7話
始まりは森の中で
今にも泣きそうな曇り空、鬱蒼とした木々、ぬかるみの中に僕は立っていた。
周囲には吹きすさぶ風によって、草木のざわめきが聞こえる。
持ち物は、左腕に腕時計状のカウンター、背中には通学用のリュックを背負っていた。
「・・・ここはどこだろう?」
ジュンイチは後ろを振り返ったが、そこには異世界の門はなかった。
以前、最初に異世界の門をくぐった時と同じような状況であった。
異なることは、あの時はナイフがあったが今はないこと、レベルが少々上がっていること、そして最も大きな違いは、この世界の空気の重さであった。
「何か空気が重い。天候のせいかも知れないけど」
若干の違和感を感じつつ、どうすればよいか考える。
武器のない現状、以前の様に竹槍を作成するナイフも素材も見当たらない。
ダガーやブレーサーも持っていない。
魔法は使えると思うが、水を作っても武器にはならない。
とりあえず、人家を探して情報収集及び武器の購入をすることとした。
向かう場所も分からなかったので、軽くジャンプして森の出口を見つける。
念力も多少使えるようになったので、高い木に捕まることは簡単となっている。そこから見渡し、恐らく北の方角に森の出口を見つけた。そちらへ歩いてゆくこととする。
しばらく歩いていると、
「きゃー」
女性の悲鳴が聞こえた。
「うおっ、テンプレ来たー」
誰かが襲われている様だ。
ジュンイチは武器になりそうなものを探す。小石を数個ポケットに入れ、ないよりはましと、直ぐ壊れそうな木切れを手に持ち声のした方角へと走った。
「誰だろう?姫様だろうか?女騎士だろうか?それとも、それとも、一番ありそうなダークエルフとか?」
うきうきしながら、ジュンイチは走る。
思えば前回は、特にテンプレな出来事は何一つ起こっていない気がする。
すると、徐々に足音がこちらへ近づいて来た。
そこに現れたのは、
メスゴブリンであった・・・
「きゃー、こっちこないでー」
「げっへっへー、お嬢ちゃん、逃げられないぜー」
若干小奇麗なメスゴブリンが、変異種と思われる黒い皮膚のオスゴブリン3匹に追われていた。
しかも、ゴブリンは流暢な人語を話している。
どうしたものかと一瞬悩んだが、とりあえずメスゴブリンを助けることとした。
オスゴブリンに持っていた小石を投げつける。
「あいだ!なぁにするだ!」
「あー、すみません。何かそちらの女性?が困っている様なので、取りあえず助けようかと」
「お前よそもんだろうが!関係ないべっちゃ!」
「あー、そういいましても、いやはやどうしたもんでしょうか?」
「それは、こっちのセリフだ!関係ないもんは、引っ込んどけ!」
「とりあえず落ち着いて、何があったのか教えてもらえますか?」
「助けてください!お願いします!あの3人が急に襲って来たんです!」
メスゴブリンはジュンイチに気が付くと、後ろに回り込んで助けを依頼した。
既にやる気は失せていたが、巻き込まれた以上解決しておかなければならない。
ジュンイチは理由を聞くこととした。
「何があったんですか?」
「私がこの森へ薬草を取りに来たところ、あの3人が急に襲って来たんです」
「彼らは何者なんですか?」
「この近くのゴブリン村にこの間から加入した、新人の衛兵見習だと思います。最近私に向ける目つきが、だんだん嫌らしいものになってきたのを感じていたところなんです」
「あー、あなたはどなたですか?」
「私はゴブリン村の村長の孫娘です」
この世界にはゴブリン村があるらしい。
どうしたものかと悩んでいたが、ジュンイチの見た目で侮ったDQNゴブリン3人組は少しずつその包囲網を縮めてきた。
「とりあえず背中に乗って」
ジュンイチはメスゴブリンを背負うと、すかさずジャンプし、3人組の武器が届かない枝に飛び乗った。
3人組は走り寄ってきたが、魔法や弓など遠距離攻撃方法を持っていないらしく、木の下で武器を振り回し叫ぶだけであった。
まだこの世界の状況をつかめきれないジュンイチは、3人を殺すことはためらいがあり、否殺傷攻撃方法で追い払うこととした。
「ウォーター!」
人の頭位の水玉を3個作成し、それをオスゴブリンに投げつけた。
武器を振り回し水玉を跳ね除けようとする3人組であったが、念力を発動させ丁度頭を包むように水玉を固定した。
「「「ごぼごぼごぼごぼー!」」」
頭を振り手足をばたばたさせ、水玉から逃れようとするが振り払うことが出来ない。そのまま3人組は倒れてしまったのであった。
「何か縛るものある?」
「いえ、ありません」
「まあいいか、ほっとこう。とりあえず君を送るよ。村の場所を教えて?」
「この先まっすぐだと思います。追われてて、ちょっと分かりづらいですけど・・・」
「分かった。このままおぶって行くから、しっかりつかまっててね?」
「えっ?きゃー」
ジュンイチはそのまま枝から枝へとジャンプを繰り返し、メスゴブリンを背負ったままゴブリン村へと向かうのであった。
ゴブリン村の集落は、日本の昔ながらの藁ぶき屋根が立ち並ぶ、田舎村を呈していた。
近くを流れる小川のせせらぎ、そこから引かれているであろう水田、緑の山々に囲まれた長閑な村である。
季節は初秋を迎えており、稲穂が黄金色を放っている。ところどころの田んぼでは、もはや刈り入れをしているところもある様だ。野良作業をしている人々の姿も見かける。
日本の風景と異なるのは、すべて手作業であることと、全員がゴブリンであることであった。
「おじーちゃーん」
メスゴブリンは背中から降ろすと、野良作業をしているオスゴブリンに向かって叫びながら駆け出して行った。
「おー、ジュリアやー、薬草は集まったかー」
作業を止め、メスゴブリンを迎えるオスゴブリンが村長の様であった。ちなみにメスゴブリンの名前はジュリアということが分かった。
「おじいちゃん、大変なの。この人に助けてもらったの」
ジュリアは大きな身振り手振りで村長に説明していく。オスゴブリンは驚いたり安堵したりしているようであるが、流石にジュンイチにはゴブリンの表情はつかめなかった。
どうしたものかと思いながら、ジュリアの説明が終わり、村長の対応を待つこととした。
「おーい、誰か役場の護衛隊長を呼んできてくれー。孫娘が襲われたそうだー」
村長は近くのゴブリンに連絡をつけるとジュンイチに向き直った。
「これはこれは、この度は助けて頂いたそうで、ありがとうございました。ゴブリン村の村長をしておりますジーナスと言います。詳しい話を聞きたいので、役場の方まで来ていただいてもよろしいですか?」
こうして、ジュンイチはこの異世界の説明を受けることになったのであった・・・




