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Need of Your Heart's Blood 3  作者: 彩世 幻夜
第三章 The next move
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類友?

 これまで塞がれていた道が、ローレルの指示で開かれる。

 それを、憎悪と言っても過言ではない目で睨みつけながらも、湧き出る罵詈雑言をローレルの前で漏らさないよう、ぎりぎりと歯を食い縛る。


 日本には、針のむしろという言葉がある。……実際、咲月はずっと、そういう場所で暮らしていたから、こんな空気にはむしろ慣れているはずなのに。


 「……朔海」


 震える手をずっと握ってくれている彼の手の温もりが、申し訳なくなる。

 前に、こうして針のむしろの中、こうしてくれていた時にはあんなに頼もしくて、嬉しかったのに。

 あの時と、今。――何ら変わりないのに。


 「……本当に、あの人が――」

 あんな人が血の繋がった実の父親なのかと思うと、心が重くなる。

 

 「咲月」

 だが、朔海は軽い調子で咲月の肩を叩いた。

 「僕の父や母……それに実の弟がどんなだったか、まさかもう忘れた?」

 表情を緩め、大げさなくらいに肩をすくめてみせる。


 「僕の肉親が君にかけた迷惑を思えば、このくらい大した事じゃないさ。それに、そんな事を言い始めたら、今回の騒動は葉月の父親が起こしたものだ。この程度で君が申し訳なく思っていたら、彼の立場が無くなっちゃうよ?」


 「……類は友を呼ぶって言うけど……これ、こういうのもそうなのかな?」

 「さあ、それは分からないけど。……でも、彼と出会ったきっかけは『親』で、彼と打ち解けるきっかけの一つにそれがあったのも確かだし。……咲月と初めて会った時も……あれは……」

 産み落とされたばかりの赤ん坊が、あんな場所に一人置き去りにされていた。

 「――たった一人きりであそこにいた君が、僕の手を握ってくれたから。だから僕は……」


 ひときわ強く、咲月の手が朔海の手に包み込まれる。


 「ホント、こればっかりはね。……人間だろうが、吸血鬼だろうが……生まれてくる場所を――親を、僕たちが選ぶことはできないから。そして、一度生まれてきてしまったら、血の縁を完全に断ち切ることは不可能だ。書類上、体面上の縁は切れても、遺伝子レベルの関係を変えることは出来ないから」


 そうして歩くうち、ようやく“それ”が目に入る。

 『祠』と聞いていたから、つい、日本で見慣れた木製の、小さな社殿のようなそれを思い浮かべていたのだが、咲月の感覚的にはこれは、『祭壇』という方が相応しいように思える。


 ほんの一段ほど高くつくりつけられた、石造りの舞台。

 円を描く舞台の、ローレルの樹に一番近い一辺に、石碑が建てられ、その前には供え物などを並べた台が置かれている。


 その舞台へあがる階段の前で、咲月たちは足を止める。

 「――よい。上がれ。上がって、そこで待っていろ」

 とたんに、ローレルに、半ば命令するように指示を飛ばされ、膝ほどの高さの舞台へ上がる。


 すると――

 「えっ、何これ……」

 「暖かい……」

 思わず、二人で顔を見合わせる。


 ――あるのは、石舞台の床だけ。一応、円を描く縁どりの縁石はあれど、せいぜい足のくるぶし程度の高さしかない、吹きっさらしのはずの場所が、一歩その中に入れば、まるで温室にいるように暖かな空気に全身が包み込まれる。


 「いや、これは……違う。暖かいのは、空気じゃない」


 全身一度に、ホッとするような温もりが広がったせいで、ついそう思ってしまったけれど。確かに、すぐにそうではないと気づく。

 肌に触れる空気の温度は、別段何も変わらない。

 けれど、皮膚一枚隔てた体の内側には、何とも言えない優しい温もりで満たされている。


 「この感じ……似てないか?」

 でも、その感覚に覚えがある。

 潮を通して力を受け取るときに感じるあの、温もりと、同じ感覚。

 しかしそれとは質も規模も段違い――

 

 ゆっくりその場に足を伸ばして腰を下ろせば、じんわりとその温もりが、体中に蓄積していた疲労を溶かし、癒していく。

 ローレルが、この場での休息を提案した理由は、この為だったのだろう。


 見上げれば、たくさんの葉をたたえた枝が舞台の屋根のように伸び、きらきらとした木漏れ日の光が降り注ぐ。

 あちらの方は、がやがやわいわいと随分と騒がしいが、この場にあるのは、静寂だけだ。


 「この光の色……」

 それは、破魔の力を持つ白銀の光と同じ色――。そして、この温もり。


 「さっきの……ローレル様の台詞……。“大丈夫”って……」


 優しく癒してくれる感覚に加え、朔海はわずかながらにちくちくと刺さってくるものを感じていた。

 ……それは、害になるほどのものではないが――


 それを見越したように、あちらで彼女がわざとらしくこちらにニヤリと黒い笑いを向ける瞬間を目撃してしまった朔海は、一人小さくため息をついた。

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