昨日とは違う、明日のために
精も魂も尽き果てた。
全てを失い、膝をついたまま動けなくなったアーサーを置いて、彼らは武器を置き、改めて集う。
思い思いに楽な姿勢で腰を下ろしながら、それでも真剣な表情で、先程の戦闘では戦力と見なされず守られていた人々も、前に出て同じ輪に加わる。
「まず第一に、ローレル様が厭われるこれまでのやり方を、我々は放棄する方向で考え、ローレル様と共に歩むこれまでの営みをこれからも続けていける方法を選ぶという事でいいな?」
その大前提に、まず皆が頷く。
「……ローレル様が嫌ったもの。その元凶は、間違いなく長一族だ。彼らに代償を求めるのは良い。だが、それだけで、ローレル様が振り向いてくれるとは、思えない」
それを受け、次の発言者が自らの意見を口にする。
「本当にそれだけがローレル様のお怒りの原因なら、ローレル様は奴らだけを断罪すれば良かった。連帯責任という言葉もあるとはいえ、ローレル様は今回の選択を、我ら全員に託した」
ちらりと、一人輪から外れた男を見やりつつの発言に、視線を泳がせる者。
「連中のやり様は確かに酷いが、我らが代々、疑問も抱かず唯々諾々と従ってきた慣習の末の過ちでもある。ただ、力が全てだという考えそのものを、見直すべきなのではないか?」
その言葉に、納得しようとしつつも、困った顔をする者は多い。
何しろ、生まれてこの方、その考え方が当たり前として育ち、生き、暮らしてきた。
さあ、と言われたからといって、即一歩を踏み出せる器用な人間は、多くない。
新しい枠組みを、どうするか。
「それは……そうかもしれないが。だが、それは一日やそこらの話し合いでどうにかできるものでもあるまい?」
当然、消極的な言葉がまず飛び出してくる。
「だが、草案くらいならどうだ? 完成させるのはまだ先でもいい。しかし、我々の向かう先を示せるくらいの骨組みだけなら、何とかならないか?」
しかし、現状は既に崖っぷちにある。
何でもいい、何かしらは示さなければならないと、ここに居る者たちも分かってはいるのだ。
だから、そろそろと、その意見に頷きはする。
「それはいいが、具体的には結局どうするんだ? これまでのやり方を破棄し、新たな仕組みを作る。言うのは簡単だが、それを言うだけで、ローレル様を納得させられるとは思えん。新たなものを生み出すのは簡単なことではないぞ」
既に現役を引退したご老体が、難しい顔で言う。
「どんなに難しくとも、やり遂げなきゃいけない。今我らが直面しているのは、そういう事態なんだ。あんたたちがこれまで見て見ぬふりをしていた分のツケを、払わなきゃいけない時が来たんだ」
と、そんな彼らに若い者たちが噛み付く。
「とにかく、これまで疎かにしてきたローレル様への感謝と、この力の意味と理由をしっかり理解しなおすべきなんだ。そうだろう、相棒?」
自らの相棒である精霊の背を、前へと押し出し、その中の一人が言った。
「だからまずは、彼らの声に耳を傾けるところからはじめようじゃないか」
彼らは、ローレルの分け身。
「ローレル様に御心に沿おうというのに、彼ら無くして話を進めても意味はない」
「そうだ、お前も」
「君もだ」
彼らは、改めて自分の相棒である彼らに向き合い、彼らの言葉を待つ。
その光景を、異界からこっそり眺めていたローレルは、口角を不自然に引きつらせながら、一口、ティーカップからハーブティーを啜った。
にこにこ微笑む朔海に、肩をすくめて見せながら、彼女は愛おしそうに微笑んだ。
彼らの、答えに期待を寄せながら、そっと耳を傾ける。
そうとは知らぬまま、彼らは議論を続ける。
昨日とは違う、明日のために。




