試練の内容
どんな称号を得るにしろ、その条件として共通するのは“力”を示すこと。
「そいつが持つ魔力の質と量、そいつ自身の資質を見るのに、一番手っ取り早くて分かりやすい手段がある」
方法を尋ねた咲月への返答を、彼女が当たり前のように返す。
「奴らが用意する魔物や魔獣を使い魔として従えることができたなら、その称号を得られる」
――確かに、使い魔を自らの血で従えるには、その相手の力を押さえ込むだけの力を扱えなければならない。
「奴らがどんなのを連れてくるか、それは当日のその時まで分からない。それを漏らした職員が居れば、そいつは即消されるくらいの極秘扱いだが……、ただ一つ。SSSクラスの魔獣か魔物が用意されるのは確かだ」
「……SSSクラス?」
それが、何を言っているのかは、おおよそ察せられるが。
その問いの真意を汲んで、ベヒモスが大まかな区分分けを紙に書き出していく。
「……別に、どこかの機関が明確に定めた分類じゃねえが、まあこんなもんだろ、っつう基準だな。下はDランク、上は特SSSクラスまである。ちなみに、その最上級特SSSクラスに名があるのはただ一人、魔王その人だけだ」
そのすぐ下、特SSに上級悪魔、特Sクラスに中級悪魔や竜族と吸血鬼一族でも特に力があるとされる者数名が名を連ねている。
「つまり、下級悪魔や竜族崩れレベルがだいたいSSSクラスに入ってくる」
それだけの力を持った相手を使い魔として従える事の出来る者。
それが、元老院を名乗る為に最低限必要な条件――。
少なくとも、不特定多数との乱闘や、吸血鬼相手の決闘みたいな事をするよりは、得意分野とも言える事でそれと認められるなら……
「もし上手くいったら、その使い魔は……?」
「気に入ったのならそのまま従えればいいし、要らなければ契約を破棄すればいい。事後に関して、奴らは一切関知しない」
「……うん、悪くない。それでいこう」
「ならば、式典用のドレスに加えて戦袍も用意したほうがよさそうだ。仮にも王妃だ、見栄えは重要だからな。今からでもまだギリで間に合う。オーダーメイド用の採寸と、デザインの打ち合わせに行ってこい。儀典省への手続きやらはこっちで済ませておく」
咲月が一つ肯けば、そこからトントンと話は進み、すぐに次が示される。
仕立て屋が帰れば、次は戴冠式の式次第の確認。それが済めば、次は儀典省からの返答書類の確認。
忙しさそのものは魔界へ来る前と大差ないはずが、ただ教わっていれば良かっただけの以前と違い、自ら判断して決断し、指示を出すというのは思っていた以上にプレッシャーがかかり、その分疲労も溜まる。
朔海は朔海で忙しくしていて、戴冠式の打ち合わせや練習などで顔を合わせる事はあっても、そこは互いに仕事中で、とても気安く私語など出来る雰囲気ではない。
せっかく魔界に来たというのに、一緒にいられる時間は寝る前と寝起きの僅かな時間だけ。
「そちらも大方決まったって、報告書を読んだよ。……お疲れ様」
「まだ、計画段階だもの。本当に大変なのはこれからだし」
それでも、こうしてすぐ隣に感じられる温もりが、今の咲月を支える一番の柱だ。
まだ少し熱を持った気だるい体を彼に預けたまま、咲月は言った。
「戴冠式にしろ、私のお披露目にしろ……。とにかく、本番をとちらないように、っていうのがさ……。ついこないだまでごく普通の一般庶民な日本人のつもりだった私には一番大変なんだって」
不特定多数の大観衆の前に立つ。
こればかりは、リハーサルでも練習はできない。
本番、一発勝負だ。
「精一杯、できる限りの準備をして、本番はもう頑張るしかない。大丈夫、咲月は結構本番に強いから。何かあっても、絶対に僕がフォローするから」
――本番まで、あと3日。
朔海が口づけと共にくれる言葉を抱いて、咲月は目を閉じた。




