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番外編 私とファンクラブ

茨木さんがお見舞いに来てくれてから3日が経った朝、その事件は起こった。

一昨日と昨日の2日間は学校と家の往復しか母から許可されず、素振り練習も論外ということでバッドも没収されてしまった。


石田君からもらったマスク(従来のものより息苦しい)と風邪薬常備でつまらない2日間を過ごしていたが、3日目の朝にようやく寄り道許可がおりたのだ。

ハレルヤ!と意気揚々と家を飛び出した私はマスクのない爽快な空気を思いっきり吸いつつ学校まで走り抜けた。もともとは風邪を引いた人らしく、とぼとぼと周りの同情をかうように歩いて登校しようと思っていたのでいつもより早く着いてしまった。

玄関を通り抜けて下駄箱で出会ったのは、顔は知っているけど名前は知らない同じ学年の女子生徒2人だった。


私の下駄箱に手紙を入れようとしていたところだったらしい。

元来、手紙とは口に出しにくいものを文章にしたためたものだと思う。

しかも本人に直接手渡す気がなかった様子からすると私はこの現場に居てはいけなかったようだ。

つまり、気まずい。下穿きを脱ごうとしていたまま停止状態に入ってしまった現在の私のポージングは社会の教科書に乗っている猿から人への過程の絵にそっくりだ。2人の女子生徒も私の下駄箱に手をかけたまま止まっている。そのまま30秒程たっただろうというとき、先に動いたのは手紙を持っていた人だった。

「これ。渡すように頼まれたの」

「あ、はい。」

2人は私が手紙を受け取るやいなや、もう用はないとばかりに足早に去っていってしまった。

そこでようやく静止状態を解除した私。無意識に受け取った手紙を見てみると可愛らしい字体とは裏腹にでかでかと書かれたお呼び出しの文字。

緊張が走る。そうだ、あの2人見たことあると思ったら東野君のお昼によく同行していた人だ。

恐る恐る手紙を開いてみる


望月 早紀さん。

放課後第2体育館裏に来てください。

お話したいことがあります。

東野ファンクラブ幹部一同


ぶわ、と体から汗が出でいくのを感じる。どっきりの可能性を考えて紙の隅々まで目を通すが何も出ない。


茨木ファンクラブは基本的に静であり、過激な行動をしないのが特徴である。某ファンクラブ幹部石田君曰く、世の酸いも甘いも味わってこその人生だよね。ということで基本的には茨木さんに彼氏はもちろん友達がいなかろうが何もしない。正直可哀想じゃないかと思うが、私という存在が出来た後もなにもしてこない辺り、徹底されているようなので結果オーライである。


それに比べて東野ファンクラブは動だ。

東野楓は皆のもの!だから皆で王子様を守ろう!がモットー。

かなりオブラートに包んで言ってみたがようするに、抜け駆けすんじゃねーぞコラである。

最近東野くんが取り巻きを一人残らず一掃してしまい、そんな時に私のお見舞い&アドレスを聞かれたものだから鬱憤がどーんと爆発してしまったのではないだろうか。

教室に入ってみると意外にもクラスメイトの女子達はいつも通りだ。

おそらく情報は幹部にしかいってないのだろう。

原因は私が昨日美術室に携帯を落とし、放課後先生から返されるまでの期間しか考えられず、誰も責められない歯痒い気持ちを抱えたまま1日が過ぎてゆく。


誰に相談していいかも判らず、ずっと下を向いていると風邪がまだ治ってないと思ったのか皆私に近づいてこなかった。病原菌扱いひどい。唯一茨木さんだけは心配そうに私の周りをおろおろと回っている。またさらにその周りをカメラと一緒に回る茨木ファンクラブというシュールな構図、かれこれ10周目になる。目が回るからやめてほしい。

諸悪の根源、東野君に至っては朝からファンクラブ女子につれられてどこかに行っている。今日はいつになくごり押しをされたため断れなかったんだろう。

私は行く前の誰に聞かせるでもなくした舌打ちを決して忘れない。怖い、東野君普通に怖い。


5時間目が終わり、心臓がばくばくしすぎていよいよ弾けるぞという時に、過去東野ファンクラブに連れ去られたことがある経験者を思い出した。私はその人物の背中を視界に入れた瞬間その逞しい背中に手をクロスさせたままダイブした。


「助けて石田くん!!」

「ぐふっ、どうした望月。」

「これ読んで!」

「お呼び出し?東野のアドレス知ったからか。」

「だと思う!どうすればいいの!?」

「落ち着け。お前なぁ、俺がマッチョだからってなんでも出来るって思うなよ?」

「思ったこともないよ!ぶざけてないで助けてよ!!」

「わかったわかった。俺が先輩から教わって魔法の言葉を教えてやるよ。騙されたと思ってやってみな。その言葉は・・・」

私は藁にもすがる思いでその言葉を聴いた。



――――――――――――




放課後、私は東野ファンクラブ幹部ご一行とともに体育館裏にいた。

幹部は顔で選んでいるのかというぐらいに可愛いから美人まで様々な見目うるわしい顔ぶれが揃っている。人数はぴったり10人。

そのうち茶髪の愛されゆるふわカールの女性が先陣をきって話しはじめた


「来てくれてありがとう。突然呼び出してごめんなさい。東野様のことでお話があるの」

「ふぇぇ。」

「は?あなたふざけているの?」

「すみません、なんでもないです。」

「まぁいいわ、それでね・・・」

怪訝な目はされたもののスルーしてくれた愛されカールさんに心から感謝したい。

おい石田、どうゆうことだ。普通には?って言われたんですけど!

冷静に考えてみてふぇぇはない。ありえない。なんで私は口に出してしまったのだろう。

後で文句を言っても「な!騙されただろ」って言われる自信がある。

もう恥ずかしいし家帰りたい。

「ってわけなの。どうしてか理由を茨木さんに聞いてもらえないかしら。」

「えっ?なにがですか?」

「もう!ちゃんと聞いてよね!」




―――――――――――――――



「つまり、何故東野が自分達に冷たくなったのか、理由を聞いてほしいってことね」

「うん、でも茨木さんに直接話しかけられないから私に遠まわしに頼んだみたい。」

「直接でも構わないのに。理由も一つしかないしね。」

「えっ、理由知っているの?」

「うん、でも望月さんには秘密。」

ふふと笑った茨木さんはそのまま人差し指を口元に持っていった。ひみつのポーズがこんなに様になる人はいないと思う。茨木さんならあの自爆型爆弾ふぇぇ、すらも日常の一部に同化できるんではないかと思う。


ちなみに理由については最後まで教えてくれなかった。



余談だが石田君については呼び出し理由を最初から知っていたらしい。

行動の東野だとしたら情報の茨木らしい。なんだそれ。

だったら私が相談した時点で教えてくれよと思ったが案の定、茨木さんにお見舞いをされた私に嫉妬。危険はないという事で、ファンクラブ幹部が全員一致で教えない方向に決まったらしい。



茨木さんにちくってやろうと思った。

知らぬ間に評価があがっていて驚くばかりです。

ご閲覧ありがとうございました。

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