作戦会議
執務室――とは言っても、急遽調達した古ぼけた机と、同じく急遽造り付けた簡素な書棚、そして申し訳程度に置かれた応接用ソファが2台あるだけの、10畳あるかないかといった部屋。
仮にも王宮内のそれとは思えない部屋だが、それでも十分足りる。
「……これが、今の僕の現状。それを、どれだけ早く、どこまで好転させられるかが重要となるわけですが」
葉月、アルフレート。ベヒモス、カイムがそれぞれ向かい合わせのソファに座り、朔海はその前に置かれた自分の執務机から彼ら4人と交互に視線を合わせる。
その向こうに立つ涼牙へと視線を移して、朔海は言った。
「昨日の夜会にて作った足掛かりを頼りに、今日、どこまで進めるか。……一歩でも先に進むために、どうかご助力をお願いしたい」
「――聞いたぜ、俺たちのボスから」
「なかなか面白そうな仕事だ。何よりそれがまず、俺たちの姫のためになるってのがな」
ベヒモスとカイムがにやりと互いの顔を見合わせ、そして揃って朔海を見返した。
「むしろこっちから頼むぜ。是非俺たちにやらせてくれ」
「ありがとうございます。そう言っていただけると僕も心強い。それでは、こちらを――」
机の上にあった資料を手に取って涼牙に目配せをする。
すると即座に涼牙が動き、それをソファに座る四人に配って歩く。
「まずこれが、さしあたっての僕の側近となる予定の者たちに関する資料です」
先日竜王位を手にして、力を示した事でようやく従わせる事が可能となった者たち。
「僕が隙を見せれば、その瞬間僕の命ごと僕の位を奪おうとするだろう」
朔海は、平坦な声で言った。
「……確実に従わせたいのなら、こいつら全員お前の眷属にするって手もあるだろう? その分、リスクは高まるが。お前の力が奴らに押し負けない限りは確実に従えられるぞ」
アルフレートが、尋ねるようにその提案をする。
「見る限りだが、四大家の当主と四大公連中を除けば、貴殿が抑えるのに苦労するような手合いはこの中には居ないだろう」
アルフレートが、テーブルに置いたそれを人差し指でトントン叩く。
――ワープロで打った活字の資料ではない。全てインクとペンで手書きされたものだ。
これに書かれた情報を集めたのも、それを資料の形に纏めたのも、人数分部数を用意したのも、全て涼牙だ。……彼の優秀さには頭が下がる。
「ですが、それでは最初から、今の魔界の通念をそのまま押し通す事になる。そんな事では、僕たちの改革に説得力が無くなってしまいます」
どうしても必要だというなら、最終手段として使う事はあるかもしれない。けれど――
「今日、この後で彼らに僕が王位に就くことを明かします。――これは、まだ極秘情報です。彼らには、誓約をしてもらった上で――ですが」
彼らは政務を動かす為に不可欠な、優秀な人材だ。……今、この城で日常を過ごす為に不可欠な、優秀な人材である涼牙と同様に。
しかし、信頼面において、まだ涼牙と同列にはとても語れない。
「今、この極秘情報が漏れれば面倒な事になる。その、譲れない最後の一線だけは妥協する」
全ては、縛らないけれど、譲れない部分では、ぎりぎりの妥協点を探る。
「そして、その後の食事会に出席する者は、僕が選んだ候補者です。そこからあなたたちに選んでもらいたいんです。“次”への足がかりを」
――そう、まだ彼らは候補の候補だ。
「『夢路の導き』からは、臨時講師くらいなら派遣しても良いとの返事もいただいています。指導方法などは全てお任せします。それについて、必要があれば、可能な限り対応します」
その上で。
「明日からは、新体制を整えて、試運転を始める。……本格指導までに、形を整えられるように」
今日やるべきこと、明日からの予定を明確に示し、朔海はまず葉月に視線を合わせた。
「葉月には、しばらくは忙しくあちこち行き来して貰うことになる」
次に、アルフレート。
「今日一日、よろしくお願いします」
そして、ベヒモスとカイム。
「今日は、あなた方にとって不愉快な場面も多々あると思われますので、先に謝らせていただきます」
「――望むところですよ」
「ああ、分かっている」
「そういうこと」
それに対し、それぞれ短い返事を返し、立ち上がる。
「んじゃ、いっちょやってやろうじゃねぇか」
それぞれ片手を前に出し、円陣を組んで手を重ね――声を重ね、気合を入れ――そして。




