和解
さわさわと、葉擦れの音が聞こえる。
一人、静かにお茶を楽しんでいた彼女は、ふと柔らかな微笑みを浮かべ、すっと席を立った。
テーブルを後にし、歩き出す。
一歩一歩、前に進む事に口元の笑みを深めながら。
最後の一歩を踏み出した直後。
楽園のような穏やかなその場から、彼女の姿がフッと掻き消えた。
彼女の視界が、彼女の愛した街の風景へと切り替わる。
彼女――大精霊ローレルを祀る祠の前の祭壇には、ここに住まうものたち全てと、彼らの血を引きながら、外の世界で育った娘と、その彼女がパートナーに選んだ男。
その隣には、ルナの姿もある。
あれだけの怪我を負っていたはずが、今、彼女はここで一人で立っている。傷らしい傷も見えない。
さらにもう一人、見覚えのない男が居る。
しかし、害意はなさそうだ。
ローレルは、あえて厳しい表情を装い、彼らと向き合った。
「では。お前たちの答えを聞こう」
「――はい、ローレル様。この度、私が代表し、ローレル様の問いにお答えする役目を仰せつかりました」
彼らの前に立ち、娘夫婦と並んで立ったルナが、さらに一歩前に出て、ローレルの前に跪いた。
「ローレル様のお怒りを買い、ローレル様のお力を削ぐ事となった、我らの行い。何がいけなかったのか、改めて考えました。今後、それを改善するための方策も。……まだ、完全とは程遠いものであることは重々承知の上ですが、その原案を、まずはローレル様に聞いていただきたく」
「……いいだろう。言ってみろ」
「はい」
促され、彼女は改めて顔だけを上げ、ローレルの目をまっすぐ見た。
「我が夫、すなわち長とその一族は、その身分を剥奪の上、厳重な管理のもと、この新たな考えを理解していただけるまで身柄を拘束、軟禁処分とします。――そして、その新たな考えとは……」
一度、短く言葉を切り、息を継ぐ。
「私の娘たちから、外ではローレル様どころか、精霊や魔物らの存在すら、危うくなりつつある現実を初めて知り、その上で彼らについての知識や距離感など、正しく理解することが肝要であると。私たちはそれを知ったつもりになって驕り、失敗したのだと。だから、それを正すべく、それらをきちんと学び直し、今後に生かしていこうという事になりました」
そして、背後の民を従え、共にもう一度、深々と頭を下げる。
「学ぶ事は多く、今日明日で完了出来ることではなく。それを軌道に乗せるには、ある程度時間が必要となるでしょう。今すぐ、その結果を、ローレル様にお見せすることは、かないそうもありません」
それでも、と、彼女は続けた。
「どうか、もうしばらく、我らに猶予をいただけないでしょうか。我らの変わる様を、お見届けいただきたいのです」
それに追随するように、
「お願いいたします」
と、皆声を揃えて頭を下げた。
ローレルは、その答えに、満足そうな笑みを浮かべた。
「――そうだな。我が一族の娘。お前のおかげで、最悪の事態は避けられた。そのうち、暇のあるときにでも、またゆるりと茶でもしながら、お喋りでも楽しみたい」
彼女は、咲月たちにもその微笑みを向け、言葉をかけた。
「急ぎの用事のあるときに、面倒をかけて済まなかった。今残る、後の仕事はもう我らで解決すべき事。改の挨拶は後日として、お前たちは自らの仕事に戻ると良い。――その日を、楽しみに待とう」




