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私、魔法屋でアルバイトはじめましたっ!  作者: 椋鳥 虹
~ おまけ ~
11/14

(番外編)勇者現るっ!? 後編

 ぱからっぱからっ。ざっざっざっざ。

 馬車がゆっくりと舗装されていない道を突き進んでいる。

 この馬車が目指す先は、知る人ぞ知る迷宮『グイン=バルバトスの魔迷宮』。

 馬車に乗っているのは七人の男女だった。そのうち四人は、超有名冒険者チーム『明日への道程ネクストプロムナード』一行だ。

 御者席に座って馬を誘導しているのがリーダーの『英雄レジェンド』レイダー。その横では『野獣ワイルド』ガウェインが空を眺めながら肉をかじっている。

 馬車の車内に目を移すと、チームの紅一点である『うら若き魔女プリティウィッチ』ベルベットが、むっつりとした表情を浮かべたまま窓の外を眺めていた。

 視線を変えて反対側には、にこやかな『氷竜アイスドラゴン』ウェーバーと、彼と言葉を交わす三人の女性の姿があった。

 その三人の女性こそ、魔法屋アンティークの三人娘……ティーナ、エリス、バレンシアだった。


 さてこの場になぜバレンシアが居るのか。それはティーナの気遣いによるところが大きい。

 元々はティーナもエリスと二人で臨時パーティに参加する予定だった。

 だが、ふとこの場にいない親友バレンシアのことを思い出し、追加でレイダーに交渉してくれたのだ。


「すまないが、追加で一つお願いできないか。帰りの護衛用に、ボクの知り合いを一人雇いたいんだ。費用は払わなくて良いから、同席させてもらえないかな?」


 ティーナが最初にそう交渉したとき、エリスは彼女がなんのためにそんな交渉をしたのかわからなかった。

 だが翌朝の出発を約束して彼らが一度近くの宿に戻った後、午後にバレンシアがお店にやって来たときにその理由がよくわかった。

 エリスがバレンシアに、午前中に『明日への道程ネクストプロムナード』が魔法屋アンティークに来たことを話すと「ええええええ!?ちょっと!!何で呼んでくれないのよ!!」と、バレンシアは大声で絶叫した。

 なんでも聞くところによると、バレンシアはこの『明日への道程ネクストプロムナード』の大ファンなんだそうだ。

「あーあ、会いたかったなぁ」とブツブツ文句を言うバレンシア。そんな彼女にティーナが「一応、バレンシアも一緒に連れて行ってもらえるように交渉しといたけど、行く?」と言ったとたん、彼女はまたも色めき立って歓声を上げた。


「行く行くうぅぅう! あたしも絶対行くうぅぅう!!」


 顔を真っ赤にしながら手をブンブン振るバレンシア。

 ……バレンシアってば、こんなに可愛いところがあったんだなぁ。そんな彼女を微笑ましく眺めていたティーナと一緒にほっこりとした気持ちになりながら、エリスはそんなことを考えていたのだった。

 そんなわけで、今回の旅には「ティーナとエリスの帰りの際の護衛」としてバレンシアが付き従っているのだった。



◇◇◇



「いやぁー、君たちのような十代の若い娘がパーティにたくさんいると、なんだか活気があって良いですねぇ」

「あはは、ウェーバーさんったらお上手ねぇ。でもそんなこと言ってて良いんですか?」

「そうですよ、バレンシアの言う通りですよ。女性だったらベルベットさんだっていらっしゃるじゃないですか。さすがにその、失礼なんじゃないですか?」

「まぁまぁエリスさん。そうは言っても彼女はもう二十代も半ばですから……おっと、今の話はここだけにしといてくださいね。私たちはずっと男ばかりのパーティだったから、こんなに女性比率が高いのは初めてなんですよ。もっとも私は『ドレイク』だから、人間の女性にはあまり興味がないんですけどね」


