最後通牒
頭の上からの言葉に、戦士たちは憤りの視線を向ける。
――が。散々振り回された彼らにはもう先程のように威勢良く武器を振り回す余裕は無いらしい。
疲れたように地面に膝をついている者も多い。
「お前たちも知ってのとおり、このローレルは破魔の精霊。――この世に存在する魔の力や邪気を浄化するのが本来の主な役目であった」
それは、ここで生まれ育った者なら漏れなく親兄弟から幾度となく聞かされる物語。
「だが、やがて人が知恵をつけるに従い、浄化すべきものもまた力を得、魔物という形を成すようになった。動物のように自由に動けるものを浄化するには、動けぬ植物の精であるこのローレルには過ぎた仕事であった」
課せられた役を果たせねば、存在理由を失った精霊は信仰という名の力を得られず、いずれ消滅する。
「しかし既にその時点である程度力を得ていた為に、本来の役と同時にもう一つの役を任されていた」
それは、大精霊の中でも特に力のある存在にしか果たせぬ役目。
必要な力を持たぬ者では、その重みに耐えられない、重要な役目。
「人々の心が生み出し、存続させる夢幻の世。魔界や天界と名のつくそれらを支える柱。……破魔の力を持つ者は、力の大小はあれど、他にもごまんと居る」
ローレルがその役目を放棄したとしても、短期的には無影響とは言えないだろうが、長期的に見れば必ず他が穴を埋め、そう問題にはならない。
「――しかし、世界を支えるに相応しい力を持つ者は限られる。簡単に代えの利かぬ役割ゆえ、その責任は大きく、仮に放棄すれば、この人間界に於いても、大いなる天地の災いが各地にもたらされるであろう」
大雨、大風、日照り。地震や津波、火山の噴火。
それに伴う異常気象や作物の不作などの2次災害。
それが、どんな形で現れるかは誰にも分からない。
「しかし、そうして人間たちの命が多く失われれば、巡り巡って我らの存在が脅かされ、さらに次の禍を招く悪循環に陥りかねない」
だからこそ。
「何よりもこの役目は優先されるべき事。それ故、かつて役目の遂行が独力で叶わなくなった時、必要な手足と、力の源となる信仰を得るため、お前たちの祖先に加護を与えた」
魔物の浄化の力を人々に貸し与え、彼らの手によって魔物を滅し、本来の役目を遂行する。
その力を与える事で、彼らの信仰を得て、それを自らの力とし、またその力を彼らに貸し与える。
「それが、本来の我らの正しき契約の姿であった」
ローレルの力を受ける器量には個人差があった。
しかしかつては、その大小関係なく、等しく力に対する感謝がローレルに捧げられていた。
けれどいつしか、彼らは力に執着するようになり、その力量による身分制度を設け――それによって生活の苦しくなった力の少ない者たちは、ローレルへの感謝の心を忘れていった。
また、力におごるようになった支配者たちもまた、形骸的な儀式にばかり力を注ぎ、肝心のローレルへの感謝の心は実にお粗末なものとなっていった。
「それゆえ、ローレルの力は次第に削られ、お前たちに貸し与える力も減っていはいた。――だが、それ以上にお前たちの“器”も小さくなっていた」
その事実に心当たりのある長一族は、ハッと息を飲んだ。
「それでも、代々お前たちの傍にあった愛着から、いずれ自分たちで己の過ちに気づく時を待っていたのだ」
だが、残念なことに、その期待は裏切られ続けてきた。
「ぎりぎりまで、待っていたのだが……、もう、限界が近い」
これ以上力を削られれば、柱としての役目を果たせなくなる。
「もう、待てぬ。故に、お前たちを見限り、お前たちの代わりを探すつもりでいた」
別に、信仰と名のつくものでなくとも良い。それに足る力を与えてくれるのならば、誰でも構わないのだ。
「だが、この坊に諭された。黙っているだけでは何も伝わらない、と。何かを変えたいのなら、自ら働きかけることも大事なことだと。……だから、お前たちに最後の選択の機会を与えることにした」
ローレルは、そうして改めて彼らに選択肢を突きつける。
「心を綺麗に入れ替え、もう一度やり直す気があるのなら、このローレルはお前たちを信じ、ここに留まろう。しかし、それが受け入れられぬのならば、ローレルはお前たちをこの地より追放し、代わりを迎え入れる事とする」
二つの選択肢を、彼らに提示し、尋ねる。
「さあ、お前たちはどちらを選ぶ……?」




