明暗
元人間の、娘。
この国において、それは多少珍しいものではあるが、一度も見たことの無い者はそういないだろう。
基本的に、人間に血を与えた主と同等の力を持つが、それを主が抑え、自分より一段低いところに置くのが普通だ。
……それゆえ、主の格に多少左右されるものの、この国で元人間の吸血鬼というのは馬鹿にされがちだ。
だが、先に力を見せつけられた今、改めてそれを聞かされれば、さすがに安易に馬鹿にした態度をとる者はいない。
けれど、朔海の時のように、喝采する者も居ない。
どう対応すべきか、困惑し、とっさのリアクションができないでいる。
そんな沈黙が、会場に満ちる。
成功か、失敗か。
その沈黙の中、咲月もまた、始める前とは違う緊張感を覚えながら、咲月は全ての術を解き、地面へと降り立った。
もう一度、軽く一例した後、会場を後にする。
外で待っていた台車に再び乗り込み、同じ道をパレードしながら城へと戻るのだ。
道にはまだ、この会場に入れなかった者たちが話のタネになりそうな珍しいもの見たさで集まった者たちが大勢いる。
――家に帰るまでが遠足です、という至言があるが。
今日、寝室へ戻るまでは緊張を緩めることは許されない。
今はまだ混乱している者たちが一旦冷静さを取り戻した後の反応こそが重要なのだから。
正直、それが即、咲月たちの望む方へ向かうとは思っていないけれど。
悪い方へと転じれば、今後に咲月たちが望む未来を引き寄せるのが、より困難になる。
今はまだ、明確な結果は分からない――から、こそ。
ここで、気を抜くわけにはいかない。
不安を抱えながら、咲月は来るとき以上の笑顔を惜しげなく振りまいた。
――笑顔だけでなく。
術を行使して、バラを模した花びらを空から降らせ、モノクロに近い景色に彩りを添える。
後続の台車に乗って、朔海も続く。
果たしてこの結果を、明確な成功を得られなかったと嘆くべきか、明らかな失敗ではないとホッとするべきか。
分からないまま、台車は城門をくぐる。
戴冠式に集まっていたお偉方の姿は既に無く、咲月たちの帰りを待っていたのは側近たち一同。
……今日、予定されていた儀式はこれで一通り済んだけれど。
自分たちにとっては、今、これからが本当の本番だ。
彼らは既に、街の様子やお偉方たちの動向を探るため、動いている。
そこから上がってくる情報を的確に判断し、指示を下すという仕事が待ち受けている。
咲月も朔海も、まずは実用的とは言い難い礼服を着替え、汗を流すべくそれぞれ侍女と侍従とに囲まれ浴室へと連行される。
――果たして、お互い寝室へ戻れるのがいつになるやら。
咲月は、小さくため息をついた。