 そう言ってケラケラと笑うウェーバーに、思わず笑い返してしまうエリスとバレンシア。

 ウェーバーはとても魔獣とは思えないほど気さくで話しやすく紳士的な人物だった。聞くところによると、結構人間のふりをして長いらしい。

 と、それまで黙っていたベルベットがガバッと立ち上がったかと思うと、盛り上がっている四人に対して牙を向いてきた。


「ちょっと! あんたたちうるさいわよ! 馬車の中でくらい静かにしてくれない!?」

「まぁまぁベルベットさん、そんなに怒らないで。一緒に話しませんか?」

「黙りなさい、ウェーバー!」


 ベルベットの鋭い口調に首をすくめるウェーバー。

 と、そのとき。それまで黙っていたティーナがゆっくりと口を開いた。


「……そっちのほうこそしずかにしてくれないかな、オバサン」

「な、な、な、なっ!?」


 突如始まったティーナの爆弾発言に、一気に顔を真っ赤にするベルベット。


「だ、誰がオバサンですってー!?」

「だってキミは二十三歳なんだろう? 歳も年上だったら、もうオバサンで十分じゃないか? それとも『お母さん』って呼んだ方が良いかい?」

「むきいぃぃぃ! ちょっとあんた、可愛くないわねぇぇぇ!」

「えー、よく可愛いとは言われるんだけどなぁ」

「うがー!!」


 こうして突如始まった女同士の熱いバトル。

 ヒートアップするティーナとベルベットの暴言はとどまるところを知らない。

 そんな争いを横に、ウェーバーが澄まし顔を浮かべながらエリスに耳打ちしてきた。


「……エリスさん、あなたティーナさんにずいぶん大切に想われてるんですねぇ」

「えっ?私がですか?」


 ウェーバーの突然の投げかけに、戸惑うエリス。


「だって、ティーナさんはわざとあんな風にベルベットさんに憎まれ口を叩いているのですよ。ベルベットさんも悪い人ではないんですが、プライドが高くてねぇ。どうやらあなたたちが『天使』であると判ってから、なんだかヤキモチを焼いているみたいなのですよ。そんなベルベットさんのヤキモチがあなたに向かないように、ティーナさんはヘイトコントロールをしているのですよ」

「は、はぁ……」


 そうは言われたものの、私にはティーナが楽しんでからかっているようにしか思えなかった。

 まぁなんにせよ、せっかく一緒にいるのだから、できるだけ仲良くしたいな。

 そんな車内の喧騒を他所に、御者席ではレイダーとガウェインがのんびりと話していた。


「おいおい、なんか車内がえらいことになってるみたいだぜ?レイダー、いいのかい?」

「あはは、べつに良いんじゃないか、ガウェイン。なんだか華やかになったような気がするしな」

「そうかぁ? 俺にはよくわっかんねぇなぁ。俺としちゃあ、もうちっと静かな方が好きなんだが。ま、あの赤髪のねーちゃんを毎晩鍛えてやるのはちょっとだけ面白いから良いんだけどな」

「……ふふふ、素直じゃないな」


 そんな感じで、道中は非常に良い雰囲気で進んで行ったのであった。


 旅も終盤に差し掛かった夜のこと。

 野営の準備をした上で夕食を終えた七人は、それぞれに分かれて自由な時間を過ごしていた。

 バレンシアとガウェインは、日課となってしまった「剣術の稽古」を行っていた。

 初日に「あの……ガウェイン様、もしよろしければ夜の暇つぶしにでもあたしの相手をしてもらえないでしょうか?」と彼女が言い寄ったのだ。

 もちろんそれは剣術的なもののことだったのだが、勘違いしたガウェインが一も二もなく了解した。その結果、毎晩バレンシアの稽古をつけることになってしまったのだった。これはもちろん、勘違いしたガウェインが悪い。


「おらおら、もう息が上がったのか? なっさけねぇなぁ?」

「うぅううぅう、まだまだっ!」


 実はガウェインのほうも、この不器用だが真っ直ぐな女剣士のことを気に入っていた。

 そのことは、一通り稽古が終わった後の会話に現れていた。


「はぁ、はぁ、すいませんガウェインさん。毎晩毎晩あたしなんかの相手してもらっちゃって。あたしなんかの相手だったら、物足りなくてつまらないでしょ?」


 遠慮気味にそういうバレンシアに、ガウェインは餓えた野獣のような笑みを浮かべた。

 これは彼なりに、親しみを込めた笑顔だったのだが。


「いや、そんなこたぁねえぜ、嬢ちゃん。あんたを相手してると、なんだか基本を振り返るようきっかけになったぜ。嬢ちゃん、あんたは誰か腕の立つ奴の相手しているだろう?」

