表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Need of Your Heart's Blood 3  作者: 彩世 幻夜
第三章 The next move
46/100

奇襲作戦

 咲月は、そう言えば彼が万全の状態で狼となった姿を見た事が無かったと、それを見ながらぼんやりと頭の片隅に思った。


 最悪の初対面となった、葉月宅でのあの悲劇――、朔海の力があって、彼が蘇れたから良かったものの、それでも彼らが紅狼を憎む気持ちが心底理解できたあの一件の時も、彼が使った裏技故の負傷で、毛並みは悪かった。

 二度目の対面となった、城での儀式の際は、嫌らしい策を色々と巡らせる余裕をたっぷり持った万全の状態であったが、有力な一族の首長として出席していた彼は終始人型をしていた。


 ――そして、今。

 咲月が魔界へ来る前に、朔海にこっ酷く敗れたとは聞いていたが、その負傷は未だ癒えきっていないらしい。

 ……吸血鬼であり、その中でも強い力を持つ彼が未だあの状態とは、その時の彼は一体どういう状態だったのだろう?


 艶も無く、ブラッシングをした様子の一切ない、ぼさぼさに乱れ絡まり、汚れ切った酷い毛並み。……その巨体に似合わぬ、まるでチワワのように震える身体。濁りきった目。

 どれをどう取って見ても不調であるとひと目で分かる状態なのに、その濁った目に宿る狂気の光の強さは、自分でも意図しない恐怖や悪寒を強制的に引きずり出す力を持っていた。


 何より、自分がそれだけ酷い状態にも関わらず、狼の顔でも分かるほど、余裕と自信に満ちた笑みを浮かべているのが、不気味で仕方ない。


 「この紅狼がお前たちに命じたのは、陽動だ。陽動する側が陽動されて何とする」


 見た目こそ酷い状態だが、そうして声を張れば、その声量は重みをもってしっかり届く、上に立つ者の言葉となる。


 「……だが、もうその必要もない。――チェック・メイトだ」


 皮肉をたっぷり含んだ声で、紅狼は一際愉快げに笑う。

 その台詞回しに覚えのある朔海も、不快げに眉をひそめ、紅狼を睨みつつ、周囲を警戒し見回し――


 その視界に彼の自信の根拠が映るより早く、金切り声が耳に飛び込んできた。


 狼たちの野太い声では無く、そもそも方向が違う。

 それは、はるか後方――結界内部から聞こえ――次いで、その目に明らかな異変が映り込む。


 突如高々と上がった火柱の、その場所に血相を変えたのは、朔海だった。


 「貴様、どうして……!」


 「――古来より今日まで、魔に魅入られる人間はいつの時代にも居るものだ。……特に力を望む者は、“力”の誘惑にめっぽう弱い。力を与えると誘えば、情報の一つや二つ手に入れるのは赤子の手をひねるより容易な事よ」


 この集落において機密とされるだろう情報。……咲月の母の居所をピンポイントで襲う。


 目を凝らせば、長の屋敷の側に大穴が空いている。

 ぐるりと天まで囲った結界も、その効果は地下までは及ばない。

 そうと踏んで、どうやら穴を掘って侵入したらしい。


 紅狼の言うところの陽動組とは別隊を組んでいたらしく、こちら側にいる傷ついた狼達と違って、未だピンピンしている獣達が屋敷を取り囲んでいる。


 「……では、取引しようではないか、綺羅星の」


 穴からは、次から次へと後続の狼達が姿を現し、住民たちが避難した精霊の棲む樹を目指して駆ける。

 ――猶予は、無い。


 「今、あの火柱はまだ地下に届いていない。だが、貴様らの返答如何ではどうなるか……、分かっておるであろう?」


 その紅狼の言い様から、咲月も、あの場所に自分の生みの母親というのが居るらしいと察し、改めてそちらを振り返る。


 「綺羅星殿下、今、この場で貴方自身か、もしくはその娘の血を私に捧げなさい。……どちらでも構わぬ。が、もしも貴方様の血をいただけるなら、その娘の命は今は見逃しましょう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