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総長戦記 0031話 指示

【筆者からの一言】


架空兵器や改造兵器もいいけれど、旧式兵器も……

1940年2月 『満洲 関東軍司令部』


「ふむっ」

 関東軍司令官の梅津美治郎中将は参謀本部からの伝達事項を読んで無意識のうちに一声、声を漏らした。


 参謀本部というよりは、これは閑院宮総長の指示だなと思う。

 指示に癖がありすぎる。

 参謀本部のエリート参謀はこんな事は考えない。

 だが、特に難しい指示でもない。


 指示の内容は新たに満洲北部で飛行場建設を行う民間会社「鳥島組」に護衛を出すようにとの事だ。

 飛行場建設予定地は3ヵ所。


 1ヵ所目は黒河省の伊昔青站の西、約20キロの地点。そこから北西に10キロも進めば金鉱山がある。真っ直ぐ西に向かえばソ連との国境で、そこまでの距離は約40キロ。


 2ヵ所目も黒河省で小北溝の南東、約30キロの地点。小北溝の近くにも金鉱山がある。真っ直ぐ北に進めばソ連との国境で、そこまでの距離は約20キロ。


 3ヵ所目は興安北省の温河の東、約30キロの地点。温河の近くにも金鉱山がある。温河はソ連との国境の河「アルグン河」に面している。


 この飛行場建設は対外的な表向きの理由としては金鉱山から産出される金鉱石の輸送に使われるという事になっていた。

 また、満洲の中央から離れた地方では、匪賊(反満抗日を主張する武装集団及び武装強盗団)が出没しており、日本企業や日本人が襲われる事も頻発していたので、公益性の高い事業に護衛を出す事もおかしな話ではなかった。


 ただし、それは全て表向きな話であり、閑院宮総長は「関東軍」に対し飛行場が完成した暁には、その基地化、小規模な航空隊の受け入れ準備と、航空燃料や大型爆撃機用の航空爆弾の集積を指示して来たのである。

 更には閑院宮総長は内地にある「87式重爆撃機」と「92式重爆撃機」の配備を示唆していた。


 他にも「関東軍」内部で策定されていたソ連との有事の際に行われる特殊作戦。特殊部隊によるシベリア鉄道破壊作戦の規模をもっと大規模な計画にするよう指示もして来た。



 梅津美治郎中将は椅子の背に深く背を預け暫く上を見て考えた。


 飛行場の建設と重爆撃機の派遣。

 これは恐らくシベリア鉄道爆撃のためだろう。

 関東軍でも有事の際には重爆撃機によるシベリア鉄道爆撃は計画していたが、それでは足りないとの総長の御判断なのだろう。 

 特殊部隊による鉄道爆破もこれまでの計画では不足との御判断のようだ。


 これまでの対ソ連戦計画を補強するような動きだが……

 何故、今なのだ?

 陸と空からのシベリア鉄道破壊計画は何も最近考えられたものではない。今になって何故、補強するような動きをする?


「ノモンハン事件」以後、陸軍は戦術、戦略の見直しと改革とで大きく揺れている。

 その為、とても今は攻勢に出られる状態ではない。


 かといって情報部からの定時報告ではソ連が侵攻して来るような気配は見られない。

 中央が別ルートで情報を掴んだのなら、それを現地司令官の自分に伝えてくるのが当たり前の筈だが未だにそんな連絡は無い。


 陸軍の改革途中で事態が急変し、ソ連軍が侵攻して来た場合を想定しての予防策か?

 

 それにしては、飛行場の位置がどれも国境に近すぎるのが気に掛かる。


 しかも配備するのは旧式な「87式重爆撃機」と「92式重爆撃機」だ。

 今、陸軍は「93式重爆撃機」を退役させつつ「97式爆撃機」を配備している最中だ。


「87式重爆撃機」は退役して何年も経つ筈だ。

 二世代前の重爆撃機や退役した三世代前の重爆撃機を何故、今、最前線とも言える位置に配置しようとする?


 西方のソ連国境に近い満州里にも関東軍情報部は抜きで参謀本部直轄の特務機関を去年開設し便宜だけはかるように指示してきている。


 総長は一体何をお考えなのだ?

 せめて関東軍司令官の自分には教えてくれてもよいものを。

 そう思わずにはいられない。

  

 その日、梅津美治郎中将が思考を止める事は寝る時間が来るまでなかった。

 だが当然な事に疑問が解ける事も無かった……


【to be continued】


【筆者からの一言】


今回の歴史では退役した「87式重爆撃機」は総長の指示により保管され定期的に整備され飛行もしていたようです。

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