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総長戦記 002話 流血の226 その①

【筆者からの一言】


いよいよ総長の活躍が始まる!

 1936年2月26日 『日本 東京』


 その日、帝都東京は震撼した。


 まだ、夜も明けきらない早朝、陸軍の青年将校達が現在の日本の政治を憂い部下を率いてクーデターを起こしたのである。

 その叛乱軍兵力は約1600人。

 既に襲われた場所は首相官邸、陸軍大臣官邸、内務大臣官邸、侍従長官官邸、大蔵大臣の私邸、内大臣の私邸、陸軍教育総監の私邸、警視庁の8カ所にも上った。


 そして叛乱軍士官達が自分達の要求を通そうと陸軍上層部と折衝を続けている場所が陸軍大臣官邸である。


 その陸軍大臣官邸に向かう一団があった。

 閑院宮陸軍参謀総長に率いられた一団だ。


 閑院宮邸から陸軍大臣官邸までの距離は1キロにも満たない近さにある。


 黙々と歩くその一団からは重苦しくも気迫が漲る気配が放たれている。


 その行動は直ぐに叛乱軍に察知された。

 警戒線を敷いていた叛乱軍兵士達より伝令が飛び官邸内で交渉にあたっていた叛乱軍士官達に伝達される。


「討伐軍か!」

「いや、待て、討伐軍ならば包囲して一斉攻撃を仕掛けて来る筈だ。僅か一中隊規模で一方向からという事はあるまい」

「我々に賛同する者達が合流しようとしているのではないか?」


 警戒線を敷いていた叛乱軍兵士は閑院宮総長自らが指揮している部隊とは知らず、ただ一個中隊程度の兵力が接近中との報告をした。

 それ故に叛乱軍士官達の判断は混乱する。


 ともかく、まずは相手を確認しようと香田清貞大尉と竹島継夫中尉、山本又予備役少尉が官邸を出て様子を見に行く。


 彼らは見た。

 暫くして現れた集団の先頭に位置する者を。

 それは紛れもなく閑院宮総長、その人であった。

 

 これは叛乱軍の計画において計算外の事態だった。


 叛乱を起こしたのは皇道派の士官達である。

 君側の奸を取り除き天皇親政の下に真の近代国家を築こうという者達である。

 皇族への尊崇の念も当然深い。

 

 皇族たる閑院宮総長にご迷惑はお掛けできぬとも思慮していた。

 閑院宮邸は陸軍大臣官邸や首相官邸に近い位置にある。

 事を起こせば必ず閑院宮総長をも巻き込む事になる。

 皇道派としてそれは絶対に避けたかった事である。


 だがチャンスは到来した。

 閑院宮総長は小田原で静養している。

 だからこその、このタイミングでの叛乱でもあったのだ。


 それが何故、閑院宮総長がここにいるのか?


