決定する。

「98式中戦車」の生産ラインは「一式砲戦車」を生産する事になった。


 史実において「98式中戦車」は1941年には507両生産され月産約42両を記録している。

 1942年は少し増え531両生産され月産約44両を記録している。

 それが今回の歴史では9月より「一式砲戦車」を生産する事になったのである。


「一式砲戦車」の車体は「98式中戦車」を利用するから問題はなかったが「90式75ミリ野砲」は歩兵にも配備されるため、その生産が問題であった。ただし、これは徐々に解決していく事になる。


 こうして史実において1941年に完成し採用が決定していながらも限られた戦車生産能力から1943年になってようやく15両が生産された「一式砲戦車」が、今回の歴史では2年も早く大量生産に踏み切られたのである。


 ただし、現在ある「97式中戦車」も全て「一式砲戦車」に改装するようにという指示は、技術者の不足から速やかにはいかず、かなり遅れる事になった。

 

 史実において「95式軽戦車」は1941年には422両生産され月産約35両を記録している。

 1942年は少し増え685両生産され月産約57両を記録している。

 それが今回の歴史では、その生産ラインにより9月から「98式4トン牽引車」を生産する事になったのである。


 実は「95式軽戦車」と「98式4トン牽引車」は一部部品の共通化が図られておりキャタピラ等は一緒である。戦車と牽引車では当然、違う部分も多く速やかな生産変更とは行かなかったが、それでも一から生産するよりは効率的な部分もあったのである。 

 史実における火砲の機動力と言うのは日本軍におけるあまり陽の目を見ない弱点の一つだった。

 しかし、この「98式4トン牽引車」の大量生産により、その弱点が多少は是正されていく事になる。


 これらの変更による問題は何よりも予算だった。

 しかし、この時期、日本は好景気に沸いていた。

 そうなると日本政府の税収も増える。

 それが陸軍予算にも反映され陸軍の予算も増加していたのである。


 閑院宮総長はその予算の一部を割き戦車生産設備の拡充、「90式75ミリ野砲」の生産設備拡充に当てている。

 特に「90式75ミリ野砲」は歩兵にも戦車にも使用する中核の大砲であるとして、その生産能力増強に力を入れたのである。


 こうして閑院宮総長は対戦車能力の強化を史実よりも早いペースで行っていったのである。

 だが、閑院宮総長が推し進めた装備の強化はそれだけではなかった……


【to be continued】

【筆者からの一言】


兵器について名称を少し変えてわかりやすくしたつもりです。

「機動90式野砲」は「機動90式75ミリ野砲」と言うように。


またこの作品では名称に「(ミリ)」や「(センチ)」が付く場合もわかりやすくするためにカタカナ表記にしてあります。


そういうわけで正式名称の表記とは違う場合もありますが「この歴史ではそういう設定」という事で、ご了承ください。


「一式砲戦車」は史実より数ヶ月早く完成したようです。

総長が最優先事項にしたおかげでしょう。

まぁ戦車と違って自走砲ですから戦車よりは楽だったでしょう。

きっと技術者達が残業、残業、また残業で頑張ったおかげだと思います。

みんな総長が恐いから……クスクスクス


T34戦車の45ミリの装甲。KV1戦車の77ミリの装甲。

どうやら日本の得た情報は両戦車とも初期型のようです。

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