10話
ジュンイチは動けなかった・・・
今日は巡回の翌日で、ジュンイチは離れの部屋の中で仰向けに寝ていた。
動くのはもとより、呼吸をするのにも痛みがはしるのだ。
レベルアップ痛である。
『うっ、動けない。息をするのもしんどい』
巡回が終わってカウンターを確認した後、異常なレベルアップを確認したジュンイチはすぐさまポーションを求めた。だがしかし、この村にはポーションはなかった。その為、薬草をねだったが、薬草も売りに出したばかりでどこにもないようだったのだ。仕方なくジュンイチはジュリアと共に、薬草採取に勤しんだ。山程薬草を採取した後、(ジュリアにはあまりとったらダメ!と言われたのだが)薬草湿布と薬草茶の作成に午後の時間を費やした。寝る前に隙間なく薬草湿布を貼り付けたのだが、8レベルアップの痛みはそれ位では治まらなかったのだ。
『薬草茶を飲みたい。ジュリア、早く来てくれ』
恐らくかなりの筋肉痛になるだろうからと言って、ジュリアに介護を頼んだジュンイチであったが、早起きのジュンイチはもう1時間近く痛みと戦っているのであった。
早起きは、するもんじゃないよねー。
普段は考えないことまでぐだぐだ考えていると、ようやく待ち人が現れた様だ。
「おはよー、おにいさ・・・、きゃー」
まるで某脱出ゲームの主人公の様に、真緑になったジュンイチを見て、ジュリアは叫び声をあげた。
「・・ジュリァ、ヤクソゥ」
身動きもとれずジュンイチはつぶやくが、ジュリアの叫びでかき消される。そして、
「おじーちゃん、ジュンイチがたいへーん!」
ジュリアは去って行ったのであった・・・
つらたん・・・
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「しっかりして、お兄さん。傷は浅いわ」
「ジュンイチ殿、しっかりするのだー」
しばらくしてジーナスと共にジュリアは帰ってきた。
ジュンイチの周りが薬草と知って、膝枕を行い、ジュンイチを揺さぶる。
ジュンイチの体に激痛が走る・・・
「・・うぅ、やくそぅ」
「分かった、薬草ね、直ぐかけてあげるわ」
おしい、ちょっと違う、と思いつつ、素直にびしょぬれになるジュンイチであった。
「・・はぁはぁ、ごめん、飲ませて」
ようやくしゃべれるようになって、意思疎通ができるようになり、薬草茶を飲ませて欲しいと伝えるジュンイチであった。
「えっ、ごめんなさい。もうこれだけしかなくなっちゃった」
山程あった薬草茶は、ほとんど身体と床にばらまかれた様だ。ほんの少々を口に含ませてもらったジュンイチであった。
「・・ぷは、あぁ、ありがとう。少しは楽になった。もう少し飲みたいんだけど、もうないの?」
「・・・ごめんなさい。全部使っちゃった。てへっ」
てへっじゃない!
まあ仕方ないかと思い、もう少し休ませてもらうこととしたジュンイチであった。
「それにしても筋肉痛とは、ジュンイチ殿は少し身体が軟弱なんじゃなぁ」
何も知らないジーナスが呟く。聞こえない様に呟いたつもりの様だが、ジュンイチの耳にはしっかり届いた。ただ、反論はしない。説明するのが困難なのだ。
ま、いいのさ。
感謝を伝え、もうしばらく横になっていれば動けるようになるからと一人にしてもらうジュンイチであった。決してふてくされた訳ではないのだ。
夕方となってようやく歩けるようになったジュンイチは、槍を杖代わりに森へと向かった。薬草を取りに行くのだ。ステータスの上昇はあったものの、無理をすると未だ身体中が悲鳴を上げる状況であり、往復3時間かけて離れに帰り、再び薬草茶を作成した。昼食・夕食は辞退したが、おにぎりを作って置いてくれたようだ。薬草茶を飲み、ようやく痛みが治まった後、おいしく頂いたジュンイチであった。
「絶好ちょー」
翌日はいつもの通り朝早く起きたジュンイチであった。
薬草のお陰で身体の痛みも治まり、普段通りの生活に戻った。
井戸で洗顔・清拭を行い、鍛錬をする。
離れに戻るとジュリアが待っていた。
「おはよー、お兄さん。調子はどう?朝ご飯食べれる?」
「おはよう、ジュリア。もう大丈夫だよ、ありがとうね」
村長宅にお邪魔し、朝食を和やかに頂きながら、前日のことの説明を行った。
とは言え、レベルアップ痛など説明できるわけもなく、しばらく運動をしていなかったため激しい筋肉痛が起こったこととした。今後も昨日ほどではないが起こりうることを説明し、ポーションの購入を望んだが、
「ここいらではポーションは非常に高価でな、なかなか手に入れることが出来ないのじゃ」
「それでは、薬草を又取らせてもらってもよろしいですか?」
「薬草もあんまり採取してもらうと、直ぐ枯渇するでな。できれば避けてほしいのだが」
このままでは、ビーストと戦うことが出来ない。どうしようかと途方に暮れるジュンイチであった・・・