12話
「・・こんにちは」
「はいよヒューマンの少年さん、ご用件は?」
町役場を入ると、すぐそこに受付があった。受付をしているのは中年のヒューマン親父であった。恐る恐るジュンイチは、親父に問いかけた。
「あのー、職を探しているのですが」
「あー、職探しかい?それだったら3階に職業安定所があるから、そこで問い合わせてくれ」
親父は左手で右側の階段を指差しながら答えた。
どうもと礼を言い、ジュンイチは階段を登って行った。
それにしても、職安なんて余りにもリアルであり、身に詰まされる気分である。異世界なのになー、なんて呟きながら3階にたどり着くと、そこはまるまる1フロアーが職安になっており、約20人位がごったがえしていた。
待ち合いの席を探し腰掛けていると、ジュンイチの順番になった様だ。空いたカウンターの担当者に声を掛けた。
「あの、よろしいでしょうか?」
「あっ、ちょっと待って下さいね。直ぐ片付けますから。・・・お待たせしました。お探しの職業などありますか?」
対応してくれたのは、運よく優しそうなヒューマンのお姉さんであった。ジュンイチは、どんな職業があるのか、1から教えて貰うこととした。
「すみませんが、この町は初めてなので、どんな職業があるか教えて貰えますでしょうか?」
「そうですね、大雑把に分けますと専門職、力仕事、雑用や汚れ仕事などに分けられます。あなたは何かご専門などはありますか?」
「いえ特には」
「それでしたら、力も無さそうなので、雑用か汚れ仕事関係になりますね」
「ビースト討伐や薬草採取などはないんですか?」
「ビースト討伐は衛兵の仕事になります。衛兵は試験を受ければ採用されますが、訓練学校卒業するか紹介状がないと難しいですね。薬草などは雑用関係になりますが、この辺りでは採取できません。今はプランターで栽培されていますので、専門職が管理している状況です」
「高ランクのビーストも衛兵が討伐しているのでしょうか?」
「町近辺に出現した場合はそうなります。対応困難の際は、ハンターにお願いすることもあります」
「ハンターって?」
「ハンターライセンスを取った人達のことを指します。彼らには色々な権利が与えられ、一定の義務が生じます。ライセンスは年に一回の試験に合格すれば、得ることができます」
この世界にはHUNTER○HUNTERがあるらしい。テンションが上がってきたジュンイチであったが、取り敢えず現実的な職業を探すこととした。
結局下水道清掃の仕事をする事にしたジュンイチであった。力仕事の方が金銭的に割がよかったが、見た目で蹴られる可能性や貰える給料が遅くなるのがネックであった。下水道作業はその日に給金が貰えることと、秘策があったので受けることとした。
「宜しくお願いしまーす」
さっそくその日の午後には現場へ向かったジュンイチであった。
「お前ヒューマンの坊主じゃないか。何でこんな汚れ仕事に来たんだ?」
作業員はほぼゴブリンであった。もちろん責任者もである。
「いえ、取り敢えず直ぐに物入りで。直ぐにお金が手にはいる職を選んだんです」
「そうか、俺は責任者のザーンだ。ヒューマンだとしても容赦はしないから、覚悟しろよ」
そこから作業内容の説明となった。基本的には下水道の清掃である。沈殿したヘドロの除去や、誤って流された粗大ゴミの撤去が主な作業となる。各々に作業服が支給され、それに着替えた後、手渡されたスコップでヘドロを掻き出すのだ。もちろんマスクなどない。殺人的な臭気の中に入って行くジュンイチ達であった。
今日は奥の手を使わずに作業を終えることとした。皆と同じように下水の中に入り、スコップでヘドロを掻き出す。ゴブリン集団の目線が厳しかったが、学校での目線に比べれば大したこともない。ステータスも上がっていたため、さくさく作業を進めるジュンイチであった。
本日の作業は4時間で終了した。給金は4千Gとなった。お金の価値がどの程度か分からなかったが、日本と同じ位と予想した。
「おう、坊主、頑張ったな。明日も来るのか?」
「しばらくは来ようと思います」
「明日は8時集合だ。遅れずにな」
ザーンから給金を手渡されながら、話しかけられた。このまま帰るのは臭気がひどいので、作業員専用のお風呂を案内された。何と石鹸付きである。約1週間振りのお風呂を期せずして堪能できたジュンイチであった。
「お前さんは出身はどこだい?」
お風呂に浸かっていると、ゴブリン親父が話し掛けて来た。
「出身は遠く何ですが、この町に来る前はサイト村にいました」
「おお、ジーナスさんのところからかい。知り合いかね?」
「ええ、故あってジュリアさんを助けまして、しばらく厄介になりました。今ジュリアさんもこの町に来てますよ」
「おお、ジュリアさんもかい。俺はその内サイト村に行こうと思っているんだ。ジーナスさんはすごいゴブリンだ。憧れているのさ」
少しずつのぼせて来たのだが、嬉しそうに話し掛けるゴブリンの相づちを打つジュンイチであった。
翌日からは秘策を試すこととした。
集合し、作業服に着替え現場に向かう。作業開始の合図があって皆が下水の中に入ってから、ジュンイチは魔法を使った。
「スプリット!」
下水は左右に分かれ、水底のヘドロがむき出しになった。あっけにとられている作業員を尻目に、さっさとヘドロを掻き出すジュンイチであった・・・