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私、魔法屋でアルバイトはじめましたっ!  作者: 椋鳥 虹
~ おまけ ~
14/14

【外伝2】チェリッシュの特技?

続編のほうも無事完結したので、久しぶりに外伝アップしてみました!

よろしくお願いします!



 


「…それで、チェリッシュは魔法でどんなことが出来るの?」

「ぶほっ!」


 バレンシアの突然の問いかけに、チェリッシュは思わず口にしていたお茶を吹き出した。






 チェリッシュが『魔法屋アンティーク』にやってきて既に一週間ほどが経過していた。


 これまでの間は、新装開店したアンティークの準備や…なにより商売の心得が皆無だったチェリッシュの教育に忙しかった。上から目線で顧客慣れしていないチェリッシュの『調教』に、多くの時間が当てられていた。

 チェリッシュばブーブー文句を言いながらも「イヤだったらいつでも出て行って良いんだよっ!」というバレンシアの一喝ですぐに黙り込んでしまっていた。

 …どうやら、つい先日までの極貧生活がよっぽど堪えていたらしい。

 ぶつぶつ文句を言いながらも、引きつった笑顔で「ぃらっしゃいあっせー」と頭を下げるチェリッシュに、バレンシアはつい笑顔が零れ出たのだった。


 そんな感じで、ドタバタした日々が過ぎ去っていった。





 嵐のような一週間が過ぎて、ようやくお店を立ち上げて軌道に乗ってきたとき、ふとバレンシアは気付いたのだ。


 …そういえば、チェリッシュの魔法ろくに見てないなぁ。


 そうして彼女に問いかけたのが、冒頭の場面であった。






「ぶぇほっ!おぇえっ!」

「ちょっとチェリッシュ、あんたもうちょっと可愛らしい咳しなさいよ?」

「う、うるさいわねぇ!急にそんなこと聞いてくるからビックリしたんじゃない!」


 そう涙ぐみながら大声を出すチェリッシュを、バレンシアは疑いの目で見た。

 …どうにも怪しい。


 魔法学園出身であるからには、おそらく魔法は使えるのであろう。

 だが、彼女は自分で「大魔法使い」を名乗りながら、一向に魔法を見せようとしないのだ。


「じゃあ、何か魔法使ってみてよ?」

「い、いいわよ!表に出なさいよ!」


 あからさまにホッとした様子のチェリッシュに…バレンシアは違和感を感じた。

 天性のカンで、バレンシアは…チェリッシュが何かを隠していることに気付いたのだ。


 魔法の話をしたら、明らかに動揺した。

 しかし、魔法を使えと言ったらホッとした表情を浮かべた。

 これは一体、どういうことなのか…






 お店の前に出た二人。

 チェリッシュは片手に持つ小さな魔法の杖をバレンシアの鼻先に当てた。


「さぁ、これから偉大なる魔法使い、チェリッシュ様のマジックショーをお見せしますわよっ!」


 自慢げにそう口にすると…チェリッシュは魔法の言葉を発し始めた。


「…出でよ!『魔法花火』!」



 次の瞬間、チェリッシュの周りで色とりどりの光が小さく炸裂した。

 それはまるで花が咲き乱れたかのようで…

 その美しさに、バレンシアだけでなくお店の前を通りかかった通行人たちまで思わず見惚れて足を止めていた。



「…へぇ、なかなか凄いね!」

「でっしょー?えへへー、まいったか!」


 たいして大きくもない胸を張るチェリッシュ。本当に鼻高々といった感じだ。


 …たしかにチェリッシュはちゃんとした魔法使いであるようだ。

 であれば、先ほどの動揺や安堵は一体なんだったのか。


 …バレンシアは、先ほど感じた違和感の正体を確かめてみたくなっていた。

 そこで、いくつかチェリッシュに確認してみることにした。


