後日談
あれから梅雨が明けてジメジメした天気から解放され、毎日が蒸されるほどの熱気に包まれる様になった。これはこれで勘弁してくれと思う。
元気になったいずみにもう大丈夫だからと言われ、会社へ復帰し忙しい毎日を過ごしている。
「おはようございます」
「菊池! 早瀬が復帰したぞ」
「そうなんですか?」
「あぁ。いや〜、良かったよ」
復帰した当初、送り出してくれた時よりも少しやつれた部長がニコニコと笑いながらいずみの回復を喜んでくれた。その後は鬼の様に使われ、残業の日々を送っていたのは記憶に新しい。
「よし、これで全員復帰だな!」
「き、菊池。おはよう」
「おはよう、早瀬。もう大丈夫なのか? 復帰できて良かったな?」
「う、うん」
ビクビクと人の顔を伺い、時々ボーッとした様に動きが止まる。こんこんと眠っていた早瀬は突然目覚めて退院してしばらく自宅療養した後、復帰したらしい。
「おいおい、大丈夫か? しっかりしないと駄目だよ。早瀬?」
「っあ、あぁ」
ボクが語尾を強め微笑むと顔を青ざめさせ、仕事へ取り掛かった。そんなにビクつく事ないだろう。まぁ……あんな夢を幾度となく観せられたなら、なおさら直ぐに元通りとまではいかないのかもしれないが。
仕事も終わり自宅へ帰るといずみが小走りに出迎えてくれた。
「一哉さん。今日ね、大家さんが来たの」
「ん? 何かあったの?」
「山田さん……亡くなってたらしいの」
「いつ?」
「大雨の前日に……」
大雨の前日と言うと、二人で話を聞きに行く前か?
横からケイの“はくちゅーむってなぁに?”の質問の説明をして思い起こせば、不自然な点が幾つかあったのを思い出す。そうか……。だから陰が薄かったのか。なんて納得してしまった。
+ + +
悪夢を見る回数が減ってきた。あんなに眠る事を恐れていたのが嘘のようだ……。今は取り留めもない夢ばかり。あぁ、でもいずみが出てくる時は良い。ケイの赤ん坊だった頃も可愛いと思えた。
いずみは今でも寝室へは入れない。それに、此処から出たがっていた様なので引っ越す事にした。
まぁ、ボクはこの体があればいずみと一緒に居られるから良い。ケイが時々、ボクに向かって怖いものを見る様な目をするが、慣れてもらうしかないな。
今日は引っ越しの日。いずみはボクがあげた赤いチュニックを着ている。引っ越しなのにと嫌がったが、折角買ったのに着ないじゃないかと言えば、渋々着てくれた。
やっぱりキミには赤が似合うよ。
引っ越し業者がどんどん荷物を運び出して行く。暑くないのかといずみが聞いてくるが、猛暑みたいな暑い日にハイネックの服を着ていればそう思うか。好きだからで誤魔化した。
「そうだった?」
「うん。……あ、ちょっと待って下さい。それはボクが持ちますよ」
引っ越し業者がボクの大切なモノを運び出そうとしていたから、指示を出す事にした。大切に扱って貰わないと困る。
いずみの方を見れば、絵を描いているケイの元へ歩いていた。チュニックの裾がふわりと拡がりいずみの可愛らしさを引き立てている。
「あぁ……。気付いちゃったんだ……クスクス」
ニコニコと笑いケイの絵を見ていたいずみが、別の絵を手に取って見ると愕然とした表情で此方を見ていた。
あぁ、そうだ。今度こそ逃げられない様にしなきゃ。どうしたら良いだろうかと考える。
ずうっと一緒に居ようね?
俺の、ボクの……いずみーーーー
了
長らくお待たせしてしまい、申し訳ございませんでした。
無事に完結できて嬉しく思います。
え、ココで終わりなの?と思われた方もいらっしゃるかと思います。ココで終わりです。
私が書く話は終わっても彼、彼女らの物語は続いて行くわけでして。こんな形になりました。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
誤字脱字などございましたらご指摘くださいませm(_ _)m
それでは、また。