「えっ?」


 戸惑いながらも、バレンシアは一人の人物のことを思い出していた。

 彼女の幼馴染であり、剣聖と呼ばれる一人の少年のことを。


「あ、はい。そうですね。小さい頃からかなり腕の立つ子の相手をしていました」

「……そいつは、強えのか?」

「……はい」

「俺より強いか?」

「……はっきりとはわかりませんが、剣の太刀筋は引けを取らないと思います」


 その言葉に、ガウェインの目がぎらりと光った。探していた獲物を見つけたときの、野獣の目だった。


「ほぅ……そいつの名前を聞いて良いか?」

「シリウスって言います。いまは騎士学校に入学していますが、既に『剣聖』って呼ばれてるみたいです」

「ほほぅ、『剣聖』シリウスな。覚えておくぜ」


 一方その頃、ティーナとウェーバーもふたりで話し込んでいた。


「ティーナさん、あなたは相当な『魔力』を隠し持ってますね?」

「へぇ、わかるんだ?」

「まぁ人間じゃないですからね」

「……キミは全部それで片付けようとしてないか?」

「ふふふ、あなたには敵わないなぁ」


 ニコニコとした表情を浮かべながらも、その目は笑ってないことにティーナは気づいていた。

 だがその警戒心を解くためか、ティーナはわざとおちゃらけて答えた。


「ボクは……あいにく、自分の周りのことで手いっぱいなんだ。ウェーバーたちみたいに世界を救う気も、その逆の気もないよ」

「あはは、私も世界を救う気なんてないよ。ただ……レイダーさんについていっていれば退屈はしないと思っているだけですよ」

「退屈しのぎに世界平和を守っているんじゃ世話ないね」

「あなたも人のことを言えないのではないですか?……強大な魔力を、友達を守るためだけに使うってのも、ね」


 その質問に、ティーナはなにも答えなかった。

 自分自身、明確な答えを持ち合わせていなかったからだ。

 ふたりの間に、奇妙な沈黙が流れた。

 しかしそれはティーナにとっては意外なことに、決して不快な時間ではなかった。


 一方、こちらもゆっくりとした時間が流れていた。エリスと、彼女が淹れた紅茶を飲むレイダーだ。


「これはとても美味しい紅茶だね。こんなに美味しい紅茶はどこの王宮でも飲んだことがないよ」

「あはは、ありがとうございます。レイダーさんに褒められると、なんだか嬉しいです」


 そうやってはにかむエリスを見て、レイダーは優しい笑みを見せた。


「しかし、エリス。君は、ティーナとは違った意味で不思議な人だね」

「えっ?私が……ですか?」


 レイダーは頷きながらその理由を説明してくれた。


「ふつう『天使』っていうのは、良くも悪くもお高く止まってるものなんだ。まぁ、普通の人間以上の強大な力を持っているからね。それは仕方のないことかもしれない。だけどエリス、きみは違う。なんというか、あまりに普通なんだよ」


 そっか、私は普通にしか見えないんだ。英雄と呼ばれる人にそう言われて、エリスはちょっぴり凹んでしまう。


「あ、勘違いしないで欲しいんだが、普通というのは決して変な意味ではないんだ。なんというか……きみは天使だというのに、おごり高ぶることもなければ力を誇示するわけでもない。普通の人と変わらないように感じるんだよ」

