彼らが選ぶ答え
精霊と、主である人間。
形は主従であるが、その関係は基本的には対等で、だから主である人間に、精霊が隷属する事はありえない。
だから、主であるアーサーの制止を、彼はひと睨みしただけで無視し、それ望む者たちに向けて話し始めた。
それは、住民たちも、彼らと主従関係にある精霊たちも初めて聞く話である。
彼の話が先に進み、“最近の話”に近づくごとに、彼らの表情は険しくなっていく。
「我らは魔物との戦いを生業とする一族。戦うための力が必要である事は、当然理解している。だからこれまで、多少の理不尽を覚えても、この身分制度に異議を唱える者はほとんど居なかった」
そして、彼の話が終焉に近づくと、誰かが不意にポツリとこぼすように呟いた。
「……だがそれは、個人の資質やまっとうな努力の結果の力の差の話。そのような、人の道から外れた行為の結果で得た力など、認められるわけがない。ローレル様がお怒りになった理由とというのが、それなのではないか?」
「そうだ。何より、せっかく生まれた優秀な子を殺した理由というのもふざけた話じゃないか。お前たちが権力を手放したくないがために、そこまで非道な事が出来るとは……」
「そこらの魔物よりよっぽどタチが悪いじゃないか」
ローレルの怒りの理由に、納得のいく答えを得た彼らは、長一族に鋭い視線を向けた。
「つまり、力の衰えは即ちローレル様の失望によるものだったものを、それを察することなく、さらにローレル様のお怒りと失望を上塗りする愚行を繰り返した結果、我らを見限るとまで仰られる程にまで事態を悪化させた、と。分かりやすく言うと、そういうことですか」
「それは。今の話を聞く限り、我らにとっての裏切り者は、ルナ様ではなく長、――いや、アーサー、お前やその親族という事になるな」
「そうだ。先ほどローレル様はルナ様をお気に入りと仰っていたではないか。俺は確かに聞いていたぞ」
「あの小娘と小僧は、我らよりはるかに強いご加護を、ローレル様より賜っておられた。あの小娘は、ルナ様の娘なのだろう?」
ルナの娘であるということは、同時にアーサーの娘でもあるのだが。
「あの娘の隣に居た男は、娘の夫だと言っていたな。ルナ様が連れ出した娘を保護した当人だとも」
「生まれこそ我ら一族の者だが、全く違う育ち方をした娘と、彼女と縁を結んだ以外我らとは全く関わりのないあの男までもが、我らよりローレル様に愛されている」
「つまりそれほどに、我らのやり方にローレル様が怒り、失望しているという事か……」
人々のざわめきに、精霊たちも同調する。
「あの小僧、一族の子である娘だけでなく、あの男も主だと言っていたな。……可能なのか、2人も主をもつなど――これまで我らは考えたこともなかった」
「それは、あの小僧が吸血鬼で、あの娘が持つ一族の力を得て、しかもローレル様の破魔の力を取り入れて無事だという反則レベルの例外だろう。……だが、確かに我らはこれまでの固定概念に縛られすぎていた事実は、否めないだろうな」
「ただ、主に力を貸すばかりが我らの勤めではない」
形は主従であるが、その関係は基本的には対等で、だから主である人間に、精霊が隷属する事はありえない――が。
既に慣習化した関係に深く考えもせず唯々諾々と従い過ぎた感が否めない。
「ローレル様の不調を、薄々気づきながら、何もしなかった我らにも、少なからず責はあろう」
だが、潮と、彼らの使う言葉ではない名を得た彼を従えた主2人は、初対面のはずの怒れるローレルに臆することなく正面から向き合い、ぶつかった。
その姿勢に、ローレルは好感を示した。
「それがすなわち、ローレル様の望み。それこそが、答えということ」
「……ならばやはり。糾弾するべき相手は他ならぬ、あなたのようですな」
武器を構え、憤怒の表情を浮かべる彼を、住民たちはぐるりと取り囲む。
「あなた方を、どう処断するべきか。まずはそこから、始めましょうか」




