36話
始まりは、馬車の上
あれから4日間立った。ユーマからの連絡はない。
連絡がなくてもカウンターをつけているので、大体の位置は分かる。おおよそ予想されたコースをたどっている様だ。ジュンイチ達も予定の場所に到着し、今は仮眠中である。ジュンイチは馬車の中に寝るスペースがないため、馬車の上で寝ていたのであった。
レーコの作戦通りに昨日は準備を行い、今日は護衛集団が来るのを待つばかりである。現在時刻は夜明け前、ふと目が覚めたジュンイチであった。
「あぁ、そろそろ夜が明けそうだな」
東の空が、うっすらと明るくなってきている。秋も深まり、野宿はもはや毛布でもなくては寒いのであるが、ジュンイチは平気であった。固まった体を解きほぐし、思いっきり背伸びをする。馬車から降り立ち、顔を洗うといつもの様に演武を開始した。今日は両手剣の訓練をする。型を思い出し、腰を捻り、ひゅっという音がする速さで袈裟切りを行う。ほぼ1時間の鍛錬を終え、うっすらかいた汗を拭い去るジュンイチであった。
鍛練を終え、朝食作りを始める。鍋を出し、お湯を沸かし始めた時、バンダルが馬車から起きて来た。
「おはようございます、手伝います」
「おはよう、じゃあ食材を出すから切ってくれる?」
ジュンイチはポーチから食材を出し、バンダルに渡した。皮を剥き、下ごしらえを始めると、ケーゴも起きて来た。
「おはよう、水もらえない?」
「ああ、おはよう。そっちの洗面器に水を出すよ」
ケーゴは顔を洗うと、バンダルを手伝い始めた。
今日の朝食は、がっつりと肉入りシチューとパンにした。
食材を鍋に入れ煮込み始めると、ケーゴはレーコを起こしに行った。バンダルは顔を洗い、食器の準備を始めた。
結局レーコが起きて来たのは、全ての準備が終わってしばらくしてからであった。ジュンイチはリョウで慣れているため、さっさと食事を始めたが、バンダルは律儀にもレーコが起きるのを待っていた。
「食べながら聞いて頂戴、今日の作戦の再確認をするわね」
食べ終えて、自分の食器を片付けながらジュンイチは耳を傾けた。今まで何度も説明した内容を、繰り返し話し出すレーコであったが、皆真剣に話を聞くのであった。
その後は皆、それぞれの持ち場に着いた。連絡はレーコからのカウンターから行う事となる。ユーマの位置を確認しているレーコの傍で、ジュンイチはぼーっと空を見上げ待機していた。
昼を回り、それぞれが簡単な携帯食をとりながら待っていると、レーコからの指令が飛んだ。
「ジュンイチ、じゃあそろそろ偵察お願い」
「あーいーよー」
けだるそうに返事をし、ジュンイチは空に向かう。
護送集団の位置は大体つかめているので、見つからないように高度を取り、そちらの方角へ飛んで行く。
「んー、あそこらへんかなー?見晴らしがよすぎてこれ以上は近寄れないな。しばらく観察しておくか」
人が蟻のように見える位置で、ホバリングをする。しばらく待機していると、徐々にレーコ達の方向へ動いてくるのが確認できた。そして、黒い護送車も見えた。
「CQCQ、こちらSJ、NRどうぞー」
「なに馬鹿なこと言ってるのジュンイチ、敵は確認できた?」
ノリの悪いレーコであった。
「あー、見えた見えた。大体10Km少々かな?予定通りの様だよ」
「了解。SPは持つ?」
「結構ぎりぎりかもしれない。一旦帰るね」
「りょーかーい」
皆のところへまた帰り、SP回復する為休憩するジュンイチであった。
現在皆がいる場所は森に入るためには必ず通らなければいけない渓谷であった。
襲撃する為には格好の場所であるが、護送車を襲撃する山賊などはいない。ビーストもこんな場所ではなかなか集団でなければ襲ってこないだろう。すなわち、襲撃の恰好の場所にも関わらず、護送集団はさほど危機感をもっていないと思われた。ただ、この渓谷での野営は困難である。通り抜けるとまた森まで平地が続くため、集団は今日中に渓谷を抜けるはずというのがレーコの読みであった。
レーコからの指令が皆に飛ぶ。
緊張感が高まる中、再びジュンイチは空の人となった。
そして、護送集団の騎馬隊が渓谷に入ってきた。
護送車も渓谷に入った。
集団は念のため固まるように、隊列を引き締める。
辺りには鳥のさえずりしか聞こえない。そこに、
からからから
山の方向から小石が騎馬隊に向かって転がってきた。続いて、
ぐらぐらぐら・・・
地が動く。
「地震だー。落石の恐れがある、行軍中止ー。周囲を確認しろ!」
「隊長!土砂崩れです。騎馬隊の方角へ迫ってきてます!」
「騎馬隊のみ先行しろ!残りはこうたーい!」
隊長からの指示が飛ぶ。
どすん、がらがらがら
騎馬隊と護送車の間に落石が起こり、その後土砂が双方を分断した。
「護送車こうたーい!後ろの馬車、急いで後退しろー!」
護送車の護衛兵から怒声が飛ぶ。馬車の護衛兵は大慌てで馬車を旋回させ、後退させていった。
隊列が前後に長く伸び切った瞬間、
「ブラインド」
護送車を取り囲んでいた護衛兵に、ユーマの闇魔法が飛ぶ。
「「「うわ、めがめがー」」」
「今よジュンイチ!」
「はいよー」
空からジュンイチは護送車に飛び降りた。続いて護送車を念力で宙に浮かす。
「ぃよいっしょー、サルベージ!」
馬車を宙に浮かす魔法名を適当に叫びながら、護送車を渓谷の山手に引き上げ、持ち去って行ったジュンイチであった・・・