「あぁ、それはそうですよ。私はつい最近まで『魔力』を持っていることすら知らない平凡な人間だったのですから」


 言ってしまったあと、 ちょっと言い過ぎたかなぁとエリスは少し後悔した。

 しかし、そんなエリスの気持ちを察したレイダーは、彼女の過去についてそれ以上深くは追求してこなかった。


「まぁいろいろあるだろうけど、きみは大丈夫だと思うよ。あんなにも素敵な友達がいるんだからね」

「はい、そう思います。ティーナとバレンシアが居るから、いまの私があると言っても過言ではないのです」

「そうか、それじゃあ友達を大事にしなさいね」

「ええ、ありがとうございます」


 そんな中、ベルベットはひとりぽつんと大きな木の下に座っていた。

 三人がそれぞれと話しているので、居心地が悪くなってひとりで居たのだ。


「はー、あたしってば、なにやってんだろ」


 大きくため息をつきながら、足元の地面を手に持った木の棒でがりがり削る。なんの意味もない行動を無意識のうちにやってしまっている自分に、なんだか嫌気が差してしまう。


「ひとりで勝手に嫉妬して、なんだかバカみたい」


 ベルベットは手に持っていた棒をぽいっと遠くへ投げ捨てた。

 そしてまたひとつ大きなため息を着く。


「……そんなところに居たんだ。一人でどうしたんだ?」

「んきゃあ!」


 突然声をかけられて、驚きの声を上げてしまうベルベット。声をかけてきたのはレイダーだった。


「レ、レイダー! 急に来ないでよ、びっくりしたぁ」

「それはすまなかったな」

「べ、別に……いいけどさ」


 ベルベットはそばに落ちていた石ころを拾っては遠くに投げ飛ばした。

 まるで子供のような態度にも、レイダーは黙ったままである。


「ゴメンね、なんかあたし調子出なくて……」

「そうか、まぁ気にするな」


 ふたりの間に流れる沈黙。だがそれでも、ベルベットはこの場にレイダーが来てくれたことが嬉しかったのだった。


 その日の就寝時間。ティーナ、バレンシア、エリスの三人は、特別に馬車の中で寝させてもらっていた。

 横になった状況のまま寝袋に入る三人。その他のメンバーは外のテントで眠っていた。

 ……ちなみに男性陣三人は、交代制で寝ずの番である。


「ティーナ、エリス、ありがとね。あたし……一生の思い出にできる旅になったわ」


 疲れ果てて半分眠ってしまいそうなバレンシアがそう口にした。

 うつらうつらするバレンシアの様子が面白くて、エリスはふふふっと笑う。


「本当ね。レイダーさんたちもとっても面白くて素敵な人たちだし、私も来れてよかったなぁ」

「……まぁそれも明日までなんだけどね」

「えっ? そうなのティーナ?」

「ああ、たぶん明日には目的地に着くよ」


 そうか、この楽しい旅が終わってしまうのか。

 そのことを急に実感させられて、少しさみしい気分になってしまうエリス。

 すーすーというバレンシアの寝息を横耳に、エリスはティーナに話しかけた。


「ねぇティーナ」

「ん?なんだい?」

「きっとまたいつか、みんなで一緒に旅をしようね」

「……」


 しばしの沈黙の後、ティーナは「ああ、わかったよ」と返事を返して来た。

 その一言に安心したエリスは、あっという間に眠りの世界へと落ちて行ったのだった。


 そうして翌日、一同は目的地である『グイン=バルバトスの魔迷宮』に到着した。

 エリスがティーナに聞いた話によると、この魔迷宮は以前『魔王』と呼ばれる存在が住んでいた場所らしい。

 今から五年ほど前にも、その『魔王』が復活か再臨かなにかをしそうになったそうだ。

 それを阻止したのが、ここにいる『明日への道程ネクストプロムナード』のベルベットを除いた三人である。

 ちなみに彼らが五年前にこの魔迷宮に入宮エントリーする際に手伝った二人の天使が、デイズとティーナだったのだそうだ。


「いやー、懐かしいなぁ。五年前となんも変わってないや」


 そう言いながら入り口の門を見上げるティーナ。

 彼女の横では、これからこの魔迷宮に入宮エントリーする四人が出発の準備をしていた。


「しっかしなんかすごい所だよね。まさに『魔王さまの居城』って感じだよね」

「うん……。私たち一般人には縁のない場所だよね」


 などと雑談を交わしていたバレンシアとエリスに、ティーナが「だーれが一般人なんだか」と言いながら割り込んできた。

 そして、簡単にこの魔迷宮の入宮エントリーの仕方を教えてくれた。

 なんでもこの魔迷宮は非常に特殊な構造をしていて、入り口の門の周りに大きな四つの偶像シンボルがあり、四つそれぞれに『天使級の人間の魔力』をぶつけることによって開くのだそうだ。

