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総長戦記 0020話 河豚(ふぐ)を食す その③

【筆者からの一言】


たまには官僚の愚痴を

1938年1月 『日本 東京 某料亭』


 旬な河豚(ふぐ)料理の味覚を堪能している5人の男達。


 陸軍参謀本部の閑院宮総長。

 陸軍のハルピン特務機関長の樋口季一郎少将。

 満洲での経済界の重鎮、満洲重工業開発株式会社の鮎川義介総裁。

 満洲国の国務院総務長官の星野直樹。

 満洲国でのユダヤ人社会代表アブラハム・カウフマン。


 その中で国務院総務長官の星野直樹は厄介な事になったものだと内心では溜め息をついていた。

 閑院宮総長はユダヤ人自治区を造ると簡単に言うが、言うは易く行うは難しだ。

 

 だいたい、誰が実際にそれを行うかと言うと、それは自分だ。

 満洲の政治を実質的に動かしているのは国務院であり、その責任はすべからく総務長官の自分に伸し掛かって来る。

 まあ、直接的な仕事は全て部下に丸投げするつもりではいる。 

 それでも最終的な責任を負うのは自分なのだから厄介事に変わりはない。


 ただでさえ満洲の政治は厄介だ。

 皇帝溥儀とその側近達は満洲の政治の重要な部分において、日本の傀儡と化している事に必ずしも喜んではいない。

 まあ同じ立場に立てば、どんな人間だろうと喜ぶ奴はいないだろうが。


 ユダヤ人の自治区を造るなんて言ったら皇帝溥儀とその側近達は何と言い出すやら。

 

 白系ロシア人の反ユダヤ意識の問題もある。


人種問題は本当に厄介だ。

内地で踏ん反り返っている者はそれがわかっていない。

 

 先日も日本人商人の代表とやらが中国系商人が薄利多売で商売しているせいで日本人商人が立ち行かないと陳情に来たり……そんな事、知るか! 何で下級官僚はそんな事も処理できんのだ! 陳情をいちいち上に上げてくるんじゃない! そんな話は、お前達の権限で処理しろって言うんだ! 給料分働けって言うんだ! (日本人商人代表とやらには前向きに善処しますと三流政治家のお約束答弁を真似て丁重に追い返した。その後、玄関に塩を撒いた)


 満人が日本人に不当に安く土地を奪われたと集団で陳情に来たり……そんな事、知るか! 何で下級官僚はそんな事も処理できんのだ! 陳情をいちいち上に上げてくるんじゃない! そんな話はお前達の権限で処理しろって言うんだ! 給料分働けって言うんだ! 給料減らすぞ! (満人には裁判所に訴えろといって追い返した。その後、玄関に塩を撒いた)


 朝鮮人が満人の警官が犯罪を取り締まってくれないと集団で陳情に来たり……そんな事、知るか! 何で下級官僚はそんな事も処理できんのだ! 陳情をいちいち上に上げてくるんじゃない! そんな話はお前達の権限で処理しろって言うんだ! 給料分働けって言うんだ! 給料減らすぞ! 来期から減給にしてやる!(朝鮮人には日本官僚お約束答弁で至急調査して厳正に対処すると言いって追い返した。その後、玄関に塩を撒いた)


 モンゴル人が大地に車が走るようになってから羊の乳の出が悪くなったと集団で陳情に来たり……そんな事、知るか! そのうち写真に撮られると魂を盗られるとでも言い出すんじゃないのか? いや、そんな事より何で下級官僚はそんな事も処理できんのだ! 陳情をいちいち上に上げてくるんじゃない! そんな話はお前達の権限で処理しろって言うんだ! 給料分働けって言うんだ! 給料減らすぞ! 来期から減給にしてやる! 休みも減らしてやる! (モンゴル人には獣医に見せなさいと言って追い返した。民間の獣医が満洲にいるかなんて知らん)


 中国人の阿片愛好団体が阿片の合法化の陳情に来たり……そんな事、知るか! 何で下級官僚はそんな事も処理できんのだ! 薬中(やくちゅう)の陳情をいちいち上に上げてくるんじゃない! そんな話はお前達の権限で処理しろって言うんだ! 給料分働けって言うんだ! 給料減らすぞ! 来期から減給にしてやる! 休みも減らしてやる! 毎日の休憩時間も減らしてやる! (中国人達は、おとといきやがれ!と蹴とばして追い出し塩を撒いた)


 満洲国の王道楽土だの五族協和で日本人、満人、朝鮮人、モンゴル人、中国人がみんな仲良く平和に暮らすと言ったって、その内実は問題だらけなんだぞ。


 それなのに更にユダヤ人の問題が増えるのか。


 やれやれ、これからどれだけ苦労させられるのやら……

 

 河豚(ふぐ)の旨さを楽しみながらも星野直樹長官は胸の内では嘆かずにはいられなかった。


【to be continued】

【筆者からの一言】


本来、総務長官の所までこんな陳情がくる事はありえません。

でも何故かこの歴史では来てしまったようです。


恐怖、無能な部下……

恐怖、無能な上司……

読者さんはどちらがより恐怖ですか?


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