16話
始まりは森の中
南西の森にたどり着いたジュンイチは、まず安全地帯を確保することから始めた。レベルアップ痛が起きた時に備えて、ビーストから襲われない場所の確保を行うこととしたのだ。
この森に生息するビーストは、グレイハウンズ、ポイズンフロッギー、ブラウンベアーである。基本木を登ったりしないビーストばかりなので、木の上に寝床を作成することとした。サマルカンドが使用した寝床があれば借りようと思ったが、周囲にそれらしい物影は見当たらない。仕方がないので枝振りがいい木に簡易の寝床を作ることとした。
下手すれば半日程度は動けなくなる。なるべく居心地のよい住みかが作りたいものだ。と言っても大工道具もなければ木を切る武器もない。なるべく頑丈な木切れを集め、組み合わせる様に床、壁、屋根を作っていった。動かない様に蔦の様なつる草で固定した。出入口は、真下のみとし、ジャンプでしか入れない様にした。
まるでトム・ソーヤの様な、木の上の家が完成した。ジュンイチは満足そうにうなづいた。
「カッコいいんでなーい?」
時間がないというのに半日掛けて作成した家を見て、ジュンイチは満足であった。最早夕暮れが近づき、狩りをするには遅い時刻となった為、今日のところは保存食を食べて寝ることとした。
次の日から狩りをすることにした。
心もとない武器を手に索敵する。狙いは1匹だけのビーストである。
包丁を2本両手に持ち、慎重に森の奥に歩いてゆく。
すると、奥の方にがさがさと草が揺れるのを確認した。
『この森での初ビーストか?1匹だけならラッキーだな』
木の影に隠れて、獲物が出てくるのを待つ。
現れたのはポイズンフロッギーであった。
『うわ、Eランクだ。毒持ちだよな、どうしよう?』
負けることはないだろうが、毒を受けたあとが厄介そうだ。
回避するか攻撃するか逡巡する。
取りあえず、逃げることはできそうなので投擲してみることとした。
「えーい!」
数m駆け寄り、力任せに包丁を投擲する。
当たると思われた寸前、ポイズンフロッギーは跳躍した。
「ゲコッ!」
そのままポイズンフロッギーは、舌を伸ばし攻撃してきた。
毒を受けるかも知れない。ジュンイチは後方へ大げさにジャンプし、距離を取った。
そのまま大きな木の枝に着地する。ポイズンフロッギーのジャンプ力はそれ程でもない様だ。ジュンイチが見える位置まで来たが、それ以上は近づいて来ない。ジュンイチはリュックからもう一本包丁を取り出すと、2段構えで投擲をすることとした。
狙いをつけて左手で投げる。若干頭部より下方を狙う。
狙い通り、ポイズンフロッギーは飛び上がり包丁を躱す。
最高到達点に至る時を狙い、右手の包丁を投擲する。
「ぷしゅっ!」
包丁はポイズンフロッギーの前頭部に突き刺さり、そのまま敵は動かなくなった・・・
『ちゃちゃちゃ、ちゃっちゃっちゃっちゃー』
1レベルアップの音楽が鳴る。
「やっぱりうるさいなぁ。どうにかならないだろうか?」
呟きながら、カウンターを確認してみた。
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ジュンイチ
LV : 13
HP : 43/46
MP : 33/40
SP : 34/43
STR: 38
DEF: 37
INT: 36
MND: 36
AGL: 38
EXP: ???
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無事レベルアップした様だが、EXP表示がおかしくなっている。
カウンター表面を拭いたりして、再度確認してみたが、やはり表示されない。
「おかしいな?壊れたかな?EXP表示は見れなくてもいいけど、他の部分が壊れるとまずいなぁ」
しかし、こういうことにはポジティブシンキングなジュンイチは気にしないことにした。どうせこのサマルカンドの世界では、ガイアの世界とレベルアップ経験値が異なるのだ。要するに、この森でもある程度すぐレベルアップできるということが分かった。後は今日、どの位狩りをすればいいかだけであるが・・・
「それにしても、包丁だとやっぱり心もとないよな。どうしようかなぁ」
今の戦闘を踏まえ、攻撃方法をもう少し検討することにした。とりあえず、一度木の上の家に帰ることにしたのであった。
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「そうだ、槍を作ろう!」
包丁2丁流で立ち向かおうとしていたが、ポイズンフロッギーに近寄るのは愚かしい。包丁投擲も、その内刃が欠けてしまうだろう。安い砥石は買っておいたのだが、壊れてしまうとお金がない現状、またトイレ清掃に勤しむこととなる。牽制の意味合いもかねて、丈夫な棒に包丁を固定した槍を作ることとした。
ということで、午後はまた狩りもせず、槍づくりを行う事とした。周辺の森を探索し、丈夫そうな木切れを数本集めてきた。包丁で木切れを形成し、木の棒を作る。先端に包丁を取り付け、丈夫な弦で固定した。
2本の槍を作成するのに、午後の時間をめ一杯使用し、その日は夕食を取って寝たのである。
次の日から包丁槍で狩りを行うジュンイチであった。
ポイズンフロッギーは攻撃を避けるためにかならずジャンプすることが分かったジュンイチは、空中で仕留めるタイミングをつかんだ。グレイハウンズはグレイウルフの亜種の様で、攻撃パターンが似ていた。数回の牽制で、隙を見て首元に突き刺せば、動きを封じることが出来た。ブラウンベアーは滅多にお目見えしなかったが、速度でグレイハウンズやポイズンフロッギーの方が勝り、ヒットアンドアウェーで攻略することができた。
こうして、しばらく狩りを続けて行くジュンイチであった・・・