 五年前に来た時には、レイダー、ウェーバー、デイズ、ティーナの四人の天使が魔力をぶつけることで、この門が開いたらしい。


「よし、準備ができた!それじゃあさっそくやってみようか!」


 レイダーの一声で、いよいよこの『門』を開けることになった。

 まずはレイダーが左腕に嵌めた腕輪を右手で掴んで力を込める。

 すると、鋭い光とともに彼の背に真っ白な翼が具現化した。

 続けてウェーバーが首から下げたごつい首飾りを握りしめ、同様に天使化する。


「よし、次はボクらの番だね」


 ティーナの言葉にエリスは頷くと、二人同時に『天使の器オーブ』を空に掲げて……天使化した。

 その様子をバレンシアは眩しそうに、ベルベットは羨ましそうに見ていた。


「さぁ、準備はできたかな?それじゃあ、わかってるとは思うが……それぞれがあの偶像に魔力をぶつけてくれ」


 レイダーの指示のもと、四人はそれぞれが担当する偶像に、自分の『魔力』をぶつけた。

 強烈な光が、その偶像を包み込む。

 ……するとどうだろう。ごごごごごご、という大きな音と共に、ゆっくりと扉が開いたのだった。


「よし、成功だ!」


 レイダーが、そう宣言した。

 それは同時に、この旅の終わりを意味していた。



◇◇◇



「それじゃあきみたちにはお世話になったな。これが約束の報酬だ」

 レイダーにたっぷりのお金をもらってホクホク顏のティーナ。

 それで、この『明日への道程ネクストプロムナード』の一同とはお別れだった。


「また会おう!きみたちのことは忘れない!」

 レイダーが爽やかな笑顔を浮かべながら三人と握手をした。


「嬢ちゃん、楽しかったな!またチャンバラしようぜ!」

 ガウェインが、ニヤリと笑ってバレンシアの肩を叩いた。


「あなたの悩みが、綺麗に晴れると良いですね」

 ウェーバーが目を細めてティーナの頭を優しく撫でた。


「あたしは……きっとあんたたちに追いついて、追い越して見せるからね!」

 ライバル心剥き出しにして、ベルベットがそう宣戦布告した。

 そして最後に、レイダーがエリスのそばに近寄ってくると、こう耳打ちしてきた。


「エリス、ティーナのこと……よろしくお願いするよ」

「え?あ、はい!」


 こうして、彼らは『魔迷宮』の中へとエントリーして行ったのだった。


「あーあ、行っちゃったねぇ。結局彼らは何のためにこの迷宮に入るんだろう」

「それはお互いのためということで秘密だって言われたよ。まぁこっちも秘密という意味では弱みもあったからね。あえて深くは追求しなかった」

「そっかぁ」


 そんなバレンシアとティーナの会話を、私はぼーっとしながら聞いていた。

 最後にレイダーさんが言った言葉の意味を考えていたからだ。


「エリス、最後にレイダーに何って言われてたの?」

「え?いや、その……」


 バレンシアの問いかけに答えられずオロオロしていた私に気づいてか、ティーナがすぐに助け舟を出してくれた。


「よーし、こんなところに居ても仕方ないし、さっさとイスパーンの街に帰ろっか!……懐も少しあったかくなったしね」

「あー!ずるーい!いくらもらったの?」

「ちょっと、あたしの分もあるよねっ?」


 ニシシと笑うティーナに、私とバレンシアが思わず反応する。

 歓声と笑い声が、誰もいない迷宮の入り口の前で花火のように弾け飛んだのだった。


 こうして、エリスたちのささやかな旅は終わりを告げたのだった。

 だが、エリスたち三人の別れのときがもう間近に迫ってることを……このときの彼女たちはまだ知らなかった。

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