優先するべき課題
――とは言え。
「……こういう場合、多分真っ先に挨拶すべきは大精霊様なんだろうけど。……彼女の事も気になる。ここの人たちに今回のことを説明すべきだけど、まずは誰に声を掛けるべきだと思う?」
当然、こういう場合は長たる者にまず声をかけるべきなのは分かる……が。
「……大精霊様と直接話すことはできるのか? どうすればいい?」
――それに。
「彼女は……。できればまず先に助けに行きたいけど」
……けれど。
「狼は倒したけど、事情を知らない彼らからすれば、僕らも魔物でしかない。下手に長の家を家探しするのもどうかと思うし、説明はしないとだろうけど、……説明以前に、まず落ち着いて話を聞いて貰えるかどうか……」
いくら魔物を狩ることを生業とする者の住む街といえど、これだけ高位の魔物が大挙して押し寄せれば、子どもや年寄りとて居る住民は少なからずパニック状態だろう。
そこへ、下手に刺激を与えれば、話を聞いてもらえるどころか、こちらに危害を加えてこようとする可能性だってある。
だが、既に狼たちの回収のための人手を要請する使いを葉月に出してしまった今、彼の手配する人員がここへ到着する前には、歓迎とまでは期待しないが、彼らを敵とみなして攻撃されないくらいには説得しておく必要があった。
「……潮。まずは何を優先すべきだと思うかい?」
「姫様の母君が居られるのは地下だ。……気持ち的にはオレだって、一番に優先したいが、炎も消え、狼たちの脅威も無くなった今、冷静に判断するなら、まだ今少し猶予はあるはずだ」
潮は、その高い声を精一杯低くひそめて答える。
「そして、大精霊様にご挨拶するのなら――……本来、お言葉をいただいたり、お目通りを願ったりするなら、ローレル様の樹の根元の祠にお参りする。さっきは状況が状況だったから、本来必要なアレコレ全部すっ飛ばして、オレが直接ローレル様に嘆願した。その無礼の謝罪も含めて、オレ達は一度、正式に祠にお参りすべきなんだ」
しかし、そのお参りすべき祠のある樹の根元には今、避難した住民たちが集まっている。
「冷静に考えて、本来一番優先すべきは、勿論ローレル様への挨拶だ。けど、今の状況じゃ、まずあいつらを宥めなきゃ、それもできない。……だから、結果論的には住民たちの説得が、まず優先すべきことだろう」
言いながら、潮は前に立って、朔海らを案内するように歩き出す。
「……面倒だろうが、一つだけ朗報をやるよ。ここの狩人たちが魔物を狩るのに使う力は、各々の育てた自分の精霊の力……つまり元を正せば、ローレル様のお力だ」
そして、かの加護を受けたものは、同じ力で傷つけられる事はない。
「奴らの使う、“特殊能力”では、お前と姫様を傷付ける事は不可能だ。……だが、これでも代々魔物狩りをしてきた一族だからな。その間に蓄積してきた知識は本物……吸血鬼の弱点については、かなり正確に知っているぞ」
万全の状態であれば、それでも、規格外の力を得ている朔海や咲月ならば警戒するほどのものでもない。
が、これまでの戦闘で疲れ果てた今の現状で、不意をつかれ、多勢に無勢の不理を利用して弱点を攻撃されれば……分からない。
「過度の警戒は必要ないが、油断はするなよ」
彼にとって、本来故郷であるはずの場所で、彼は彼の兄弟とも言える精霊たちを従える者たちの集まる街の中心部を目指して歩きながら、広い通りの向こうに見えた人だかりに、鋭い視線を向ける。
「さあ、まずは“ご挨拶”からだ」




