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Need of Your Heart's Blood 3  作者: 彩世 幻夜
第四章 "Function"
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感謝と、後悔と。

 会場で、吸血鬼たちに混じってその姿を観ていたルナも、その欠片を手にしていた。

 魔女の血を引く彼女にも、その石に宿る力の質は感じ取れた。


 強く――本当に強く、そして優れた使い手だと、ルナには周りの吸血鬼たち以上に戦慄を覚える。


 「圧巻……という他ないな、これは。――さすが、我が愛弟子……と言いたいところだが、な」


 この場へと連れてきてくれた、葉月という名の人の好さそうな青年は、あの一番高く見晴らしの良い席に座る、あの王の側近として忙しくしているらしい。

 この吸血鬼の巣窟に、ルナを一人で置く訳にもいかず、かと言ってルナのためのエスコート役を務めるには時間的に無理があり、どうしたものかと悩む彼らに、自ら手を挙げエスコート役を買って出たのが、ファティマーだった。

 「愛弟子の晴れ舞台だ。師匠としては、見守ってやりたいじゃないか」


 ローレルに身体を貸している時に瀕死の重傷を負った際、ルナの治療にあたってくれた一人。

 彼女は、ルナの母方の遠い親戚だという。

 「……確かに、基礎は間違いなく私の教えたものだがね」

 そんな彼女は、咲月を眩しそうに見上げながら、愉快そうに笑う。

 「だが、それだけじゃない。吸血鬼としての力も、大精霊の力も、きちんと自分のものにして使いこなしている」

 世間は狭いと言うべきか、偶然か必然か。とにかく不思議な縁で咲月は彼女と知り合い、魔法を教わったのだという。

 「まあ、厳しいことを言えば、まだまだ術の扱いにムダは多いし、拙いが。……こればかりは経験だ。しかも我ら一族の誰よりも、覚えなければならないことは多かったんだ。この短期間でこれだけできれば上出来だ」


 ファティマーの店の“お得意様”だったのが、あの朔海という名の彼で。

 こうしてルナが大きくなった娘の姿を見られるのも、彼が居たから。

 咲月にとっても彼は恩人だろうが、それはルナにも言えること。

 今や彼は娘の夫となり、世間一般的な言い方をすれば、ルナにとって彼は義理の息子になるわけだが。

 

 ……自分と同じ運命を歩ませたくなかったと綺麗な理由をつけても、あんな場所に生まれたばかりの赤子を放置すればどうなるか分かっていて置いてきた。

 その後すぐに連れ戻され、子どもの生死すら知らないまま幽閉されていた自分は、娘に何一つしてやらなかったのだから、母などとは到底言えない。


 人間界ではなく魔界の、吸血鬼の国の王妃となった彼女。


 「ふふ、見ろ。投げられた賽が描く波紋を。……今はまだ些細なものだが。これがうまくいけば、我が一族の商売もよりやりやすくなる。無論、簡単ではないだろうが、我が愛弟子には是非頑張ってもらわないとな」


 ファティマーに連れられ、大騒ぎの大通りを避けながら、城へと戻る。

 この後、身内だけの食事の席に招かれているのだ。


 ――ローレルに身体を貸していたり、こちらが瀕死状態だったり、向こうも忙しくバタバタしていたり。

 まだ、娘とゆっくりと話したことのないルナは、不安と緊張を覚えながら、そびえ立つ城を見上げた。


 責められても当然の事をしたのだから、苦言は甘んじて受けるべきだろうが……


 今日はルナ以上に緊張を強いられる大きな行事ごとをいくつもこなした後なのだ。

 身内だけの食事時くらいリラックスしたいだろうに。

 自分などが居ては、それがかなわないのではないだろうか?


 「今日は私、このまま帰るべきでは……」


 そう呟いてみれば。


 「何を言っている。この機会にちゃんと会って、話をしてやれ」


 と、遠慮なく頭を叩かれた。


 「吸血鬼となったあの娘は、力はあれど人間でしかない私らより遥かに長い時を生きることになる。同族である朔海殿や葉月殿と違って、私らはずっとは彼女の傍には居てやれないんだ」

 

 親が子より先に逝くのは当然の事ではあるが。

 彼女にとって、今日はこれから果てしなく続く未来への小さな一歩でしかなく。

 まだ人間としての意識の方が強いだろう彼女にとって、きっといつかこのひと時が、ほんの短く儚い時に感じる瞬間が来る。


 「その時に、“何もできなかった”と、あの娘にまた、余計な後悔を負わせてやるんじゃないよ」


 ファティマーは、ルナの手を強く引いて、歩む速度をあげた。

 

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