祭典の始まり
ラッパが鳴らされ、花火がポンポンと景気の良い音を響かせる。
街には花が――……“色とりどりの”とはいかないが、赤や黒の薔薇の花びらが舞い、いつでも陰気なその風景が、ほんの僅かに色味を得て、華やかな雰囲気を漂わせる。
たとえその内情が、嘲笑を浮かべ、物笑いの種を探そうと舌なめずりしている輩の集まりだとしても――
一歩、城の敷地に入れば、流石にピンと緊張感の張り詰めた、厳格な空気が漂う。
一同、煌びやかな正装をまとい、しかつめらしい表情をして、ホールに集い、その会場への入場を許される時を待っている。
例え壁一枚隔てた先で、式を取り仕切る裏方や、使用人たちが慌ただしくてんてこ舞いしていても――
「へえ、魔物狩りの一族ね……。また面白いの味方につけたな」
ニヤリと笑う臣下達に、朔海は肩を竦めた。
「元々は、咲月の実家に当たるはずの一族だったんだ。関係が改善されたのは良いけれど……。まだまだ本格的な再生はこれからだからな」
何より。
彼らを弱いとは思わないけれど――
人界やそれに近いところへ迷い出るような輩相手ならともかく、朔海たちがこれから相手にするような、魔界の主だった連中相手に、ローレルの助けがあるとは言え、肉体的にはただの人間に過ぎない彼らが相手にできるとは思えない。
何より――
「仮にも魔界で王を名乗るのに、あまり心象良くないんじゃないか?」
咲月が持つ力程度なら、牽制として有効に働くだろうけれど……
「いやいや、知ってるだろう、魔界の連中の力バカ加減は。だが、人間は弱いからこそ、その分考えることで補おうとする。連中の考えを改めさせる、いい機会になるかもしれないぜ」
「……来るんだろう、嫁さんのおふくろさん」
「ええ、まあ。流石に堂々と貴賓席や、ましてや一般席に並ばせるわけにもいきませんから、影からこっそりと、ですが。直々にお願いされましたから」
あの後。一応の騒ぎの収束を経て、彼らは急いで城へと戻り、あちらへ出向いていた間に滞っていた処理をこなすため、吸血による回復だけで、夜を徹しての作業となった。
……吸血鬼の回復力と体力が無ければとうに倒れている。そう思えば、自分が吸血鬼で良かったと、思わざるを得ない。
咲月は咲月で、今はドレスアップの真っ最中である。
正装しているとはいえ、男の朔海より、女の支度に時間がかかるというのは、古今東西いつの時代もそうは変わらないものだ。
きっとあちらは今、こちら以上にバタバタしている最中だろう。
彼女ももちろん疲れているだろうが……
「まあ、今日が正念場。……これからの方が大変なのは当然だが、やっぱり最初が肝心て言葉もあるくらいだからなぁ」
「殿下、奥方様のお仕度が整いましてございます」
「――そうか。では、手はず通りに」
そう、これ以上客を待たせるわけにはいかないから。
「……後の事、裏方の方は任せたからな」
信頼の置ける臣下に一言言い置いて、朔海は颯爽と部屋を後にした。




