未完成な箱の中で
目覚めると視野の先一面は緋色の空で、僕は無機質なコンクリートの床に仰向けで倒れていた。
状況を把握出来ないまま音のする方へと目線をずらすと近くにクラスメートの女子が数名泣き言を言っていた。
硬い粉っぽさのある床は紺色のブレザーを白く汚して、まるで灰かぶりだ。
「せっかくのランドなのにこんなんじゃ行けないじゃん。」
お互いに汚れた箇所をはたき合っている。
僕は上体を起こして周りを見渡した。
辺りは体育館程の広さで、10数メートルの高い壁に覆われていた。
どう考えても今まで座っていたバスの車内では無い、例えるなら高層ビルと高層ビルの合間にいる様だ。
一瞬事故にでも遭ったのかとも頭をよぎったが、高速道路を走っていたバスから投げ出されて服が汚れるだけな訳がない。
見た所自分にも彼女らにも怪我らしい怪我は無い様だ。
彼女らは何かを見つけ駆け寄っていく、クラスメートの男子達がそこにいた。
そして次々と人影が増えて行った。
意識を取り戻したタイミングが個人差こそあれ同程度なのか、無機質な空間に投げ出された自分を不安に思った人々が集まって行く。
ものの数分で集った人数は僕を含めて24人。
さすがに僕もこういった時位協調性はあったらしい。
こんな場所では独りは不安だ。
物語ではこんな時自己紹介をし出す者、パニックに陥る者がいるが、実際不意に不可解な状況下に至ると大人しくなるらしい。
集まった中の近くにいる者どうしでここはどこなのかと探ってはいるがそんな事わかるはずがない。
何せ同じ車内に載っていたのにも関わらず、僕たちクラスメートは7人しかいない。
事件なら利用価値を考えて人数はいればいるだけいい、事故なら飛散していようが死体の一つや二つあっておかしくない。
なのに無傷のままの人間が無作為に同時刻に目覚める様に置いて行かれる説明なんて誰が出来るだろうか。
もし意図があっても現時点では誰も辿りつけはしないだろう。
当事者でもない限りは。
クラスメートの男子3人女子3人のグループは仲間といる安心感なのか、泣いたり励ましたりし合っているが、少し打算めいたものを感じてしまう。
別に自分がその輪に入っていない事への嫉妬ではない。
あまりにも非現実的な此処での在り方ではないからだ。
なぜならば僕たちが居るこの場所は先述した通り10数メートルの高い壁に囲まれている。
それはロの字では無く、コの字。
つまり行き止まりに僕たちは置いてかれたと推察出来た。
こんな高い壁の上から放り投げられていれば死ぬか重症を負うし、早急に造れる様な物でもないだろう。
誰が何のためにこんな所へ連れてきたのかは知るよしもないが、分かるのは閉じ込めたのではなく、追いやったという事。
24人もいて誰一人状況が飲み込めていない、ここへ至った移動手段もわからない、そして霞がかった袋小路の先から何かが漂って見え、それは近付いて来ても見える事。
朧気なその何かは不運や不幸の中でも特別悪い意味を含ませているだろう予感を覚えさせた。
「大丈夫だから」
平常時では何よりも甘いであろう言葉を彼はこの後も継続して囁いていられるだろうか。
大丈夫であって欲しい、想像もつかない都合の良い展開が訪れる事を僕は彼女らの代わりに願った。