「あんたが優秀な魔法使いってのは本当だったのね?」

「あったりまえでしょ!アタシはクラリティ先生から『貴女は高度な光魔法に特性がある』って言われたんだから!」

「へぇー、光魔法?光魔法ってどんな魔法なの?」

「えっとね、光魔法はねぇ…明かりを灯したりとか、魔法花火を打ち上げたりとか…」

「ふーん。それで、チェリッシュは光魔法の中でどの魔法が得意なの?」


 その…バレンシアの何気ない一言に、チェリッシュの動きをピタリと止めた。

 どうやら…これこそがチェリッシュが動揺した言葉キーワードだったらしい。


「わ、わ、ワタシはどんな魔法だって得意よ?」

「いや、あたしは『光魔法でなにが得意か?』って聞いたんだけど?」

「そ、それは…」


 モゴモゴと言い淀むチェリッシュ。

 どうやら彼女は嘘がつけない性質のようだ。

 そういえば確かに営業スマイルやおべっかも苦手だ。

 たぶん、誤魔化したりするのも得意では無いのだろう。


「…それはねっ、魔法花火よ!さっき見せたでしょ!?」


 ほーら、見て御覧なさい。

 もっともらしいことを言うチェリッシュの目は、完全に泳いでいるではないか。

 ウソをついているのがバレバレだ。


 …そんな性質の彼女に好印象を持ちながらも、バレンシアは畳み掛けるように確認した。


「へー、あなた自分のことさんざん天才魔法使いとか言いながら、得意魔法なのは花火なわけ?」

「ち、違うわよっ!なにいってるのよっ!?…って、ハッ!!」


 口にしたあと、「しまった」という表情を浮かべて口を抑えるチェリッシュ。

 語るに落ちる、とはまさにこのことだ。


「へー、魔法花火じゃないんだ?それじゃあ本当は何なわけ?」

「むぐぐっ…」


 バレンシアはじーっとチェリッシュの目を見つめた。

 ダラダラ冷や汗を流すチェリッシュ。


 …やがて観念したのか、「はーっ」と大きなため息を一つつきながら、その重い口を開いた。


「……ひもよ」

「ん?」

「…ひーもっ!」

「…はい?」

「だーかーら、ひもだって言ってんでしょーが!!」


 バレンシアは最初チェリッシュがなにを言っているのかわからなかった。

 だが、しばらくして…それが『ひも』のことを指してるのだと気付いた。


「えーっと、ひもって…あの、荷物を縛ったりする紐?」

「…そうよ」

「光魔法の紐ってことは…光る紐?」

「そうよ!文句あるっ!?」

「いや、文句はないんだけど…それなんに使うの?」

「な…何に使うのかって?そうね、たとえば…『縄跳び』とか?」

「縄跳びねぇ…」

「あっ!あと、あやとりとか?」

「…」

「…」


 すがるような目で見つめてくるチェリッシュ。

 それを冷めた目線で眺めるバレンシア。


 二人の間に流れる沈黙。





 …先に耐えられなくなったのはチェリッシュのほうだった。

 突如ボロボロと涙を零したかと思うと、「うわぁぁぁぁあぁぁあん!」と大声を上げながらな大泣きしはじめたのだった。








「おーよしよし。わかったから、もう泣かないで」

「ぐすっ…うっさいわね、下手な慰めはいらないわっ!」


 しばらく大泣きしたチェリッシュ。収まってきたタイミングで優しく頭を撫でたバレンシアの手をバチッと弾いた。


「本当はわかってんのよ!あんたは…心の中でアタシのことをあざ笑ってんでしょ!?偉そうなこと言いながら、お前の得意魔法は紐かよっ!って…」

「いや、別に…」

「そうよ!アタシの得意魔法は光の紐よ!…魔法学園でも散々笑われたわ!挙句、アタシについたアダ名はなんだと思う?『ヒモジョ』よ、『紐女ヒモジョ』!紐女と書いてヒモジョなのよっ!アタシは干物か引きこもりじゃないっつーの!うわーーん!!」