 叛乱軍士官達は混乱した。混乱したままに閑院宮総長に願い出て、自分達の主張を聞いてもらおうとした。

「か、閣下、我わ・・・」


 香田清貞大尉は最後まで言葉を発する事はできなかった。

 いや総長が言わせなかった。

 電光一閃。

 総長の右手で振るった軍刀が、香田大尉の喉笛を切り裂いていた。

 雪の中に鮮血の紅い血しぶきが飛んでいた。

 動脈から派手に噴出する血が返り血となり総長を濡らす。

 だが、血塗れになる事を気にも留めず総長は言い放つ。


「お前が誰であろうと、どんな大義を唱えようと、そんな事はどうでもいい。逆賊は死ね! それだけだ」


 香田大尉にその言葉が聞こえているのか、それは分からない。苦悶の表情を浮かべた香田大尉は喉に両手をあてながら地面に崩れ落ちた。


 それだけで事は終わらなかった。

 閑院宮総長はいつの間に抜いたのか拳銃を左手に構え、唖然とした様子の竹島継夫中尉と山本又予備役少尉に容赦なく銃弾を撃ち込んだのである。

 二人は眉間を撃ち抜かれ、夥しい血を後頭部から撒き散らしながら悲鳴さえ上げる間もなく倒れ伏した。


 咄嗟の出来事に周辺にいた叛乱軍兵士達はどうすればいいのかわからない。


 総長が氷の目で周辺の叛乱軍兵士をねめつける。

 その眼光の鋭さに兵士達は怯み、中には無意識に一歩下がった者もいた。

 そんな叛乱軍兵士達に総長は言葉をかける。


「これより貴様達は我、閑院宮の指揮下に入る! よいな!」

「「「「「はい、閣下!!」」」」」


 門で守備にあたっていた叛乱軍兵士達が唱和し総長に向かって捧げ(つつ)をする。

 元々、下級の兵士達は、自らの自発的意思で叛乱を起こした青年士官達とは違い、上官の命令に従ったという者が殆どだ。

 今回の叛乱に参加した士官、下士官を除く兵士1360人のうち、約1000人は入営約1ヵ月の初年兵でもあった。

 軍人になったばかりの兵士達の中にも色々な思いはあれど、殆どの兵士は上官の命令だから従ったに過ぎず、より地位の高い者に命令されれば、それに服するのは当然との考えだったのだ。

 元帥であり、しかも皇族である閑院宮総長に敢えて立ち向かおうとする者は皆無であった。


 陸軍大臣官邸の中に歩み入った閑院宮総長は、騒ぎを聞きつけ表に出てこようとてしていた複数の叛乱軍士官を有無を言わさず射殺した。

 立ち止まりもしない。

 片手に抜き身の軍刀をぶら下げて、片手に南部式拳銃を持った閑院宮総長は出会う者、その全てを殺す。 切り殺し、突き殺し、銃弾を叩きこむ。


 歳を全く感じさせない動きだ。

 それもその筈。閑院宮総長は若い頃から古武術を鍛錬して来た。

 同じ量の稽古を毎日していても年齢が上がるにつれて肉体の老化は進み、衰え、身に付けた技は鈍る。

 それを否とするのなら若い頃よりも更に稽古の量を増やし続けるしかない。そして、それを実践しているのが閑院宮載仁親王という男だった。

 その鋼の肉体としなやかな筋肉が可能とする動きは決して若い者に負けていない。

 負けないどころか凌駕している。

 その肉体の動きについてこれる者など、そうはいなかった。

 

 閑院宮総長に殺害されたのは叛乱軍士官達だけではなかった。

 叛乱軍と交渉にあたっていた者さえ射殺されるか切り殺された。

 ただし、交渉とは言ってもこの時、叛乱軍士官達以外で陸軍大臣官邸にいた者達の多くは叛乱軍寄りの者達だ。

 皇道派と思想的に対立する統制派の者は叛乱軍が官邸に入れなかった。

 そういう意味では思想的に叛乱軍に近い者が官邸にいた。


 出会った者は士官だろうが、将官だろうが容赦なく切られるか射ち殺された。

 殺された者達は言葉を交わす暇も与えられなかった。


 閑院宮総長の持つ拳銃が弾切れになれば、直ぐに後ろに付き従う副官が全弾装填している新たな拳銃と交換する。


 官邸内は頭を撃ち抜かれた者、心臓を撃ち抜かれた者、軍刀で斬殺された者の死体が累々と横たわり、そこかしこに血が飛び散っていた。

 それは、まさに有無を言わせぬ虐殺だった。

 例外は川島義之陸軍大臣やその秘書官ら陸軍大臣付の者達だけだった。

 それ以外は全員殺された。


 閑院宮総長は表情一つ変えず凄惨な現場を増やし続ける。眉一つ動かさず、ただただ目の前に現れる者を殺害していく……


【to be continued】

【筆者からの一言】


総長は無敵!


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