総長戦記 0010話 力を求めて
【筆者からの一言】
総長が求める物とは……
時を遡る事、数年前の1932年 『閑院宮邸』
閑院宮邸の客間にて数人の男達が深刻な顔をしていた。
全員が数十分程前に配られた書類を丹念に読んでいる。
この男達には共通点があった。
皆、日本を代表とする学者だ。
それも物理学者だった。
学者達は皆、当初は同じ思いだった。
何故、自分はここに呼ばれたのか?
陸軍で議定官の役職にある閑院宮閣下がお呼びだと聞いた時は何事かと思った。
今まで陸軍とは、それほど深い関係にあったわけではない。
閑院宮閣下の私邸に招かれた事から皇族の立場としてお呼びになったのかと思ったが心当たりは全くなかった。
閑院宮邸に来て初めて呼び出されたのが自分だけではなく、日本で著名な物理学者が複数呼び出されていた事を知った。
執事に客間に通され待っている間に、一人、また一人と旧知の、または名前だけは知っている学者が案内されてくる。
そして、どうやら全員が揃ったのだろう。
執事から数種の論文らしきものをそれぞれ手渡され読むように言われた。
そして全員が首を傾げる事になる。
そこには今まで、見聞した事のない理論が書かれていたからだ。
解説図付きで書かれているこの理論が正しいのか誤っているのかさえ直ぐには判断できなかった。
いつしか学者達はこの理論について論じあう。
正しいのか、そうでないのか。
誰が一体このような理論を構築したのか。
最初は静かに語り合っていたが、段々と議論に熱が入って来て声も大きくなってくる。
そんな時、執事が部屋に入って来て一礼した。
「主人が参りました」
その声に一同は起立して閑院宮載仁親王を迎える。
そして体格のよい立派な髭を生やした閑院宮載仁親王が姿を現した。
「あぁどうぞお座り下さい。堅苦しい挨拶は抜きで」
まず初めに、そう述べた閑院宮載仁親王であったが、間髪を入れず早くも用件を切り出した。
「議論が弾んでいたようだが、皆さんは、これをどうお思いになられましたかな?」
学者達は顔を見合わせ、困ったような顔をしたが、そのうちの一人が代表で答えを返す。
「……誠に驚くべき、理論でありますが、一体どこの誰がこのような理論を纏め上げたのでありましょうか?」
「申し訳ないが、それは国家機密につき申し上げられぬのです」
閑院宮載仁親王の言葉に皆の顔に驚きが走った。
国家機密とは……
これは厄介な話になって来たと感じる。
「その論文を読めばお分かりでしょう。もし、それが実用化され兵器として使用されたならばどうなるか……」
その閑院宮載仁親王の言葉に学者の一人が頷きながら答える。
「とてつもない破壊力を持った物になるやもしれません」
「そうです。もしその理論が正しく実現する物ならば、それを持つ国には大きな力となり持たざる国にとっては大変な脅威となる。
故に皆さんにお願いしたい。いや要請したい。この論文の実証実験を行ってほしいのですよ」
閑院宮載仁親王の言葉に学者達は顔を見合わせた。
この論文に興味はあったが、あまりにも不確定要素が多すぎた。
「しかし、実証実験と申されましても……」
「研究にかかる資金や必要な物は責任を持ってこの閑院宮が用意しましょう。これも国のため、どうか曲げてお願いしたい」
皇族にそうまで言われては、学者達も断りにくい。
元々、断る事はできないだろうとも思っていた。
学者達は了承し研究を開始する事になる。
それはこの時代にはまだない筈の知識。
「核分裂理論」を始めとする原子爆弾開発に必要な数々の理論であった。
【to be continued】
【筆者からの一言】
総長は原子爆弾をお望みです。