深夜のバス
会社から帰るとき、電車とバスを乗り継いで家に帰る。
バスは大体最終便近くなるから、俺と似たような奴がちらほらいるだけで、十分にすいている。
俺はこのなんとも言えない落ち着く空間が好きだった。
今日の残業はいつも以上に疲れた。
少し危なかったがバスの最終便にはぎりぎり間に合った。
バスに乗り込みあたりを見回す。
今日は珍しく誰も乗っていなかった。
まあ、いたとしても一人か二人だ。あまり関係ない。
俺はそう思い、いつもの椅子に座ってくつろいでいた。
・・・
途中でバスが止まる。
どうやら乗客のようだ。近くに駅もなければ何かあるわけでもなく、こんな時間に珍しいなと思った。
まあそのまま普通に座ってたら別に気にしなかった。
だがそいつは、なぜか俺の後ろの席に座ってきた。
そいつは太っていたから、座る際何度も俺の席をけってきた。
俺は疲れてるのもあり、機嫌が悪くなった。
こんなにもすいているのに、何でよりにもよって俺の後ろの席に座るのだ。
そいつの意図が分からなかった。
しかも、今日はいやに静かで、俺の後ろにいるそいつの
喉に引っかかったような息が聞こえてきて、とても気味が悪かった。
しかも頻繁に席をけってくる。
許せなかった。俺が好きだったこの空間を壊された感じがした。
何か制裁を加えたいと考えてるうちに、次が降りる停留所となった。
と、同時に後ろのそいつが席を立つ。どうやら俺と下りるとこが一緒らしい。
しめたと思い、俺も後を追う。
本当にしょうもないことだが、バスが止まる勢いに乗じて肩でぶつけてやろうと思った。
悲しいことだが、これが今の俺の精いっぱいの抵抗だった。
そしてバスが止まると同時に、慣性の法則が働く。
俺は怒りを込めて、自然な感じに肩で力いっぱいぶつけた。
ぐちゅっ
嫌な感触がした。普通の感触ではない。
そいつは全く動じなかった。
肩をみる。 少し暗くてはっきりとはわからないが、赤紫色のようなシミがべったりと肩についてあった。
あっけにとられていると、そいつは下りたのかもう姿が見えなかった。
俺はそのまま降りる気にならなかった。
・・・
俺は終点近くでバスを降り、そこの近くのネットカフェで一夜を過ごすことにした。
シャワールームで自分の肩を見ると、そこには赤黒いアザができていた。あの時の物かはわからない。
このアザがいつ消えるのか考えてみた。
俺はあの感触とこのアザが消えるまでは、とてもあの時間にバスを使う気にならなかった。