伍
私の言葉に薫子さんは押入れの中の行李から、紺色の浴衣を出し銭湯へと出掛けた。
「……よし」
私は腕まくりをして雨戸を開け、白いスカーフを襟元から外して鼻と口を覆い後頭部で結んだ。
とにかくお掃除しながら考えることにした。
臭い座布団を庭の物干し竿へつるす。
そして、ほうきで虫や鼠の死骸、埃と砂を庭へ掃き出し、茶碗をざっと洗う。
あら、あらら。
私の頭が軽くなるわ。
これは、人間だった時にもしていた気がする。
スカーフを襟元に結び直し、鼻歌まじりに固く絞った雑巾で畳を拭きあげる。
春太郎くんは薫子さんを苦しめたかったのだろうか?
薫子さんは春太郎くんを男として受け入れるしかなかったのだろうか?
すっきりとした狭い和室を見渡しながら私は考える。
でも、春太郎くんのあの表情は確かに薫子さんに苦しめられている証拠だと思うわ。
安易な性交渉ほど人間を動物たらしめるものだから、まだ、生殖に対して未熟な春太郎くんには相当な負担なはず。
薫子さんも、自分に絶望するほどに後悔しているのなら、大人としてどうにか止めておけばよかっただろうに。
「はてさて……」
私は首をかしげた。
じゅるじゅると耳の奥で培養液が移動する。
あらら、股の間と口からだいぶ出てしまったから、時間があまりない。
博士、私はやり遂げてみせますから。