まかれた種
「――まあ、少なくとも失敗ではなかったようだぜ」
動物を使った情報収集が得意なベヒモスが、こざっぱりとした格好で戻った2人に、まず先にそう告げた。
「パフォーマンスもまあ、反応は悪くなかったようだが、何よりあの“お土産”が大当たり、今、街中じゃその話題で持ちきりだ」
それは、咲月の思いつきで、コツコツ用意していたもの。
咲月の使い魔である鉱山妖精に、ごく小粒の宝石を探させ、それら一つ一つに少しずつ、咲月の力を封じ、それをパレードの最中、バラの花びらを装わせ、街中にばら撒き、また会場に居た観客には帰り際に記念品として一人一つずつ渡させていた。
――強さが全ての魔界で、力の気配に敏感な彼らは、その小さな欠片に宿る力に直に触れ、その質の高さに気づく。
ごく小さな欠片でしかないのに、それに触れる指が、意思とは関係なく震える。
ただ、強大なだけでない力の価値に、彼らは嫌でも気づかされる。
その力を振るった様を見ていた者たちの話を聞こうと、パレードに参加していたもの達が、会場に居た者たちを探しはじめ――
その力を自在に操る様を見ていた者たちは、感じた畏れを誤魔化したくて、せがまれるまま話を広めていく。
「王子――いや、王の時みたいに一気に沸騰するような派手な動きはないけどな。波紋の広がり方はむしろ嬢ちゃ――いや、お妃様のが広いし、なにより確かな“証拠”が手元に有る」
その、小さいが確かな力に、皆は揃って喉を鳴らす。
力が欲しくて、喉が渇くが、石に封じられた力を我がものとする力は、元来吸血鬼にはない。
石と親和性の高い種族の血を取り込んだごく一部の一族の者を除き、それはただ目の前にぶら下げられただけの人参。
……しかし。
これまで、自らの持つ力に石の持つ性質を合わせて使う程度の、戦闘力としてはさして重要視されずに、序列の下の方に居たはずの彼らだけは、その力を我が物にすることができた。
ほんの小さな力だが、それを取り込んだ途端、これまでよりも世界が遥かに鮮明になる。
今までは感じ取りきれなかった力の差異を感じ取り、それまで以上に繊細な力の使い方が可能になる。
……だが、それは得た瞬間には、正直何の役にも立たないものとしか、それを得た者たちは認識しなかった。
大きい力、強い力が価値が有るのであって、確かに新たな能力は得られたが、直に戦闘に役立てそうなものでもないそれは、対して価値のあるものと思えなかったから。
しかし、そうして力を得た様を見た者は、その能力を求め、彼らの血を得ようと目の色を変えた。
自らの身を、そんな彼らから守るために戦闘態勢をとり――こんな時のために常に持ち歩いている石をいつものように使おうとして――その違いに気づく。
いつもは、自身の力にアクセントとして乗せるだけのものが、どうにも具合が違う。
違和感を覚えつつも、戦いの最中にゆっくり考えている暇もなく、力を放つ。
いつも通りのつもりが――
ルビーで、少しばかり攻撃に火力を纏わせるつもりが、予想以上の火力を伴い、敵に牙をむいた。
その様を目の前で見た者たちは、一層その力を欲し、文字通り目の色を変えた。
その様を遠巻きに見ていた者たちは、今まで馬鹿にして鼻にもかけなかった力の意外な価値に気づき、考え込む。
それは、ごく狭い場所での、ささいな変化。
「――だが、確かにあんたは“種”をまいたんだ、この国に」
それは。
「つまり、ま、成功って言っていいんじゃね?」
そう言って、彼は微笑んだ。




