攻撃の条件
悲鳴を上げながらのた打ち回る者、悲鳴すらあげずに自らが溶けた肉でより溶けて行く者、大勢を巻き込んだ血のシャワーは僕たちに大打撃を与えた。
クラスメートの女子一人が腕に血を浴びてやけどを負っている。
「てめえーーー!」
茶髪の男子が怒りを露にした時、その手には槍が現れた。
大げさな光に包まれるのでもなく途端に現れた武器。
「なんだこれ!?」
急な展開に驚きを隠せない彼だが、仲間の二人にも武器の存在を知らせた。
「おい、なんかでるぞ!!」
クラスメートの男子三人は無事な様だ。
茶髪の彼は槍、髪が長めの彼は剣、スポーツマンの彼は斧。
見た目通りの配職だった。
クラスメートの女子は一人見当たらず、一人は腕に炎症、一人は無傷だが怪我の心配をしていた。
高校生三人が武器を出現させた事で自分にも出来るかもしれないと同じ様に武器を出現させたのは他に二人。
サラリーマンの彼は剣、チャラそうな若者も剣だった。
後の数人は怪我人か脅えきって戦闘どころじゃない。
生きているのは11人。
どれもこれもゲームで見たような汎用の武器だ。
あんなもので化け物が倒せるのだろうか。
「ねえ!美樹がいないの!さがして!」
腕を怪我した女子が喚く。
見渡す限り血の海で何が何の肉すらわからない。
この状況下でいないなら探すまでもなかった。
しかしそれをあえて言わずに茶髪の彼は彼女を励ます。
「あいつ倒したらさがそう!逃げてるかもしれないもんな!」
青春の裏で赤い人は血の池から肉体を全て露にしていた。
再びゆっくりと近付き僕たちを溶かそうとしてくるのだろう。
だが状況は悪化している。
一面血の海になってしまった以上、強酸性の血を踏まずに行動するのは難しく、赤い人の行動範囲も広い。
近付くにも読まれやすく危険だ。
しかし茶髪の彼は赤い人を睨むと一直線に向かい、手にした槍で胴体を何度も突いた。
そしてがら空きののどを最後に突き刺すと赤い人は力無く倒れた。
「…やったか?」
そう言い終えた刹那、赤い人は空から吊られる様に立ち上がり、のどに刺さった槍を抜いた。
顔を正面に見据え、口を大きく空けるとその口はめくれあがり、頭蓋を越えて胴体へ、下半身を巡って、全てが裏返った。
そこには今付けた傷は無い。
槍を手にしていない彼は捨てられた槍を再び手にしようと走った。
赤い人の動きは緩慢である、その油断が注意力を鈍らせていた。
槍を手にした彼の眼前には赤い人が居て、彼の顔をゆっくりと舐めた。
そしてそのまま背中に手をやると彼の全ては引き千切られ破けた。
服はおろか、髪の毛、皮膚までも。
そのまま血の海に倒れこむ彼の呻き声は悲痛そのものだった。
絶命した死体の中で新たな命が絶える。
これを見ていたクラスメートの男子二人は憤慨し一気に切りつけた
剣や斧で袈裟切りにしようと手足と落とそうと頭を叩き割ろうと赤い人は裏返り元に戻る。
サラリーマンや若者も加わり切り付け続けるが決定打に欠けていた。
そして攻撃する度に飛び散る血は着実に彼らにダメージを負わしていた。
こちらから攻撃を続けている以上、致命傷級の攻撃は来ないが、このまま消耗戦をしていてもやがて力尽きるのは誰の目にも明らかだった。
そして僕は無力だった。
何の武器も出せないのだから。