真の力
そのグラスを手にしながら、咲月はそれを感慨深く見下ろす。
こうして、皆の視線に晒されながら、グラスに注がれた血を飲むのは、これで2度目だ。
あの時のそれにも、彼女――王妃の血が入っていた。
王妃のみならず、紅狼の血も、場合によって薬にも毒にもなりうるという薬草と共に、皆の目の前で咲月はそれを飲み干した。
あの時のグラスの中身の大半を占めていたのはそれらではなく、朔海の血だったが――
……今回手渡されたそれに入っているのは100%王妃のもので。
この国で、王の正妃の座にあるという事は、確かにそれに相応しい力があると、彼女もこの同じ儀式で証明したという事で。
それでも、咲月は躊躇うことなくそれを一息に飲み干した。
昨日までは持ち得なかった自信を支えてくれる力が、今はあるから。
同じ力を持つ朔海の事も、必要以上に心配することもなく、カッと熱くなった身体の中、暴れようとする血をそれで押さえつける。
ローレルから授かった強力な破魔の力は、魔力を削ぎ、相手の血の力を弱めてくれる。
その上、咲月には魔王ルシファーから授かった加護すらある。
吸血鬼の力の源は彼の力。
さらに朔海の竜の力までもを持つ、今の咲月にとって、それはそう難しいことではなく。
サッと立ち上がり、王妃に一言、命じる。
「――私は、貴女の主。貴女は、私の僕。さあ、主の前に跪きなさい」
儀式で、予め決まった文言を、彼女に突きつける。
不本意そうに顔を歪め、悔しそうに震える声で、彼女は小さく「御意」と答え、、その場の床に膝をついた。
隣で、同じように朔海が王に向かって命じ、さらに言葉を繋ぐ。
「現王、紅龍王は今、この時よりこの“綺羅星”の朔海の下僕となった。この場に在る全ての者が証人である。――そうだな?」
「……ええ。“瀧守”の深山の名において、今、この時よりこの国の王は貴方であると認め、ここに戴冠の儀を宣言する」
その言葉に、これまで朔海の力を侮りきり、先日の彼の戦いぶりを直に見ておらず、噂話を鼻で笑っていた者は自分の目と耳を疑った。
あの王を、あっさりと打ち負かすほどの力を持つ、新たな王。
それが、この間まで弱々しい子兎のように思っていた第一王子だとは、信じきれなくて。
彼らの頭に燦然と輝く冠が載せられる様を目にしてすら、なかなかその事実を飲み込めず、呆然とする者の姿は、少なくなかった。
戴冠を済ませた紅龍たちは、段を降り、貴族たちの一番前に立ち、これまで自分たちが座っていたその玉座に、朔海と咲月が腰掛けるのを見上げる。
「……では、これにて戴冠の儀を完了し、次に移ろう」