 再び感極まって泣き出すチェリッシュに、バレンシアは心の中で「ちょっと追い詰め過ぎたかな、失敗したなぁ」などと思いながら盛大にため息をついたのだった。





 やがて本当に落ち着きを取り戻したチェリッシュは、ゆっくりと自らの過去を話しはじめた。


 彼女の話によると、なんでも光魔法というのはかなり難易度の高い魔法属性らしい。

 それが自分に親和性のあると知って、最初チェリッシュは狂喜した。

 だが…修行を積んでいき、彼女の固有特性がはっきりしていくにつれ、チェリッシュは絶望していった。

 なぜなら…彼女の固有特性が『ひも』だったからだ。


 魔法の固有特性は、その人物の性質なり個性が明確に出る。

 たとえば天使になった場合、その固有属性がそのまま『固有魔法』…すなわち『天使の歌』へと昇華していくことが多いからだ。


 だが…チェリッシュの場合、それは『紐』だった。


 よりによって『ひも』かよ…


 そのときの彼女の落ち込みようといったら相当なものであった。



 なぜなら、もともとお調子者だった彼女は、学校でも散々「アタシの得意な魔法属性は光よっ!凄いでしょー!」と自慢していたからだ。

 だが、その固有特性が…紐だとわかったときから、彼女の人生は変わってしまった。

 これまで自慢してきた相手からは、徹底的にバカにされることになってしまったのだ。

 さらには、今まで勝手に格下と見ていた相手から、影で『ヒモジョ』と言われ笑われていたことを知ったときの絶望感たるや…

 まぁもっとも、これらの状況はある意味自業自得ではあっただろう。




 チェリッシュの担当をしていたクラリティ導師は、そんな彼女を一生懸命慰めた。

「光魔法に特性がある人は本当にレアなのよ。きっと『紐』だってあなたにとって意味があるはず。だから、道を見誤らないでがんばって!」


 だが…その慰めの言葉は、残念なことに彼女の心には響かなかった。

 チェリッシュは最後まで立ち直ることが出来なかった。『光魔法』に特性があるということに対する高いプライドが邪魔をして、とうとう自分の態度を改善することができなかったのだ。



 こうして…なんとか魔法学園を卒業した彼女は、逃げるように学園を後にした。

 そして…その先でもその性格が災いし、色々なトラブルを巻き起こす。


 結果、彼女は…行き倒れ寸前の状態でバレンシアに拾われたのだった。








「へぇー、あんたも色々大変だったのね」

「そんな…思ってもないこと言わないでよ。アタシはもう、笑われるのには慣れたわっ!」


 かっこいいセリフを言っているように聞こえるが、チェリッシュの表情は今にもまた泣き出しそうだった。


 そんな彼女を…バレンシアはなんだか可愛らしく感じるようになっていた。


 なんというか…素直じゃないのに、根は正直なのだ。

 そして、真っ直ぐすぎるくらい真っ直ぐなその性格。


 それが…親しい友人と離れ離れになり、一人で新しいお店を切り盛りすることになったバレンシアのの心に、一筋の清涼感を与えていた。


 だから…バレンシアは優しくチェリッシュの頭を撫でた。

 今度は、チェリッシュもその手を弾いたりはしなかった。



「大丈夫よ。ここにはあんたのことを笑うやつなんていないわ。だから…あんたは正々堂々としてなさい。なにせあんたはこの『魔法屋アンティーク』の専属魔法使いなんだからね」

「えっ…?アタシまだここに居て良いの?」


 驚きの表情をチェリッシュが浮かべる。

 なんでも彼女は…前の職場で散々偉そうにしていた挙句、得意魔法が『光の紐』だと知れたとたんクビになってしまったのだという。


「なんでさ?あんたが居ないとあたしが困るんだけど」

「えっ?…こ、困るの?」


 その言葉に、チェリッシュはハッとして顔を上げた。マジマジとバレンシアの顔を見つめる。


「アタシが居ないと、バレンシアは困るの?」

「ああ、困るね。だから、チェリッシュにはここに居て欲しいと思ってる」

「あ…アタシが必要?」

「ああ、必要だ」


 その言葉を聞いたとたん、チェリッシュの瞳にまた涙が溜まっていく。

 だが…半泣きになりながらも、チェリッシュは堪えた。

 そして、すぐにいつもの偉そうな表情を取り戻すと、ふんっと鼻息荒くバレンシアに言い放った。


「しょ、しょうがないわね!そこまで言うなら…居てあげても、いいわよ」



 このやろう、調子に乗りやがって…


 バレンシアが何かを言い返してやろうかと考えていた、そのとき。

 店の外の方から「きゃーー!!」という叫び声が聞こえてきた。










 慌てて二人が外に出ると、驚きの光景が目に入った。

 なんと、すぐ近くの民家の二階の窓に、幼い男の子がぶら下がっていたのだ。

 恐らくは好奇心からだろうか。二階の窓から身を乗り出して、踏み外してしまったようだ。



 悲鳴を上げたのは、その子の母親だった。

 身体を震わせながら、室内に助けに行くか下で抱きかかえるか判断がつかない様子だった。

 道ゆく人たちもその状況に気付き、何人かが野次馬よろしく様子を伺っている。



 そんな状況に、考える間も無くバレンシアは駆け出していた。

 彼女の性格上、黙って見ていることなど出来なかったのだ。


 だが…数歩走ったとき。

 幼児の体のバランスが崩れたのが目に入った。


 危ないっ!


