15話
我々住んでる世界に名前がないように、今ジュンイチがいる世界にも元々名前などなかった。区別する為にサマルカンドの世界として、話を進めることとなった。
サマルカンドの世界では、大昔その名の通り、サマルカンドが不死王として全世界を掌握していた。彼は現在はヒューマンの姿を取っているが、実際は魔族なのだそうだ。皮膚の色は少し緑色に近く、ピッコロを思い浮かべたら分かりやすいかもしれない。不死王と名乗り、全世界を掌握していたが、サマルカンドは特別悪政を敷いていたわけではなかったらしい。その当初はヒューマン族や他の種族とも、特に敵対することなく平和な時代が数千年も続いていたそうだ。
「時折ヒューマン族との争いもあったんだが、魔族の力はヒューマン族に勝り、特に自惚れに聞こえるかもしれないけど僕の力は圧倒的だったんで、直ぐ手打ちに持って行けたんだ」
サマルカンドの話は続く。
ヒューマン族は最初、魔法も使えない、繁殖力のみ旺盛な種族だったそうだ。しかし魔族から魔法を習い、ある時から魔法を使えるようになってきた。それからが問題であったらしい。
「ヒューマンの物語にはヒューマンが正義で魔族が悪という話が多く存在するそうだ。その当時から徐々にそういう話が民衆に広がり、人魔大戦がはじまってしまったんだ」
最初は優勢だった魔族軍であったが、ヒューマンは異質な力を持った魔法を開発したらしい。その力の原動は賢者の石と言われた。
「作成方法は分からないんだが、噂では人命を使用して作ったものとされていた。とにかく、魔族は徐々に押され始めて行ったんだ」
見かねてサマルカンドが前線へ出向いたのだが、それからの記憶は定かではなかったらしい。最後の記憶は人の頭ほどもある賢者の石を使用した兵器に囲まれた景色であった。
「恐らく、僕の身体に悪意を植え付け、どこか異次元に飛ばす装置だったんだと思う。僕は記憶が戻ったらこの世界を救う為に、いやこの世界の魔族や他の種族を守る為に、この世界に戻ろうと思ったんだ。でも、この町にたどり着いて分かったことは、魔族は滅んでいたことだったんだ」
悲しみか怒りか分からない表情をして、サマルカンドは黙り込んだ。
しかし、ふと顔を上げるとにっこり笑いながらこう続けた。
「でも、今の時代はそこまで悪くなさそうだ。ヒューマンの圧政が酷いわけでも、多種族への圧迫がそこまで強いわけでもないらしい。僕は、これから僕の道を探すことにしたんだ」
「・・・そうですか。とりあえず、これからどうするんですか?」
「まあ、少しずつ元の身体を取り戻すことにするよ。もともと王の位など、僕は必要なかったんでね。この時代にもし歪んだことがあったら、僕のできる範囲で手助けするつもりだよ」
いいおっちゃんだなー、なんて思うジュンイチであった。ついでにジュンイチの元の世界への帰り方を尋ねてみたが、サマルカンドにも分からない様だ。自分の世界に戻る方法は何となく分かったが、ジュンイチの世界はその”方角”がつかめないそうだ。
「もう一つ教えて欲しいんですが、カンド様が狩りをした場所ってどこなんですか?」
「ここから西南に向かった森だよ。そこにはFランク~Eランクのビーストが住んでいるんだ。森の中には特にお金になりそうなものもなく、あまり人が来ることがないところなので結構狩り放題なのさ」
必要な情報を教えてもらい、サマルカンドと別れの挨拶をしたジュンイチであった。その内また会うこともあるだろうと言ってサマルカンドは去って行った。これから東の方角へ行ってみるそうだ。
「僕もお金を稼いで、西南の森に向かうとしよう」
ジュンイチもお宿へ戻って行ったのであった・・・
目標が定まり、次の日から積極的に働きだしたジュンイチであった。トイレの清掃も1日3・4件することで、給金が1.5倍から2倍にまで増額となった。目標金額まで結局あと1週間で貯めることができたのだった。
「少し支払いが多くないですか?」
「ジュンイチ君が清掃したトイレは他のトイレより綺麗と評判でね、少し色を付けることにしたんだ」
「ありがたいですが、もう僕退職しますよ?」
「以前から言っていたから、本当はもう少し続けて欲しいんだけど、それはいいよ。また、機会があったら働きにきておくれな」
報奨金を含め、35万Gの手持ちとなった財布を握りしめ、包丁・ポーションを買いに行った。包丁を10丁も買う人はいないので、少し怪しげな目つきをされたが無視することにした。
雑貨屋で非常食も買い込み、ようやくジュンイチはレベルアップを目指すことにしたのであった。
と、その前に、気になるハンターライセンスの試験時期を確認することとした。
「ハンターになられるんですかぁ?」
「いけないんですか?」
「・・いえいえー、そんなことは決してないんですけどぉ、難しいですよぉ」
「いいから、いつ、どこであるのか教えてくださいよ」
「・・分かりましたぁ。一番早いのは1か月後ですねぇ。場所は王都で行われますぅ」
「試験に必要なものなんかはありますか?」
「・・可能ならば推薦状を持参してもらいたいところですがぁ、私は書きませんよぉ?」
「なくても受けれるんですか?」
「・・受けれますよぉ。予備審査を受けることになりますけどねぇ」
「予備審査はいつ、どこであるんですか?」
「試験の1週間前にありますよぉ」
「どこで?」
「・・同じく王都ですよぉ」
ここシュリの町から王都までは馬車で2週間近くかかるそうだ。レベルアップが順調にいけば、飛んで行けばいいので数日で着きそうだ。しかし、受けれるのはぎりぎりになりそうである。
できればハンター試験を受けてみたいなと思うジュンイチであった・・・
それにしても、うざい職員だった・・・