最後の試練
元々、魔界というのは弱肉強食で、その上下関係は絶対のもの。
特に考える頭を持つ上位の魔族――それも国を持つような種族は、より細かくしきたりなど決め事を重要視する。
王族だの貴族だのと、人間社会のような身分階級のある吸血鬼には、正装や礼装などといった服装にも、身分ごとに細かい決め事が存在する。
そういう事を理解できないような者は下等な者として扱われるから、例えばこんな場では彼らは表向きだけはそれに倣い、この場に居る。
王族であり、本日の主役でもある朔海こそ、煌びやかな衣装を着ているが、基本、吸血鬼の正装の基色は黒か、それに近い紺である。
華やかな夜会の場とは違い、重々しい空気に包まれたそこで、黒がひとかたまりにあると、なかなかに重苦しい。
その重さを前に、咲月はもう一度深呼吸をしてから、まず一歩、敷居を跨ぐ。隣の朔海と歩幅を合わせ、二人共に、玉座にある王と、王の傍らに立つ“瀧守”の元へと歩いて行く。
整然と並び、物音ひとつ立てないまま軽く頭を下げる貴族たちの前を通り、壇上へと上がり、二人、王の前に頭を下げる。
王が、玉座から立ち上がり、朔海の前に立つ。
同様に、彼の正妃である王妃が、咲月の前に立つ。
「――我が国の王に、弱き者は要らぬ。弱き王は波乱を呼ぶ。我が国の王冠を欲する者よ、そなたがそれに相応しいと、今、この場で証明せよ」
それに立ち会う形で傍らに立つ深山が朗々と声を響かせる。
「我が国の王冠を戴く者よ。それを戴くならば、その強さをここに明示せよ」
ガツン、と、その杖で床を叩けば、即座に侍従がそれぞれナイフとグラスを一人一つずつ持ち、さっと現れる。
「我が国の王は、我らが主。我が国の民は王の僕。どちらが主で僕か。さぁ、示すのだ」
今、ここで。
朔海は父王に。咲月は王妃に。勝てなければ、この国の王と王の正妃とは認められない。
それぞれ、渡されたナイフで傷を拵え、その血をグラスに落とす。
そのグラスを、再び侍従に手渡せば、彼らはそれを恭しく王と王妃の持つそれと交換し、またそれを朔海と咲月へ手渡してくる。
この血を抑え、勝たなければ、相手の下僕とされる。
だが、相手の中で自らの血が勝てば、相手を下僕とできる。
――実に単純で簡単で分かりやすく、絶対的な手段である。
それぞれ、正しくグラスが渡ったのを見計らい、深山が再び杖で床を叩いた。
「“瀧守”の深山のをもって、此度の結果を見届け証人となろう。いざ、証明してみせよ」
それは、全て予め決められ、既に何度も繰り返さえれてきた流れ。
咲月は、教えられた通りに、グラスに口をつけた。
静かな中で、後ろに居並ぶ貴族たちが、こぞって息を飲んだ気配が伝わってくる。
……長く生きた者たちの中には、この後の結果のパターンを、いくつも知っている者も居る。
今回はどうなるか。
好奇の視線が集まり、緊張感のある空気が一瞬、別の意味で張り詰めた。




