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総長戦記 004話 流血の226 その③

【筆者からの一言】


主人公不在話


1936年2月26日 『日本 東京 午前八時』


 叛乱軍の決起は陸軍上層部を混乱させていた。


 陸軍には陸軍三長官と呼ばれる役職がある。

 陸軍大臣、参謀総長、教育総監であり、この三つの役職が陸軍の最高幹部となる。


 だが、この叛乱事件発生初期において、この陸軍三長官が機能不全に陥った。

 いや、陥ったと他の陸軍上層部の者達は判断した。


 川島義之陸軍大臣は陸軍大臣官邸で叛乱軍によりその身柄を拘束中。

 閑院宮陸軍参謀総長は現在、病気にて小田原の別邸で療養中。

 渡辺錠太郎教育総監は既に叛乱軍に殺害され死亡。


 午前8時の段階で陸軍三長官は誰もこの叛乱に対して陸軍を指導できる状況になかった。

  

 陸軍大臣官邸、陸軍省、陸軍参謀本部周辺が叛乱軍に押さえられた事から、陸軍中枢の主だった者達は「憲兵隊本部」を臨時の司令部として集まり始めている。

 

 だが流石に陸軍トップ三人が一気にいなくなった状況では、残る陸軍幹部にしても叛乱に対し速やかに対応するとはいかない。

 この時点では陸軍参謀本部の次長の杉山元中将もまだ憲兵隊本部には到着していなかったので尚更だった。


 既に憲兵隊本部に集まった者達の中には「直ぐに断固討伐を!」と主張する者もいたが、「皇軍相撃つ事態は避けよ」と主張する者もいた。 

 中には心情的に叛乱軍に与する者や、この叛乱を利用して自分の考える改革を行おうと考える者もいたのである。

 まさに烏合の衆であった。  


 だが、しかし、そんな憲兵隊本部に驚愕の知らせが齎される。


 閑院宮総長が一隊を率いて陸軍大臣官邸に突入し叛乱軍の武力鎮圧を開始したとの報である。

 

「なに! 総長が突入しただと! 間違いないのか! 総長は小田原で静養している筈だぞ!」

「誤報ではないのか! 確認をとれ!」

 憲兵隊本部は更なる混乱に突き落とされる。


 しかし、続報が入り、その報告が正しいと分かると憲兵隊本部の空気は一変した。

 

 叛乱軍に心を寄せていた者や利用しようとしていた者も叛乱軍即時討伐の声を上げ始めたのである。


 報告によると閑院宮総長は独断で一隊を率いている。

 それも何故か非番の隊を動かしていた。こちらは、まだ招集をかけたばかりなのにだ。

 非番の隊がこんなに早く参集する筈がない。

 それに閑院宮総長は小田原の別邸で静養していた筈だ。


 そこから導き出される結論は一つしかない。


 小田原での静養は最初から偽りだった。

 閑院宮総長は叛乱が起きる事をあらかじめ知っていたのだ。

 それに備えて一隊を密かに動かせるようにしていた。

 軍上層部に一切知らせずに独自に動いていたのは、上層部にも叛乱軍と通じている者がいると見ていたからだろう。

 

 叛乱軍に同情している場合ではなくなった。

 もう、この叛乱がどう転がるか日和見している状況ではなくなった。

 下手に叛乱軍を庇えば自分も叛乱軍に同心していたとして処分の対象になるかもしれない。


 ここは速やかに叛乱軍討伐に乗り出さなくては、自分の地位と身が危うくなるやもしれん!

 既に閑院宮総長が陸軍大臣官邸に突入している以上、一刻の猶予も無い!

 行動に出て身の潔白を示すしかない!


 憲兵隊本部に参集した者達はここに来て、ようやく叛乱軍討伐で意思を統一し動き出しだ。




♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢



 同じ頃「皇居」には続々と各大臣、枢密顧問、軍事参議官らが参内して来ていた。


 陛下には既に叛乱軍決起の報は伝えられていた。

 午前5時40分に第一報が侍従により伝えられ、午前6時には侍従武官長の本庄繁大将から続報を受けている。

 

 陛下は激怒していた。

 信頼していた高橋是清大蔵大臣や斎藤実内務大臣が叛乱軍に殺害されたと知ったからである。

 既に陛下の意思は叛乱軍討伐で固まっていた。


 この件について参内し集まった大臣、枢密顧問、軍事参議官らが何らかの意見を言ったとしても陛下が翻意される余地は無かっただろう。


 だが、それよりも早く状況が動いた。


 閑院宮総長が一隊を率いて陸軍大臣官邸に突入し叛乱軍の武力鎮圧を開始したとの報が入ったのである。

 しかも川島義之陸軍大臣を無事に救出したとの続報も入る。


 本来なら陛下の御裁断なくして兵を動かす事は許されていない。

 ましてや閑院宮総長からは正式に病気療養中との届けが出ている。


 何故、閑院宮総長が大命なくして鎮圧に動いているのか?

 皇居に参内した者達は皆訝しんだ。

 陛下も訝しみながらも、まずは事態の速やかな収拾を望む。 


 更に2時間後、続報として叛乱軍全部隊が鎮圧されたとの報が入る。 


 こうして後に「226事件」と呼ばれる事になる叛乱は僅か数時間にて、その決着を見たのである。


【to be continued】

【筆者からの一言】


大勢は決した……

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