指令!
「まさか、殆ど考えなしの行動だったとはな」
気をつけて聞かなければ聞こえない、ギリギリまで低めた声が、ため息のように吐き出される。
「お前、学習能力と言葉を知っているか?」
耳に痛いセリフに、少しだけ和らいだばかりだった朔海の表情が、ぴくりと強張る。
「万全の状態で挑むんだって、無茶なんだぞ、こんなの。それをそんなボロボロの有様で。姫様を置いて――あの方からの命令も、国も姫様に押し付けて死ぬつもりだったのか」
ずしりと、朔海の頭の上に座り込み、ぶちぶちと愚痴を垂れ流す潮に、反論もできずに肩を落とす。
「あの状況で、あまり選ぶ余地が無かったのは分かるがな。せめて、この世界の中でならお前の次に有利なオレが戻るまでくらい待て」
その肩の上に、ぴょいと飛び降り、堂々と胸を張って立つ潮。
「お前に何の考えもないなら、これ以外、他に方法なんか無い」
ローレルを見据える彼の表情は、朔海以上に固い。
「名づけて……開け天岩戸作戦だ!」
その口から飛び出した言葉に……咲月も朔海も、こんな状況ながら、一瞬意味が分からずぽかんと彼の顔を伺ってしまう。
「は……?」
「あ、天岩戸って、あれよね? 日本神話にある……」
数ある日本神話のエピソードの中でも、とりわけ有名な、あの話……
「――そうです、姫様。今のローレル様は、“荒御魂”の殻を盾に、自らの精神を守ろうと立て籠ってしまっておられる状況にあります」
それはさながら、岩屋に隠れた天照大神の様に。
「ローレル様を覆う盾もまた、ローレル様の一部である以上、力尽くでどうにかできるものではありません。ローレル様自ら出てきていただかねばならないのです」
あの話では、岩屋の前で飲めや歌えのどんちゃん騒ぎで女神の気を引き、戸を開けさせた。
「あの盾は、ローレル様の一部、つまり精神体です。この世界でのことなら、どんなに頑なに閉じこもろうと、直に伝わります」
つまり……
「だから、あの神話のように、面白おかしく、とにかくローレル様の気を引くのです!」
潮は、ドヤ! とばかりに胸を張って言い切った。
「ち、ちなみに……具体的にはどうやって……? っていうか、潮、さっきはなるべく彼女を刺激しないようにって言っていなかったか?」
「当たり前だ。ローレル様の攻撃をまともに受けたらタダでは済まないからな。ローレル様の攻撃を華麗にかわしながらやるんだよ。……一番良いのは、ローレル様に捧げる伝統の踊りだろうが、流石に今の今で覚えて踊れというのも無理だろうからな……。とりあえず、踊ってみたらどうだ?」
「お、踊……!? 面白おかしくって……!」
朔海にとって、踊りと言ってまず浮かぶのは、社交ダンスの類であり。
咲月にとって、踊りと言ってまず浮かぶのは、盆踊りの類であり。
……この場には楽隊はもちろん、レコードの類も存在せず、つまり音楽を期待できない。
こんな、緊張感あふれる場で、面白おかしく踊るとは……
「でも、それしか方法がないのなら……」
咲月が、固い声で、意を決したように呟く。
「やるしか、ないよね」
咲月は、朔海の前に立ち、手を差し出した。
「い、一応、練習はしたし、この間の夜会でも踊ったし」
まだまだ、初心者の域を出ないのだけれど。
「ふぉ、フォロー、よろしくお願いします」