 そう思った次の瞬間。




 ズルッ!

 幼児の手が滑った!


 手足をバタバタさせながら、落下していく幼児。



 バレンシアは声を上げようとした。

 母親が、声にならない悲鳴を上げて顔を覆った。

 野次馬たちが、凍りついたように動きを止めた。



 だがそのとき。

 たった一人だけ動いた人物がいた。




「『光縄縛マジックロープ』!!」


 バレンシアは、自分の背後からそんな声が聞こえたのを感じた。

 そして…自分の頭の上を、光り輝くロープが、まるで稲妻のように飛んで行く。


 そして、その『光のロープ』は…

 そのまま落下中の幼児にからみつき、地面に落ちる寸前でその幼い体を家の壁に縫い付けた!


 その結果、幼児は地面に叩きつけられることなく、その光り輝くロープによって無事に助けられたのだった。


 まさに間一髪!といった状況であった。






 バレンシアはハッとして後ろを振り返った。

 するとそこには…必死の表情で杖をかざしているチェリッシュの姿があった。


「ま、間に合ったぁ…」



 そして、幼児が助かった状況を確認すると、ヘナヘナとその場に崩れ落ちた。



 わぁぁぁあぁぁぉ!!

 うぉぉおおぉぉぉ!!


 野次馬たちが、目の前で起こった奇跡に一斉に歓声を上げた。







 幼児は…チェリッシュが魔法を解除したことによって光のロープから解放されると、母親に泣きながらすがりついた。

 母親も、歓喜の涙を流しながら自分の息子を大事そうに抱きしめていた。


 そんな様子を少しだけ嬉しそうに眺めるチェリッシュに、バレンシアは手を差し伸べた。


「…やるじゃん、チェリッシュ」

「あ、あったりまえでしょ!これでアタシが一流の魔法使いだってわかった?」


 そう言いながらも、彼女の手が震えていることを…手を握りしめたバレンシアは気付いていた。

 ハッとしたチェリッシュが、フンっと鼻息荒くその手を振りほどく。

 そんな彼女に微笑みかけながら、バレンシアは褒め言葉を口にした。


「…あんたの『光の紐』、とっても役に立つじゃない?」

「そ、そうね…。そりゃアタシの得意魔法だからね!」

「そうだね。どうやら街の皆さんも、そのことは分かったみたいだよ?」



 バレンシアの言葉にハッとしたチェリッシュが周りを見渡すと、さっきまで様子を伺っていた野次馬たちが一気にチェリッシュのそばに寄ってきた。


「ねーちゃん!やるじゃねーか!」

「すごいな!魔法使いか?」

「きみはあの子の命の恩人だよ!」


 そんな…野次馬たちの声に驚き戸惑いながらもチェリッシュは、「あ、ありがとう…ございます」「はい、魔法学園出身の魔法使いでして…」「いえいえ、そこの『魔法屋アンティーク』で働いてますんで、良かったらご贔屓に…」

 などと受け答えしながら、殊勝に対応していた。




 と、そのとき。


 幼児の無事を確認した母親が幼児を連れてチェリッシュたちの元にやってきた。

 母親は頭を下げてチェリッシュに礼を言う。

 それを…顔を赤くしながら微笑み返すチェリッシュ。




 そんな彼女を見て、バレンシアは…心の底から嬉しい気分を味わっていた。

 やっぱり、自分の見る目は間違ってなかった。

 チェリッシュは、素直で良い子だった。しかも…勇気もある。勇気は誰にでも簡単に持てるものではない。


 チェリッシュとだったら、このオンボロ魔法屋もなんとかなっちゃうかもなぁ。


 そんなことを考えながらも、たくさんの人に囲まれてニヘラニヘラと表情を崩しているチェリッシュのほうへと、バレンシアは歩いていったのだった。







ここまでお付き合い頂きありがとうございました。

完結済ですが、続編の…『ぼくはお姫様なんかじゃないっ!』のほうもよろしくお願いします!


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