指針
自分たちの始まりは、大精霊ローレルの力を凝縮した、種という形の“卵”。
それは、主となる赤子が母親の胎から生まれ出たその瞬間に、始めてぼんやりと自我を持つ。
子どもが物心つくまで育つと、改めて契約の儀式を行い、そこから先は主から力を受け、育つ。
「私たちローレル様の仔は、人の主を直に持つため、主からの力と、ローレル様からの力の恩恵を受けて育つ。それ故、我らは他とは比べ物にならぬほど、短期間で多くの力を得、成長できる」
普通、人と契約を交わすには、ある程度以上に成長し、力を得る必要がある。
そして、そこまで育つことこそ難しいことであり、そこまで育つ以前に消滅していくものは少なくない。
「このシステムは、少なくともここで生まれたローレル様の仔は、とても恵まれた環境下で育てるように作られている」
主たちから意見を求められた精霊たちは、互いに口をそろえるようにそう言った。
「我らは精霊で、人である主より長き時を存在する。先代らに仕えた精霊たちは今、ローレル様にお仕えしておられる――が……」
「ローレル様は、大樹の精霊。依代であり本体でもあるこの大樹から遠く離れる事は叶わない」
「しかし、人を主とし、それぞれ主の選んだ者を寄り代とし、力を蓄えた者の中には、自らの意思で、どこまででも行ける者もいた」
「それができるものは外へ、それができないものはローレル様のお傍でお仕えする。そうして、ローレル様は間接的にながら、必要な力を効率的に得ていらした」
しかし。
「このところ、真にローレル様が望む域へ届く成長を伴った精霊がめっきり減っていた」
「僕らにとってはまだ十二分過分な程の力でも、一歩、頭抜きん出た力を得る者は確かに減っていた。――現に、あの小僧にかなう者は誰も居なかった」
その、理由は。
「……その原因の一つは、確かに長一族の愚かな行いだろうが、それだけでは説明がつかない。あの小僧のあの強さの理由を知れば、我らが目指す先を知れるのではないか?」
「そうだ。あの小僧の主の娘たちは、ローレル様にいたく気に入られていた。彼らこそが、答えそのものではないか」
やはり、話し合いはそこへと戻ってくる。
「しかし彼らは今、ローレル様と共にどこかへ……」
「いや、もう一人……、ルナ様もローレル様のお気に入りだ」
「だが彼女も、あの娘達が保護するとどこかへ連れて行ってしまったじゃないか」
進むべき方向は、見えてきた。
しかし、その指針を得ようにもその手段が手近に見当たらない。
「……ふむ。――どうするね?」
それを、異界から見守るローレルは、嬉しそうな微笑みを浮かべながら、視線を咲月たちに向けた。
「それで、良い方向に向かうなら」
「この混乱が収まるなら。咲月の憂いも一つ晴れる」
その答えに、ローレルはさらに笑みを深め、最後に潮を見る。
「オレは、この地で生まれました。おぼろげな記憶の中、常にそれを誇りに思っていた。でも、こいつとここを訪れた時、ルナ様の話に、誇りは失望と恥に変わりました。……でも、やっぱりそんなのは嫌だから。もう一度、誇りを取り戻せるなら。オレは、行きます」
「では、行ってこい。話がまとまったなら、我が祠に祈りを捧げよ。そして、定まった答えを告げろ。その答えしだいで、私も先を決める」




